決着のとき

 

 

冒険の書:P57

 

 ついにやって来た。

 大魔王ミルドラースが住むという、エビルマウンテン。

 麓に立っただけで、そのおどろおどろしさが伝わってくる……。

 漂ってくる威圧感に思わず身がすくむが、……大丈夫。僕には仲間達がいる。

 それに……。

 僕は、そっと命のリングを握りしめた。

 それに、母さんも見守ってくれているはずだ。

 父さんも…きっと………。

 

 意を決して、僕は、山へと足を踏み入れた。魔の総本山だけに、きっと魔物達がウジャウジャわいて出てくるんだろうと覚悟していたのだが、意外にもそんなことはなく、外とあまり出現率は変わらない。種類も、魔界に棲息しているのが主で、見たことがないのもいるにはいたが、とりたてて強力なわけではない。……いけそうだ。

 そんなわけで、思ったよりも簡単に進み、山頂へとたどり着く。

 そこではさらに嫌な気配が濃くなっていたのだが、同時に、ひどく懐かしい、温かい空気も流れているのを感じた。

 ……一体何なのだろう。

 これは…まさか……。

 はやる気持ちを抑えながら進んで行くと、一際高い所に祭壇があるのを見つけた。その上に立つ、エルヘブンの衣装を着た女性。

 母さん………!?

 駆け寄ろうとした時、下にいたダークシャーマンが邪魔に入ったが、もちろんそんなの敵ではない。軽く倒した。ただ、その時彼らが「マーサさまは今ミルドラース様のために祈りを捧げている」と言っていたのが気になった。

 まさかとは思う。でも……。

 大神殿の例もあり、思わず駆け寄る足を鈍らせてしまったところ、壇上の母が振り返った。

 ……そのまなざしの、なんと温かかったことか!

 母の言葉。

 その言葉から、母さんがどれだけ僕のことを愛してくれていたかが痛いほど伝わってきた。

 こんなにも、僕のことを想ってくれていたなんて……!!

 僕は、すぐにでも母さんの所に駆け寄っていきたかった。

 思い切り抱きしめたかった。

 でも、その前に母は言ったのだ。

 もう思い残すことはない、この命にかえてもミルドラースの魔力を封じてみせると。

 ………そんなことはさせられない!!

 そう思ったけれど、何故か身体が動かない。

 心の中で焦燥が渦巻き、僕は、ただただ立ちつくす。

 

 そんな中でも儀式は進み、母マーサは空に向かって両手を掲げ……

 ―その時。

 突如、巨大な火球が天から降り注ぎ、マーサを襲った。

 この火球…まさか……!!

 胸の中が、黒い憎しみでいっぱいにあふれ出す。

 予想に違わず、その直後、降ってきたのは忘れようにも忘れられない、あの、ゲマの声。

 ……ゲマ。

 お前は僕の目の前で父を殺し、僕とヘンリーを大神殿に連れ去った。

 次に会ったときは、僕とビアンカを石にした。

 その次にボブルの塔で再会し、初めて一矢報いることができたが、とどめを刺すには至らなかった。

 その後大神殿で会った時も、取り逃がした。

 だが、今お前はこうして、僕の目の前にいる。

 そして、母さんに危害を加えたのだ。

 何度もお前に苦渋を飲まされてきたが、今度こそ逃がしはしない……!!

 お前にも、もう後はないはず。

 さあ、決着をつけよう、ゲマ……!!

 

 そして、戦いが始まった。

 この戦い、決して負けるわけにはいかない……!!

 因縁の相手なので、奴は家族四人で倒すつもりで挑んだ。まず、星降る腕輪を装備したキラがフバーハを。ビアンカは僕にバイキルト、レティはルカナンを試してみたが、きかなかったので、次からはイオナズンを連発。次ターンからの基本的な行動パターンは、僕がひたすら攻撃、キラはスクルトの後攻撃、及びピンチの人にベホマの役割も。ビアンカは、キラにバイキルトをかけた後は、メラゾーマと賢者の石を適宜使い分ける。途中、僕が一度マヒしてレティにストロスの杖で治してもらうという一幕があったが、それ以外は陣形を崩すことなく、危なげなく戦闘を続けることができ、意外に早く倒すことができた。

 呆気ない……あの憎いゲマが……

 こんな…こんな奴に、父さんは……母さんは……みんなは……!!

