グランバニア王
冒険の書:
P34
一夜明けてようやく疲れもとれて落ち着いたので、城内…というか町の様子を見てまわることにした。
いつものように、林立したツボをたたき割ったりたんすを漁ったりするのも楽しかったが、今回はそれよりも情報収集に意識が向かった。人と話をするたびに、パパス王とマーサ王妃の名を頻繁に耳にした。いよいよ確信が深まる。
そしてまた、この城には不思議なこともたくさん見かけた。天空城について研究していたという学者や、なんと羽の生えた女性までいたのだ。この人が、学者の言っていた天空人なのか……?パパス王にはいろいろと世話になった、というようなことを言っていたが、一体なぜ羽がはえているのか、そしてなぜこんな所にいるのか。非常に気になったが、いくらなんでもいきなり「なんで羽が生えてるんですか?」なんて失礼なことは聞けないし、同様に、深い事情がありそうなところをどうしてここにいるのか、なんて無神経に聞くのも悪いような気がするし。うう……でも、気になるなあ。
ところで、ここの町は城の中に作られている、という非常に変わった造りで、人口はそれほど多くはないようだが、改めて町を眺めてみると、これほど整備された美しい町を僕は今まで見たことがないように思う。
床は全て白い石畳になっており、家々の壁も皆同色の白。雑然としたところがなく、ツボまでがきちんと一列に並べられている。広場には長いテーブルとベンチが並べられており、中央には噴水が飛沫を上げている。
……見事なものだ。
そして、この町を作ったのが、パパス王だという。
もし、それが父さんだとしたら……父さんは、なんてすごい人だったんだろう!!
王様に会って詳しいこと聞こうと思ったのだが、残念ながら、兵士達は玉座の間に通してくれなかった。現在は、行方不明のパパス王に替わって弟のオジロンーつまり僕の叔父にあたる人が王位についているらしいのだが……どんな人物なんだろう。門前払いを食らって王に会えなかった、という点でかつてのラインハットを思い出してしまう。もし僕が本当にパパス前国王の息子で、それをオジロン王に知られたとしたら、命を狙われたりしないだろうな……。まあ、城下町(文字通り城の下にある……)の様子を見た限りでは、特に悪政を布いているわけでもなさそうだし、大丈夫だとは思うけど……。
まあ、どのみちここでねばっていてもどうなるものではなさそうだし、それよりもサンチョを探して聞いた方がよさそうだ。町の人から、サンチョという人物が毎日教会にお祈りに来ていると聞いていたのだ。本当にあのサンチョかどうか……それは会ってみればはっきりする。
もっとも、今日は教会に来ていないみたいなので、サンチョの家を探すことにした。……とはいえ、これまで町を見てまわった限りでは、それらしきものはなかった。どこにあるんだろう…一旦外に出て、城の回りも少し見て回ろうか。で、実行してみると、はたして城の外に小さな一軒家がぽつんと建っていた。なんだってこんな所にあるのかは非常に不思議だが、とにかく入ってみよう。…ここにサンチョがいるかもしれない。
おそるおそる扉を開けると、中にはシスターと…間違いない、サンチョがいた!!多少老けたようにも見えるが、見間違えようがない。あれはサンチョだ!
僕が声をかけるより先に、サンチョがこちらに気づいてくれた。何も言わなくても、サンチョはすぐに僕だとわかったようだった。すごいなあ。ダンカンさんなんて、なかなか気づいてくれなかったのに。
サンチョはもう目に涙をいっぱいためて……ああ、涙もろいところは少しも変わっていない……僕に、父パパスがやはりこのグランバニアの王だったことだけを告げると、このことをオジロン王に報告せねばと、挨拶もそこそこに僕たちを王のもとへ連れて行った。
さっきは城門を通してくれなかった兵士たちも、みんな敬礼している。…サンチョって、全然そうは見えないけど結構偉かったんだ。
そして、玉座の間に辿り着いた僕たちは、初めてオジロン王と対面する。父パパスのように強そうではないものの、いかにも人のよさそうな穏和な顔をしていて、僕は安心した。オジロン王は、僕が生きていたことをたいそう喜んでくれ、僕も叔父に会えたことが嬉しかった。それで、早速叔父にビアンカのことを紹介しようとしたのだが……なんだかビアンカの様子がおかしい。どうしたのだろうと思って見ていると、ビアンカは僕の目の前で、くずおれるように倒れた。
ど…どうしよう……。
とりあえず、オジロンが上の部屋の寝室を貸してくれたので、そこに運んだのだが…ああ、ビアンカは一体どうなってしまうんだろう!チゾットでも一回倒れたし……どうしよう…ああ、どうしよう……。
僕は、目を閉じたままのビアンカを前に、ただオロオロするしかできなかった。しかし、医療の知識のあるシスターがビアンカを見てくれて、言った。これはおめでただ、と。
………………………………へ?
