封印されし大怪獣

 

 

冒険の書:P44

 天空の城が沈んでいる湖を探し出さなくてはならないー。

 ずいぶん面倒なことになったものだ。しかし、もう僕たちが行っていない場所の方が少ないはず…と、待てよ……。

 地図を見ながら湖のありかを調べていた僕は、目覚めてからまだサラボナに行っていなかったことに気付いた。ルドマンさんには色々世話になったことだし、やはりここは挨拶の一つもしておくべきだろう。フローラやアンディがあれからどうしているのかも気になるし。

 そう思って僕は、早速サラボナに向かった。

 サラボナは、相変わらず平和で綺麗な町だった。なんだかほっとする。それに、町の人達が皆僕のことを覚えていてくれたのも嬉しかった。あれからもう8年もたつというのに……。

 ここは、僕の運命が大きくわかれた町。その町がこんなにも僕を温かく迎え入れてくれると思うと胸が熱くなる。この町は、僕の中で、色々な意味で大事な町で在り続けることができるのだから……。

 あのアンディとフローラも無事結ばれて、今では幸せに暮らしているらしい。本当によかった。二人のことは、ずっと気になっていたのだ。ビアンカもこのことは気に懸けていたから、二人の結婚を知ったらきっと安心するだろう。

 ……ああ、ビアンカ……話したいことがたくさんある……!!

 本当に君は、今どこに………?

 なんとしてでも見つけ出さねば!…と、この幸せそうな二人を見ていて、改めて強くそう思った。

 ただ、この幸せそうな二人にも、気がかりなことはあるようだ。何でも、ルドマンさんの様子がおかしいらしい。何やら深刻な悩み事があるようなのに、誰にも一切話してくれないので、心配でたまらないのだとか。そういえば、町の人達の間でも、ルドマンさんが何か重大な悩みを抱えているらしいことは話題になっており、皆心配していた。

 ルドマンさんと言えば、僕とビアンカが結婚するきっかけを作ってくれた上に、天空の盾と船までくれた大恩人である。これは放ってはおけない。

 僕たちは、急いでルドマン邸へと向かった。そこではルドマン夫人が、ルドマンさんのことを心配してたいそう心を痛めており、珍しく落ち着かない様子で歩き回っていた。娘の結婚相手が決まろうかという時にも全く動じなかったこの人が、である。これは、そうとう深刻なのでは……。

 僕たちもなんだか不安になりつつも、二階に行ってみると、そこではルドマンさんがこれまた落ち着かない様子で歩き回っていた。それが、ルドマン夫人となんとなく似ている気がして、夫婦なんだなあと妙なところで感心する。

 ルドマンさんは、僕に気付くと、挨拶もそこそこに、西の小島の祠にあるツボの色を見てきてほしいと僕に頼んだ。

 ツボ……?そんなの僕じゃなくても、誰にでもできそうなことなのに……何をそんなに悩んでいるんだろう?

 でも、とりあえずここは、そのツボの色とやらを見に行こう。誰にも悩みを打ち明けようとしなかったルドマンさんが、僕を頼りにしてくれたのだ。これは、期待に応えたくなるではないか!!

 ルドマン夫人や、フローラとアンディも、僕を信頼し、頼りにしてくれている。たかが二つのリングをとってきたぐらいのことで…なぜここまで信頼してくれるのかはよくわからないが、それはなんとなく嬉しいことだった。

 早速ルドマン邸を出て西の祠とやらに行こうとすると、玄関にいたメイドが、以前ルドマンさんの読んでいた古い日記に何かあるのではないかと教えてくれた。気になったので、早速調べてみることにする。と……意外なことがわかった。

 ルドマンさんの先祖ルドルフは、雲をつきぬけ天まで届くほどの巨大な怪物をツボの中に封印したが、そのツボの効力はせいぜい100年…もって150年くらいだというのだ。そして、ツボの効力が切れる時、ツボは赤く光る…とも書いてあった。

 なるほど、そういうことか。おそらくルドマンさんが、その150年目に運悪く当たってしまったルドルフの子孫、というわけなのだろう。それにしても、天まで届くほどの怪物か……。見てみたいような、絶対見たくないような。仲間にできたら面白いだろうけど、戦うことになったらやっぱり大変そうだ。

