新たなる旅立ち

 

 

冒険の書:P39

 

 目を覚ますと、白い天井が見えた。

 ……天井?

 天井だ……空では、ない。

 ああ、そうだ……僕はもう、石像じゃない。

 

 …まるで夢を見てるみたいだ。

 石化が解け、その後は夜遅くまでの宴。

 石になっていたのが夢なのか、それとも昨日のことが夢なのか。

 ……今もまだ、夢を見続けているのか……?

 

 確かなことが知りたくて、身を起こす。…起こすことが、できた。

 まだぼんやりした頭をはっきりさせようとしていると、気配に気付いたのか、側にいたメイドがこちらを振り向き、声をかけてきた。

 僕は、ずいぶん遅くまで寝ていたらしい。彼女は僕に簡単に挨拶をした後、銀色の美しいペンダントをくれた。なんでも、父パパスが母マーサと結婚した時の記念に作られたペンダントらしい。中に絵が入れられる予定だったが、母マーサがさらわれてしまったため、画家に絵を描かせることができず、中身は空っぽのままだとか。

 それを聞くと、なんだかせつない気持ちになった。このペンダントを握りしめていると、温かい気持ちになる…しかし、同時に、この中に入るはずだった絵の人のことを考えると、胸の中から無性に何かがこみ上げてくるのだ。

 それにしても、綺麗な細工が施してあるなあ……博物館に飾れるかも。…なんてことを考えてしまう僕は、もうすっかり名産品博物館の館長が板についてしまったのかもしれない。本業の国王や父親の方はさっぱりなんだけど。

 

 ペンダントを受け取った僕は、改めて辺りを見回す。

 グランバニア城。かつて、よく寝起きしていた部屋だ……。

 そのまま、あちこちの部屋をゆっくり歩いてみる。一歩歩くごとに、夢から覚めていくような…そんな気がした。この城にはそれほど長い間いたわけではないのに、こうして見ると、ひどく懐かしかった。

 …そうだ、叔父のオジロンに挨拶しなきゃな。

 そう思って階段に向かおうとすると、子供達が待っていた。

 ……キラとレティだ。

 二人は自分たちも旅に連れて行ってほしいとねだり、僕が返事をする間もなく後ろについてきた。僕は、ただただ呆気にとられていた。

 二人の子供は、とにかく賑やかでよく喋った。お父さんお父さん、とひっきりなしに僕に話しかけ、僕のまわりを前に後ろに、小さな体で元気に走り回りながらついてくる。

 ……ひどく、不思議な気分だった。

 ―遠い昔の自分が、ここにいる。

 

 二人の子供達ははしゃぎながら、僕に、時の流れにさらされた城の中を案内してくれた。

 8年ぶりに見るグランバニアの城は、懐かしいのと同時に、ひどく新鮮に見えた。人間は少しばかり年をとったりしているが、建物そのものは、それほど変わっているわけでもない。それでもなぜか、城の隅々までが、初めて目にするように新しく感じた。

 それはやはり、この子供達のせいだろう。二人が視界にいるだけで、周りのものも、その金髪に照らされたように、より美しく見えるのだ。一人で歩いたときとは、城がまるで違って見える。思えば、この城を誰かと話をしながら歩くなんてことは、殆どなかった。なにしろビアンカは、来るなり倒れてしまったから……。共に歩く者がいるだけで、こんなにも違って見える。特に、この二人の子供達ときたら!

 見た目が愛らしいのももちろんのこと、次々と意外なことを言い出して、退屈するということを知らないかのようだ。一緒にいるとこちらも心の底から楽しくてわくわくする。こんな気分は久しぶりだ。再会してまだ間もないけれど、もう、子供達が可愛くて可愛くてたまらない。こんなに素晴らしい子供達を授けてくれたことを、僕は心から感謝した。

 …しかし。あれから8年。変わったこともたくさんある。

 2階にはモンスターじいさんが呼ばれていたし、かつての大臣の部屋はオジロン一家の部屋になっていた。

 大臣……デモンズタワーで息を引き取った彼のことが、頭をよぎる。グランバニアだけは守ろうと魔物と取引をし、殺された彼。嫌な奴だと思っていたけれど、何故か憎む気にはなれなかった。ただ、哀れだと思った。魔物と取引をしても、第二のラインハットにされるだけだったろうに……。

 しかし8年の歳月は、彼のことを忘れさせるにも、十分だった。

 本当に、長い時間が流れた。……小さな赤ん坊が、こうして城中を駆け回るほどに。双子に案内されながら、僕は歳月の流れをしみじみと感じていた。

 僕の時間が止まっている間も、ここでは時が流れていた。

 オジロンは、僕が留守の間ずっと国のことを受け持ってくれており、これからも、ビアンカが見つかるまでの間、そうしていてくれるらしい。…本当にいい人だ。なのに、成果に比べて国民の評判は今ひとつというか……僕なんか、殆ど何もやってないのに、父さんの七光りだけで人望を集めていて、本当に、申し訳ない気がするな。

 サンチョは、だいぶ老けたような気はするものの、まだまだ健在。キラもレティも、サンチョに育てられたようなものらしく、よく懐いている。…サンチョに感謝すると同時に、僕はちょっぴり淋しくなった。いや、これからだ、これから父親らしいことをしよう……!!

 宿屋で兵士になりたがっていた少年も、今では立派な兵士になっていた。そういえば、ビアンカが、この少年が大きくなったら一緒に旅に出るのもいいかもね、と言っていたのを思い出した。確かにそういうのも、いいかもしれない。

 キラとレティはもちろんだが、この兵士…ピピンも一緒に連れて行こうかな。もちろんサンチョも忘れずに。しかし、そうすると、馬車に乗れる人数は限られてるから……連れて行けるモンスターは、あと3名。回復係にベホマンは外せないし、ピエールとも最後まで一緒に戦っていくつもりだ。とすると、あとはマッドかメタリンか……個人的にはメタリンの方が非常に可愛くて好きなのだが、彼は僕たちの中でも特に強い部類に入る。子供達は、まだ8歳にしては驚くべき強さを持ってはいるが、それでもまだレベル5。このままあちこちをうろつくのは危険だ。どうせしばらくはそこらで修行するつもりだし、ならば、加えるべきは、彼ではなくマッドだろう。まだ未熟だが、仮にもドラゴン族。激しい炎ももうじき覚えるだろうし、ここで修行を積んでおけば、いずれ強力なメンバーとなり得る。

 そんなわけで、人間5名とベホマン、ピエール、マッドのモンスター3名で新たにこの城を旅立つことになった。いや、しかし、これだけ人間がぞろぞろいるというのも初めてではなかろうか。賑やかな旅になりそうだ。

 オジロンは、母マーサの故郷の場所がわかったと、地図を開いて教えてくれた。すぐにそこに行けるよう、船も近くへ運んでおいてくれたのだという。一体どうやって運んだんだろう……?大いに謎だが、これで、修行の後はそこへ行くという当面の目標ができた。

 準備は整った。出発だ。

 ……それにしても。

 と、僕は緑の中に佇む城を見上げながら思う。

 自分の家のはずなのに、長くここにいた試しがないな……。

 いつだって、先へ進むことばかり考えている。

 しかし同時に、ここが僕の故郷なのだと……今日ほど強く思ったことはない。

 きっと、帰ってくる。

 ビアンカを連れて。

 それまでしばしの別れだ、グランバニア城……!!

 

 

2004.8.3

 

 

次へ

戻る

プレイ日記風小説に戻る

 

 

inserted by FC2 system