おめでた…………?
って、つまり…その……ビアンカに、赤ちゃんが……?
シスターに、僕はもうすぐお父さんになる、と言われたけどピンとこない。僕はいつも、父の後を追っていたのだ。その僕が…お父さん……?
どうにも信じられないが、聞けば、ビアンカのお腹の中の赤ちゃんはかなり育っているらしい。ううむ………。
ビアンカは、うすうす気づいていたようだが、言えば旅の妨げになると黙っていたらしい。そういえば、色々と思い当たるフシがある。ビアンカは、もう無理はせずに、きっと丈夫な赤ちゃんを産むと約束してくれた。……正直、まだ驚きがさめないが、これで一安心。本当、ビアンカが倒れたときは、心臓が止りそうになったもんなあ……。
さて、ビアンカの具合も落ち着いたようなので、あらためてオジロン王に会いに行くことにした。寝室を貸してもらったお礼も言いたいし。
しかし、会いに行くと、意外なことを言われた。なんと、僕に王位を継いでほしいというのだ。オジロン王は、自分はもともと人がいいだけで、王の器ではないという。それを自覚してるんなら、十分に王の資格はあると僕は思うんだが…オジロンは、どうしても僕に王位をゆずりたいらしい。先代パパス王の息子というだけで、このグランバニアのこともロクに知らない僕に国王がつとまるかどうかの方が心配だと思うのだが、どういうわけか、皆そうは思わないらしい。どうにも断り切れず、結局引き受けることになってしまった。なにかと嫌みな大臣の鼻をあかしてやりたい、という気ももちろんあったのだが。
ただ、代々グランバニア王になるものは、東の森にある試練の洞窟で王家の証をとってくるしきたりになっているとか。オジロンは、今は魔物も出ることだし、と今回はしきたりを中止した方がいいと考えているようだったが、それには大臣が強硬に反対したため、僕は試練の洞窟に王家の証を取りに行くことになった。…売られたケンカは買わねば。
そこで、まずは準備を整えることに。防具屋でドラゴンメイルと風神の盾を購入し、周辺のモンスターを仲間にするべく、あたりをうろうろする。それで、ドラゴンマッドのマッドとメッサーラのサーラが仲間になってくれた。マッドは今後の戦力として大いに期待できるので、銀の胸当てにシルクハットに炎の爪と、いい装備を整えてあげた。ああ、お金が……。
主にグランバニアの洞窟をうろついていたため、よくはぐれメタルに遭遇し、僕はあっという間にレベル39になった。そろそろ試練の洞窟に向かってもいいだろう。マッドもようやく火炎の息を覚えてくれたし。おっと、行く前の景気づけにカジノにもよっていこう。
いつものように、オラクルベリーのカジノで100コインスロットをしたら、一回目でいきなり○が5つそろい、コイン10000枚獲得!!これはラッキー!!スライムレースでも倍率約80倍のところに賭けたのか大当たりして、700枚近くのコインを入手できたし、これは幸先がいい。
そして、いよいよ試練の洞窟に出発!!レベル上げも兼ねて、メンバーは僕、アーサー、マッド、メッキー。
中に入ると、フェアリーソウルというのだろうか、ホタルのような淡い光がたくさん漂っていて、なんとも神秘的で美しかった。ビアンカといっしょに来たかったな……。
この階では敵に全く出会わず、ただ部屋の中央に石版がぽつんと置かれているのを見つけた。たがいに背を向ける者あらば、王自ら出向きて正しく向かいあわせるべし、とかなんとか王の心得みたいなものが書かれている。さらに進むと小部屋が四つあって、それぞれの部屋に鷲の彫像が2体ずつ並んでいる。しかし、王家の証らしきものや、先へ進む道らしきものはどこにも見当たらない。たぶん、この鷲の像をどうにかすれば、何かが起こるのかもしれない。