 とにかくそういうことなら、急がなければならない。もしその巨大な怪物とやらが復活したら、大変なことになる。

 僕たちは大急ぎでその祠に行ってみた……が、予感的中。祠の底に安置されていたツボは、不気味に赤く光っていた。ツボ自体は、魔物が封印されてるとは思えぬたいそう可愛らしいデザインなのだが、中に何かいるのは確かなようで、時々何か物音がする。うう、中にいるのは実はかわいいハツカネズミ(に変身させられたどこかの王子)とか、お茶目な魔神(くしゃみをしたら飛び出してくるのがいる、という話を昔サンチョに絵本で読んでもらったような気がする)………なんてことはないんだろうなあ、やっぱり。このツボを見てるとあんまり怖そうな魔物、という感じはしないのだが、見た目が可愛くても手強い相手というのはいるからなあ……。

 とにかくこの感じだと、例の怪物が出てくるのも時間の問題だろう。僕たちは急いでサラボナに戻った。

 入口にいた兵士が、ルドマンさんは見晴らしの塔にいると教えてくれたので、そこへ向かう。ルドマンさんは、その頂上で落ち着きなく歩き回っていたが、僕たちの姿をみとめると、すぐに駆け寄ってきた。そして、僕たちの表情を見て、全てを悟ったようだった。僕たちに簡単に事情を説明した後、戦いの支度をしてくるからここを見ていてくれと言い残して、急いで塔をおりていった。

 ……支度してからここで待っていればよかったんじゃないかと思うのだが……入れ違いになったら困ると思ったのだろうか。それとも、その「支度」は、実際に戦う直前じゃないとできないようになっているのだろうか。手に入りにくい消費アイテムを大量に使うとか。

 ま、何はともあれ、僕たちはここで異常がないか見張ることになった。ここは、名前の通り見晴らしがよくていい眺め、なのだが……こういう状況では景色にみとれてくつろぐわけにもいかないし、かといって、他にすることもないので暇である。

 ……緊張を維持するのにもそろそろ疲れてきたころ、それは起きた。

 遙か遠くで、一条の赤い光が天に向かって放たれたのだ。

 ……あの祠のあたりだ!!

 そこに、何か巨大な気配が生じたのがわかる。

 空は異様に赤く染まり、不気味な風がザワザワと梢を揺らす。

 僕たちは、固唾を呑んで次に起こることを待った。

 ……遠く、祠の方から地響きが聞こえる。それは徐々に近づいてきて、奴に比べれば石ころのようなルドマン邸のすぐ横を通り抜け、僕たちの目の前に立った。

 ………大きい。なんという巨大さだろう。

 これだけ高い塔のてっぺんにいてなお、見上げなければ奴の顔を見ることもできない。天まで届くほどの怪物、というのは本当だった。

 これまでにない緊張感。背筋がゾクゾクしてくる。

 奴―ブオーンと名乗ったーは、僕たちを見つけ、ルドルフはどこだと問いかけた。……もういないのが、わからないのだろうか…?そういえば、巨体のわりに、どことなく間抜けそうな顔してるし、人間はそんなに長生きしないということがわからないのかもしれない。だが、奴は、僕の返事を聞く前に、肩慣らしに僕たちから血祭りにあげてやる、などといって攻撃してきた。肩慣らしなんて言って、それで負けたりしたら、すごく格好悪いぞ……。

 しかし、こうなったら、こちらも戦わざるをえない。その時僕と一緒に塔にいたのは、キラ、レティ、サンチョ。僕たち4人で、奴と戦わなくてはならない!