 ゲマへの憎しみは、奴を倒してもそう簡単には消えない…が、もういい……とにかくもう、ゲマは倒したんだ……。

 ゲマを倒したのに、何だかその分、妙にぽっかりと心に穴があいたような気分だ。

 でも、僕は…その穴を埋めるものを知っている。

 

 母さん……。

 

 やっと母さんに、会えたんだ……。

 

 だが、駆け寄ろうとする僕を制し、儀式の続きを始めた。

 母さん…ひどい傷を負っているみたいなのに……。

 母さんは、自分の身も構わず、ミルドラースの魔力を封じようとした。

 だがその時、突如鳴り響いた雷鳴。

 ふと気がつくと、母さんは、雷に打たれて倒れていた……。

 

……母さん!!

 

 それでも母さんは、なおも儀式をやめようとしない。

 たまらなくなって、僕が母さんを止めようとした時、どこからともなく不思議な声が聞こえてきた。

 不思議な…とてもなつかしい声……。

 優しくて…力強くて……。

 この声…この声は……。

 母さんに呼びかけるなつかしい声。

 その声とともに上空に現れた姿。

 ……父さん!

 父さんだ……!!

 一緒に旅してた頃とは違う服装だけど、間違いない……!!

 ああ、父さん……!!

 

 父さんは、母さんを迎えにきたようだった。

 父さんの顔を見た母さんは、すごく幸せそうな顔をして……。

 父さんの差し出した手をとって、二人で空に昇っていった。

 その時父さんは言った。

 私たちはいつでもお前を見守っている、と。

 

 それは、すごく温かい……。

 結局母さんを助けることはできなくて。

 二人は遠い遠いところに逝ってしまったのだと知ってはいるけれど。

 もう会えないことを知ってはいるけれど。

 それでも、同時に。

 父さんと母さんは、僕のすぐ近くにいてくれているのだと。

 ……そのことが、よくわかった。

 だから僕は、………泣かなかった。

 

 

冒険の書:P58

 

 その後もエビルマウンテンは続いた。祭壇までの道のりは遠く、すべる床やパズル床など、変わった仕掛けもたくさんあったが、父さんと母さんが見ているのだと思うと……弱音を吐いたりするわけにはいかない。これからは……本当に、僕が、全てを考え、判断していかなくてはならないのだ。僕が心の支えとしてきた人は……本当にもう、いないのだから。僕が、支えにならなければならないのだから。

 でも、父さんと母さんが見守っていてくれる…それにみんなも……。だから、困難に負けることは、僕には考えられなかった。

 そうして、僕はエビルマウンテンの仕掛けも次々にクリアしていった。一見難しそうに見えるパズル床も、右列には全く手を出さずに、左回りに動かしていけば、あっさりと解決。

 

 そして……僕たちはついに、辿り着いた。

 全てのはじまり、諸悪の根源、大魔王ミルドラースのもとへ!!

 

 大魔王は、一見すると、かなりの老人のように見えた。

 しかし、ただ立っているだけなのに、びりびり伝わってくる、この威圧感……!!

 この威厳。

 ゲマやイブールのことなど一顧だにしない口調……。

 器が違う……!

 これが……魔界の王……!!

 

 いや……怯んではいけない。

 僕だってパパスとマーサの子、一国の王だ。

 二人の子供の父親でもある。

 勝たなければならない……!!

