時は流れて

 

 

冒険の書:P40

 

 グランバニアを出た僕は、まずラインハットへ向かった。なんといっても、あれから八年がたっている。ヘンリーがどうしているのか、気になった。

 ラインハットは今やすっかり平和そのもの。あの秘密の地下道も埋め立てられて、もはやあの内乱の面影もない。まあ、平和な時は平和なときで、泥棒なんかも出たりしているようだが……。城の影で、あのカンダタの子分だという男を退治した。取り逃がしはしたが、盗んだものは置いていったようだ。何かと思って見てみると、これが魔神の鎧。趣味悪い……。呪われてるから装備なんてできないし、高く売れるわけでもないのに、どうしてこんなものを盗んだのやら。

 とはいえ、盗賊が出没したからといって、別にラインハットの警備が特別に緩いというわけでもないらしい。内乱後のゴタゴタも治まって、かつてのように…僕が初めて父さんに連れられてこの城に来たときのように、城の前には門番が立つようになっていた。僕としては、グランバニアみたいにノーチェックの方が好きなんだけど、さすがにそうもいかないか。グランバニアと違って、誰でも気軽に来れる場所に城が建っているんだし。

 門番はちゃんと僕の事を覚えていて、すぐに通してくれた。それにしても、懐かしい……。ヘンリーと、こっそりこの城の中を駆け回っていた時のことを思い出す。そして、見事目的を成し遂げた日の事を。みんな、とても嬉しそうな顔をしていた……。

 僕は、今となってはもう、ここには懐かしさを感じるばかり。でも、サンチョは違うようだった。

 サンタローズを焼いたラインハット。

 ラインハット王に呼び出されたきり、戻ってこなかったパパス……。

 それがどうしても頭を離れないのだろう。……そういうものなのかもしれない。

 僕の場合は、サンタローズが焼かれる所を直接見たわけではないし、父パパスを殺された恨みは、全てゲマと…光の教団に向けられている。むろん、ラインハットに対して、当初含むところがなかったわけではないけれど、なんといってもラインハットは、長い間苦楽を共にしたヘンリーの国なのだ。今さら憎むことなどできようか。サンチョも、あのニセ太后との戦いに参加していれば、少しは気持ちの整理もついたかもしれないのだけれど……。

 でも、二人の子供達が元気に城内を駆け回る姿を見ていると、そんなことは些細なことに思えてくる。何もかもは、もう遠い昔のことで、今はただ、元気な子供達の姿だけがある……。なんだか胸が熱くなった。

 そのまままっすぐ階段を上り、玉座の間に。デール王も僕のことを覚えていてくれて、歓迎してくれた。ヘンリーは、8年前と同じように上の部屋にいるという。早速行ってみた。

 扉を開けると、そこには……昔のヘンリー!?

 一瞬ヘンリーが小さくなったのではないかと思ったけれど、部屋にはちゃんと現在のヘンリーがいる。それに、マリアも。とすると、これは、ヘンリーの子供なのか?僕に子供ができたように、ヘンリーにも子供が……。

 もっとよく見てみようと足を踏み入れると、そのミニヘンリーは「なんだお前はっ!?」といきなりかみついてきた…が、それで母親の側に走りよっていくところがまだまだ子供。生意気と感じる前に、可愛いと思ってしまう。

 ヘンリーは、そんな子供を叱りつけると、やおらこちらを振り返り、「いや申し訳ない。私の息子が失礼を……」などと常識人らしく話しかけてきた。

 ヘ…ヘンリー……何か悪いものでも食べたのか!?

 あのヘンリーが、こんなまともな挨拶をしてくるなんて…これじゃあまるで、ヘンリーが立派な大人みたいじゃないか……!!