 奴が炎や吹雪を吐いてくる可能性を考慮して、まずキラが、フバーハをかける。今回彼には、特別に星降る腕輪を装備させておいたので、真っ先に行動できるのだ。次いでレティが、メタルキングの剣(ピエールから借りた)を装備した僕にバイキルトをかけ、僕は打撃、サンチョはスクルト。基本的に、僕はひたすら打撃で、キラは基本的には打撃攻撃をしつつ状況に応じてベホマラー。サンチョも、基本的には打撃ながら、常にスクルトで我々の守備力を最大にあげておくよう心がけさせておく。レティは全員にバイキルトをかけた後、奴にルカナンをかける。手のあいている時はマヒャドを。

 全体攻撃の稲妻を使ってきたりして、なかなか手強かったが、皆レベルも装備も充実させておいたおかげか、誰も危機に陥ることなくブオーンを倒すことができた。

 ブオーンの巨体が地響きをたてて倒れた後、その衝撃でか、奴の口から何か光るものが飛び出てきたので急いでつかまえてみると、なんと、最後の鍵だった。……やった!!最後の鍵……これで、あそこの宝箱や、あそこの秘密部屋に……。考えると、自然と笑みがこぼれる。ああ、でも、その前にルドマンさんにこのことを報告しなければ。僕たちは、早くルドマンさんを安心させてあげようと、大急ぎでサラボナに戻った。

 ことの次第を知ったルドマンさんは、とても喜び、大声で笑った。もともと豪快な笑い方をする人だったが、こんなに嬉しそうに、豪快に笑うのを初めて見た気がする。たぶん、ルドルフの日記を読んでから、ブオーンのことがずっと気にかかっていたのだろう。今はじめて、心の底から笑えたのかもしれない。

 ルドマンさんの力になることができて、本当によかった……!!

 この豪快な笑い声を聞いていると、心の底からそう思える。この笑い声を聞いていると、僕も心の底から愉快になってくるのだ。世界中の人達が、こんなふうに笑える日が来るといいのだけれど。きっと、そうしてみせるぞ!!

 ルドマンさんが元気になったことで、関係者はもちろん、町のみんなも安心していた。それだけ慕われているのだろう。

 それにしても……あんな大きな怪物が町のすぐ側を通っていったのに誰も気付かないなんて、この町の人達はずいぶん呑気だ。地響きは聞こえたそうだが、誰もそれを確認しようとは思わなかったらしい。ま、おかげで無用の混乱を招くこともなくすんだのだが……。

 とにかく、破滅は未然に防ぐことができた。倒れたブオーンは、ルドマンさんが念のため、もう一度厳重に封印しなおしたらしいし、ここはもう心配ないだろう。最後の鍵というおまけまで手に入ったことだし、そろそろここを出て、今まで開けることのできなかった扉を開けてまわることにしよう。

 そう思い、僕たちはルーラでグランバニアやオラクルベリー、メダル王の城と次々まわり、今まで開けることのできなかった扉を開けていった。今までびくともしなかった扉がいとも簡単に開く。それが、なんとも快感である。

 幸せの帽子のような、貴重な防具も手に入った。喜んで、これはレティに装備させる。丁度彼女はイオナズンを覚えたばかり。これがあれば、呪文は使いたい放題だから、一気にパーティーの主戦力!!実にありがたい。黄金のティアラも手に入れたが……やはりレティには何の気兼ねもなくどんどん呪文を使ってほしいので、こちらはビアンカのためにとっておこう。小さなメダルも何枚か入手し、これで丁度50枚揃った!!早速メダル王にメタルキングの盾と交換してもらい、ピエールに装備させる。守備力が格段に上昇したので驚いた。さすがはメタルキングシリーズだ。ピエールがそれまで使っていた風神の盾はサンチョにまわし、こちらの守備力も大幅に強化された。よしよし。これでもう、こわいものなしだ。

 天空城を探すのに、少し回り道になってしまったのかもしれないが、得たものは大きい。これも決して無駄ではなかった。サラボナの危機を救えたし、装備も大幅に強化できた。何より、困難に思える湖探しもそれほど苦には思えなくなった。いつの間にか、切羽詰まった気持ちや徒労感、焦燥感といったものが薄れ、不思議と気が楽になっていた。どこからか底知れない活力がわいてきて、余裕が出てきたのだ。ルドマンさんの笑い声をきいたせいかもしれない。

 そして、そんなふうに前向きな気分でいると、不思議と本当に道が開けるもの。……やがてほどなく、僕たちは、エルヘブンの少し南に、湖に沈む城を発見した。

 

 

 

2004.8.11

 

 

 

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