部屋によって、鷲の像の向きはばらばらで、向かい合っているものもあれば、そっぽを向いているものもあり、互いにあらぬ方をむいているものもある。たぶん、このそっぽを向いている奴を向かい合わせにするんだろうけど、互いにあらぬ方を向いている奴はどうしようか。ううん。とりあえず、そっぽ向いてるのだけ直してみたけど、何も起こらない。で、ばらばらに向いているのを直してみたんだけど、だめだなあ…。で、さっき入った部屋に戻ってみると、つい先程までちゃんと向かい合っていたはずの像がそっぽ向いてたりするんだ。でも、なんかあれこれいじくってるうちに、ふと気づくと妙な感じになっていて。よく見ると、ついさっきまでそこに見えていたはずの例の石版が見当たらなくなっていた。奇妙に思ってさらに戻ってみると、入ってきたはずの出入り口はそこにはなく、かわりに下へ降りる階段が出現していた。……うまくいったらしい。
そこから先は順調に進んだ。オークキングのオークスを、数回目の戦闘にして仲間にできたし、刃の鎧も入手できた。…これはいいものが手に入った。ピエールへのお土産にしよう。
モンスターも出るようにはなったが、出現率は低く、それほど強いとも思えない連中ばかりだった。ジェリーマンには苦戦したが……。
そして、ついに王家の証を入手!!いや、こうして目当ての宝を手に入れた瞬間の、なんと幸福なことか!これだから冒険はやめられない。
これを見せたら、ビアンカもきっと喜んでくれるだろうなあ。そう思うと、自然と急ぎ足になる。しかし、突然妙な男の二人組が現れて、僕たちの行く手を遮った。
暗殺者か。…どうやら、僕が王になるのを歓迎しない人間がいるらしい。
たしかに、ここなら邪魔が入る心配もなさそうだし、絶好の機会というわけか。しかし、こちらもやすやすと殺されてやるわけにはいかない。
早速戦闘になったが、カンダタと名乗った男は思ったほど強くはなかった。アーサーが二回も会心の一撃を出してくれたし、子分のシールドヒッポは、カンダタを攻撃しているうちに、その余波で勝手に倒れてくれたし。これなら、ジェリーマンの方が手強いぐらいだった。
階段を上がるとリレミトが使えるようになっていたので、それで地上に脱出。すぐさまグランバニアに戻った。
それにしても、カンダタをさし向けたのは、一体誰だったんだろう……やっぱり大臣かなあ……?何も証拠はないのだけど。
冒険の書:
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オジロンの所に王家の証を持っていくと、たいそう喜んで迎えてくれた。僕が王になるのを渋っていた大臣も、どういうわけかいやにはりきって、即位式の準備などをはじめに走り出ていった。あまりにも急な態度の変化に、僕もオジロンも首をひねった。
……と。「大変でございます!大変でございます!」
突然上からあわただしくメイドが駆け下りてきた。なんと、赤ちゃんが今にも生まれそうだというのだ。
ビアンカ………!!
僕はいそいでビアンカのもとへ駆けつけた。ビアンカはひどく苦しそうだったが、僕を見るとにっこりと笑ってくれた。
ビアンカ…ビアンカ……心配でベッドのまわりをうろうろしていると、そんな僕の様子を見かねたのか、下のオジロン王のところで待っているように言われてしまった。
それで、再び玉座の間へ戻ったのだが……どうにも、じっとしていられない。うろうろ、うろうろ。
……ああ、そういえば、ずっと昔にこんな夢を見た。
夢の中で父さんは、同じように玉座の間をうろうろしてたんだ。
……そして今、僕があの時の父さんと同じことをしている。
ひどく、不思議な気分だ。
父さん…………。
知らぬうちに、過去と未来に思いを馳せて、ますます足取りが速くなる。兵士達にまで、「お気を確かに!」なんて言われるほどに。
と。突然、産声が聞こえた。上の階からだ。
……ビアンカ!?