 根っからのガキ大将のヘンリーが、こんなに紳士的な振る舞いを見せるなんて……こいつ、本当に本物のヘンリーか?ひょっとして、また魔物が化けてるなんてことは……。

 と、呆気にとられた僕が、袋からラーの鏡を出そうとしていると、ヘンリーはやってきたのが僕だと気付き、途端に相好を崩した。猫を被るのもやめ、すっかり元の気さくで賑やかなヘンリーに戻って、僕を大歓迎してくれた。心底再会を喜んでくれているのがわかり、僕はとても嬉しかった。それにまた、安心もした。あんなふうに気取った挨拶をされて、ヘンリーが別の人になってしまったんじゃないかとちょっと心配だったのだ。なんだか、彼が遠くなってしまったような気がして。でも、ヘンリーはいつまでたってもヘンリーだった。

 ちなみに、ヘンリーの息子はコリンズというらしい。見た目は父親似で、髪も緑色。性格も、父親似だろうか。生意気そうにも見えるけど、単に人見知りをしているようにも見える。キラやレティよりも少し年下…だろうか。

 僕も、ヘンリーに子供達を紹介した。ヘンリーは双子を見て、やはり僕に似ている、と感心していた。僕の目には、二人ともビアンカ似のように見えるんだけど、結構似てたりするのだろうか。だったら嬉しいけど……確かヘンリー、この前会った時はマリアに夢中で、ろくにビアンカの顔も見ていなかったような……ひょっとして、単に、ビアンカの顔を全然覚えていないだけ、とか……。

 ま…まあ……深く考えないでおこう……。

 で、子供は子供同士……ということで、二人の子供達は、コリンズ君に城の中を案内してもらうことになった。一抹の不安が胸に残るが、キラとレティならしっかりしてるし、大丈夫だろう。二対一なんだし。

 そんなわけで、子供達が部屋を出て行った後、ヘンリーと色々なことを語り合った。僕が行方不明になったことで、ヘンリーにもずいぶん心配をかけてしまったらしい。でも、ヘンリーがそれだけ親身になってくれたのだと思うとありがたかった。

 話すことは尽きなかったが、こちらもそんなにいつまでもゆっくりはしていられない。そろそろ出発しなくてはと思い、子供達を迎えに部屋を出た。

 どこにいるかわからないので、とりあえずあちこちの部屋を探し歩く。そんな中、コリンズについて、色々と面白い話を聞いた。

 話を聞く限り、ヘンリーの息子コリンズは、何もかもヘンリーの小さい頃そっくりだった。そのわんぱくぶりで城中の者を泣かせた挙げ句、召使いの頭にネズミを乗せたりして、やってるイタズラまでヘンリーそっくり!!いや、血というもののげに怖ろしきことよ。コリンズ王子のいたずらにはヘンリーも手をやいている、などという話を聞いた時には思わず吹き出してしまって、子供達に妙な顔をされた。

 自然とヘンリーの小さい頃を…そしてこれまでのことを思い出しながら、子供達を探し歩く。

 そういえば、太后はどうしたのだろう。どこに見当たらないし、話題にも上らない。もう亡くなったのかなあ……。まだ亡くなるような年齢ではなかったと思うけど、長い間の牢暮らしで弱っていたみたいだし。

 ……もう、すっかり時代は変わったんだ。

 感慨深いものを胸に抱きながら柱の間を抜けると、キラとレティがひどく慌てた様子でこちらに駆け寄ってくるのが見えた。なんでも、コリンズに子分のしるしをとって来いと言われて取りに行ったら、その間に当のコリンズがいなくなってしまったのだという。

 これ……まさか、ヘンリーが仕組んだわけじゃ、ないよな……。

 ………いや、誰の仕業か知らないが、ここまで似ているとは。もう拍手するしかない。

 子供達を連れて部屋に行ってみると、やはり部屋は空のまま。しかし、今こそ父親の出番である!!ふっふっふ、昔とった杵柄よ……父さんに任せなさい、と得意満面で椅子をどかせて階段を見せてやる。息子が素直に感心してくれるので、こちらもなかなかいい気分。いや、ようやく父親らしい事(?)ができて、鼻高々である。