 

 覚悟を決めて、僕は大魔王と対峙した。

 

 まず、僕、ピエール、キラ、レティを前線に出す。キラはまずフバーハ、次いでスクルトも担当。その後は攻撃と回復を適宜使い分ける。最終局面ということで一度ミナディンを放ってみたが、これがどうもたいしたダメージにはならないようなので、それ以後は個々で攻撃することに。僕とピエールはひたすら攻撃、レティは各人の攻撃力をバイキルトで強化した後、イオナズンを連発。ミルドラースは配下の魔物を次々と呼び寄せたが、イオナズンなら、キラーマシン以外のこれらの相手にも有効なので、そういう面でも助かった。そうして、防御を固め、慎重に戦った結果、やや時間はかかったものの、一人の死者も出すことなく、大魔王を倒した。

 苦戦したのは確か……だが………だが、これが本当に、母の魔力をも退けた、大魔王の実力なのか?

 満身創痍ながら、もっときつい戦いを予想していた僕の胸中に、そんな疑惑がふとよぎる。

 すると、そんな僕の疑惑を裏付けるかのように、ミルドラースが起きあがり……僕たちに呪いの言葉を吐く。自分が不利だなどとは、少しも思っている様子がない……。

 僕たちが見守る中、奴の身体は徐々に膨らみ始め……奇怪な形に変貌を遂げた。

 さっきのミルドラースからは、王の威厳といったものが感じられたが、今の奴は……醜悪な…ただの、「化け物」……!!

 そう……それはまさしく、「化け物」という形容がふさわしい生き物だった。

 僕たちは、始め、その異様さに圧倒された。だが…立ちつくしている暇はない!!戦わなければ!!

 キラはまたフバーハ、レティはビアンカと交代させて、ビアンカにメラゾーマを撃ってもらったのだが……これが失敗だった。ミルドラースの体には、いつの間にかマホカンタがかかっていて、ビアンカは大ダメージを受けてしまったのだ。初っぱなから、これは痛い。

 ミルドラースは、姿が醜悪になっただけではなく、その力も格段に上がっていた。炎は強力、攻撃力も桁外れで、その上二回攻撃してくる。素早さが低く、こちら全員が先に攻撃できるのが、救いといえば、救いだが……とにかく、今までのやり方では駄目だ!陣形を変えよう!もっと守備を固めなければ!!

 ピエールをHPの高いサンチョと交代、盾にすると同時に、ひたすらスクルトを唱えさせて、守備を強化。ビアンカはバイキルトの後、賢者の石とメラゾーマを使い分ける。メラゾーマが非常によく効くので、ビアンカを回復役にするのはもったいない。賢者の石は別の人間に持たせておけばよかったと悔やむが、後の祭り。

 ……まあ、今さらそんなことを考えていても仕方がないか。

 しばらくはこの方針で続けたが、バイキルトはよく凍てつく波動でかきけされるし、フバーハやベホマラーを頻繁に使用していたキラのMPが心許なくなってくるしで、途中からまた方法を変えざるをえなくなった。

 まず、入れ替えで僕、ピエール、キラ、ビアンカの四人を前線に出し、キラはフバーハの後、すぐにサンチョと交代、サンチョはひたすらスクルト……という手順である。ちなみに、この頃になると、かき消されるのが嫌なのでバイキルトはあきらめた。かけ直すより、メラゾーマをお見舞いする方が、ダメージも大きいような気がする。

 かなり苦しい戦い。

 2〜3人が一度に「あと一撃受けたら死ぬ」という状況に立たされ、ベホマラーでは追いつかない状況に立たされたことも何度か。そんな時は、一時的に誰かをベホマンと交代させ、ベホマズンを使ってもらうことでしのいだ。

 そうして、長い長い戦いの末……

 

 ついに僕たちは、大魔王ミルドラースを打ち倒した。

 

 

ミルドラースの体が、無数の光の粒に変わっていく……。

それは、数多の星となって降り注ぎ……

渦を巻き……

徐々に小さくなって…

僕たちを迎え入れた………。

 

 

 

2004.11.8

 

 

 

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