もう周りなんて気にしていられない。急いで階段を上る。今までで一番速く走ったような気がする。
寝室の扉を開けると、やや疲れた様子ながら、それでも満足そうなビアンカが横になっており、その両隣には、なんとも可愛らしい赤ちゃんが。
……双子だったんだ。もう目がぱっちりと開いており、たいそう愛らしい。シスターが、男の子は目元が優しそうで僕にそっくり、女の子はお母さん似できっと美人になるといってくれた。
そっと近づくと、ビアンカがこっちを見て微笑んだ。やつれている感じなのに、これまでにないくらい、眩しいほど美しく見える。ビアンカは、僕に双子の名前をつけてほしいと言った。
う〜ん……名前か……。
……………。
……………。
……………。
………よし!!
男の子はキラで、女の子はレティ!!これにしよう!!
キラ、というのは別に殺し屋からとったのではなく、おとぎ話に出てくる最強の剣士、幻魔剣の使い手の名前からとった。
レティは、よくお話に出てくるお姫様―レティシア姫の名前から。
キラとレティ。名前の組み合わせもいい感じだ。名前の候補は他にもいろいろあったのだが、二人並んだときに一番いいのはこの組み合わせだったのだ。
ビアンカも、ちょっと変わってるけどステキな名前だと賛同を示してくれた。……変わってる、というのがちょっとひっかかったけど。
その日はビアンカも疲れていることだし、すぐに休むことになったのだが……次の日にはもう、即位式だ。できるなら、ビアンカの体調の回復を待って、彼女にも出席してもらいたかったんだが…仕方ない。
ビアンカは言った。小さい頃は、お父さんお母さんは最初からお父さんお母さんなんだと思っていたけれど、本当はみんなこうやってお父さんお母さんになっていったのね、と。そして、私たちも素敵なお父さんお母さんになりたいね、と。
僕は胸を衝かれた。脳裏に父パパスの姿がよぎる。
……父さんも、こうやってお父さんになったのだろうか。
……父さんも、同じ気持ちを味わったのだろうか。
子供だったパパスが、大きくなって、マーサと出会い、結ばれて。そして、子供の誕生を知り、一人の男から父親になる……。
僕も……あんなふうになっていくのだろうか。なれるだろうか、あんなふうな、立派な父親に。
……なりたい、と思った。どれだけのことができるかはわからないけれど。少しでも……僕が父にしてもらっただけのことを、僕の子供にしてやりたいと。
傍らの子供を見ると、つぶらな瞳でこちらを見上げ、キャッキャッと笑った。なんて美しい瞳だろう。キラとレティ……愛しさがこみあげてくる。僕は、かつて夢の中で父パパスがやってくれたように高い高いをしてやった。……幸せにしてやろう。絶対に。
ずっとこうしていたかったが、即位式の時間がせまっていたので、仕方なく玉座の間に向かうことにした。戻ったら、当分そばをはなれまい。ビアンカに見送られ、僕は寝室を後にした。
玉座の間に降りていくと、僕は思わず息を呑んだ。いつもは閑散としているそこを、グランバニアの兵士達が埋め尽くしていたのだ。
思わず立ち止まりそうになったが、気後れしているところを見せるわけにはいかない。僕は、王になるのだから。
落ち着け…落ち着け……。
ゆっくりと深呼吸をして、オジロンの前に歩み出る。ひざまずくと、オジロンが王位を譲るという宣言と共に、僕の肩に赤いマントをかけてくれた。儀式用の特別なもので、背中の部分に金糸でグランバニアの紋章が織り込んである。しかし……ううん、似合わないなあ……。しくしく。やっぱり僕って王様には向いてないかも……。
玉座に座って、ひとしきり兵士達の声を聞いた後、町の広場に。新しい国王の姿を国民に見せるのだそうで……この国は、ずいぶんと王と国民の距離が近いのだなあと思い、僕はますますグランバニアが好きになった。
広場に着くと、われんばかりの歓声。そして、後はもう、飲めや歌えの大騒ぎ。
グランバニア……グランバニア!!
今日からここが、僕の家だ…………!