 そのまま階段を下りると、昔と全く同じ所にコリンズが立っていた。……ヘンリーにそっくりの、彼が。

 ああ…そうだ……あの日も確か、ヘンリーがこうしてここに立っていた……。

 コリンズは、子分のしるしをとってこれなかったのだから、子分にはできない、と憎まれ口を叩いていた。それは、一言一句、あの日のヘンリーが言った言葉と同じものだった。

 あの日、ヘンリーはここにこうして立って、同じように僕に憎まれ口を叩いていた。そして……。

 知らず、背筋を冷たい汗が伝う。

 コリンズの声が、嫌に遠くで聞こえる。

 そうだ…ヘンリーも同じことを言って…そして……その続きを話すことはできなかった。なぜなら……。

 バンッ!!

 その時、横手の扉が大きな音を立てて開き、心臓が止まりそうになった。

 永遠にも思えた一瞬。

 目の前を横切ったのは山賊姿の……いや、違う。

 あれ………大臣……?

 大臣だ。人さらいじゃない。

 どうやら、いたずらをしている腕白コリンズ王子を連れ戻しにきたらしい。無理矢理コリンズの耳を引っぱって、ヘンリーの部屋の方に……かつて、人さらいがヘンリーをさらったのとは逆の方に歩き去っていった。

 僕はただ、その様子を、まばたきもせずに見守っていた。……動けなかった。

 ……どのぐらい、そうしていただろう。恐らくはほんの短い時間だったに違いない。でも、僕には、ひどく長い時間に思えた。レティに話しかけられて、ようやく我に返る。どうも、自分は真っ青な顔をしていたらしい。気付けば掌にも背中にも、ぐっしょり汗をかいていた。気を落ち着けようと、大きく息を吐き出す。それまで自分が息を止めていたことに、それでようやく気付いた。

 息を吐き出すと、なんだかどっと気が抜けた。かろうじて、その場に座り込むのはこらえたが。

 ……ラインハットも、平和になったものだ。

 もはや黒い影など欠片もなく、ただ明るい陽光が降り注ぐのみ、か……。

 

 僕は、気だるい午後のような妙な脱力感を抱えたまま、もう一度ヘンリーの部屋に戻った。さっきのことを知ったヘンリーが、「オレの小さい頃はもっとおとなしかったもんだがなあ」と臆面もなく言ってのけるのを聞いて、僕はおかしくてたまらなかった。まあ、マリアには黙っていてあげよう。しかし、大人ってやつは……!!ああ、笑いがとまらない。

 ちなみにそのコリンズは、相変わらずの態度ながら、ヘンリーにあやまれと言われたから、と風の帽子をくれた。風の帽子……結構な貴重品である。いくら王子だからといって、そう簡単に手に入れられるものではない。それをくれるとは……。

 そっぽを向いたコリンズを見ていると、微笑ましい気持ちがこみ上げてきた。こいつ、随分照れ屋なんだな。

 不思議だ。初めてヘンリーに会って、こんなふうに言われたときは、ただ憎らしい奴だとしか思わなかった。なんて嫌な奴だろう、と。でも、今、こうして生意気なことを言うコリンズを見ていると、可愛く思えてしまう。ちょっと照れ屋なのだ、と……。照れ屋なのはヘンリーも同じだが、あの時は、微笑ましさなどよりも、憎らしさが先に立った。

 コリンズはマリアの子供でもあるから、それでヘンリーよりも憎らしさが軽減されているのか、それとも僕が大人になったのか。

 ………本当に、長い時が流れたんだな……。

 この子達も、その時の流れの中にいるのだろうか。いずれ僕と同じ場所に立ち、同じような感慨にふける時がくるのだろうか。

 そう思うと、この世の全てが…とりわけこちらを無邪気に見上げてくる小さな双子が愛しく思えて、僕は思いきり二人を抱きしめた。

 願わくば、この子達が将来、幸福な気持ちで時間に思いを馳せることができますよう……!!

 

 

冒険の書:P41

 

 さて、ヘンリーのもとを辞去した僕たちは、子供達に戦い方を教えながら、あちこちの町をまわった。

 オラクルベリーでは、久しぶりに行ったカジノで100コインスロットをしたら、なんとスイカが5つ揃うという大当たり!!10万コインも降ってきたので、とりあえずそれでメタルキングの剣を一本もらってピエールに装備させた。ピエールの攻撃力は一気に上がり、戦闘でも桁外れのダメージを与えられるようになったので気分がいい。

 カボチ村では、時の流れが昔の誤解を消し去ってくれており、温かい気持ちになれた。サンタローズでも、小さな子供だった少年が、今では立派な武器屋になっていたり。光の教団が勢力をのばしているような気配もあり、不穏な空気が世界を覆っているとはいえ、悪いことばかりではない。長い時は、希望も同時に生み出していた。それがわかって、少しばかり嬉しくなる。

 ルラフェンでは、ベネットじいさんが無理をおして研究し続けていた呪文が完成しており、僕にそれを教えてくれた。パルプンテという。何が起こるかわからないが、とにかくすごい呪文らしい。僕にはよくわからなかったが、キラとレティは、その言葉を聞いた時、背中がざわつくような強い力を感じたらしい。そういえば、レティは動物達と話ができるそうだし、他にも、二人はいろいろと不思議なものを感じることがあるようだ。こんな時、やはり二人は伝説の勇者達なのだと思う。

 勇者といえば、もちろんテルパドールにも行った。キラは、天空の剣を装備できたのだから、ここにまつられている天空の兜も装備できるはず。…そう思って。相変わらず暑いところでサンチョなどはすっかりへばっていたが、それでも得られるものは大きかった。

 僕たちが訪れたとき、テルパドールでは、女王アイシスがもうじき勇者が現われるという予言をしたとかで、ちょっとした騒ぎになっていた。……すごいな、本当に当たるんだ。

 アイシスに会いに行くと、彼女は僕のことを覚えていてくれて、すぐに天空の兜の所に連れて行ってくれた。キラは、天空の兜を前にして、何かに憑かれたようにぼうっとしている。とりあえず、天空の兜を手にとって…これは少しキラの頭には大きいのではなかろうか、と思いつつかぶせてみると、なんと兜の方が小さくなって、キラにピッタリのサイズになった。いや、この時は本当に驚いた。しかし、もっと驚き興奮していたのはアイシスだった。無理もない。僕はキラが天空の剣を装備できたことを知ってたから驚かなかったけど、初めて知った時はやっぱり驚くだろう。キラが勇者だという話は国中に伝わり、僕たちは一躍有名人になってしまった。長年勇者を待ち続けていた国だから、その勇者が現われた、というのは他の国よりも遙かに重みを持つことなのだろう。しかし、キラはなんといってもまだ8歳。一生懸命頑張ろうとする姿は可愛いが……それでもまだ子供には違いないのだ。「でんせつのゆうしゃ」となったキラ。でも何よりもまず、彼は僕の息子なのだ。僕も「ゆうしゃのちちおや」としてできるだけのことをしよう。可能な限り、その重みを引き受けよう……。

 それにしても、キラは、あっという間に強力な装備が揃ってこちらとしても嬉しい。なんといっても、旅立ってすぐに剣、盾、鎧は既に最強のもの。買い換える必要がない。……と、こんなことで喜んでしまう自分がちょっぴり情けないが……。ま、伝説だの勇者だのといったところで、実情はこんなものである。

 その後もあちこちまわるうち、モンスターも、エリミネーターのエミリーが仲間になってくれた。

 僕はもうレベル41だし、子供達をはじめ、仲間達はみんなレベル20以上になった。とりあえずあちこちの町も見て回ったことだし、そろそろ母の故郷に行っても大丈夫だろう。

 よし、早速明日、出発だ!!

 

 

2004.8.4

 

 

 

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