水のリング

 

 

 

冒険の書:P24

 

 サラボナのルドマン邸に炎のリングを持っていくと、ルドマンさんは大喜びで迎えてくれた。僕よりも興奮している。

 水のリングは水に囲まれた場所にあるだろうということで、気前よく船まで貸してくれた。ありがたい。……でも待てよ、ということは、実質上花婿は炎のリングを見つけた時点で決定?だったら炎のリングだけにしておけばいいのに……ま、結婚指輪にするためにそうなったんだろうけど。これで僕が水のリングを手に入れられなかったらどうなるんだろう?ルドマンさんが候補者全員に船を貸して、水のリングを手に入れた者に……ということになるのかなあ。そうなると、二回出かけたぶん、僕だけなんだか損する気分……そうならないために、是が非でも水のリングを入手しなくては。

 ルドマンさんにお礼を言った後、フローラにも挨拶しておこうと部屋に行ってみたが見当たらない。どうしたんだろうと思いつつ、とりあえずルドマン邸を辞して町へ出てみると、アンディが大火傷して帰ってきたという話が耳に飛び込んできた。気になったので、フローラのことはおいておいて、とりあえずアンディの家に行ってみた。アンディのケガはひどいらしく、ずっと熱にうなされている様子だった。そして、うなされながらもずっとフローラの名を呼び続けていた。

 …………こんなにまでして。

 ……本当に、フローラのことが好きなんだなあ。

 もしこのまま僕がフローラと結婚したら、アンディはどうなってしまうのだろう。こんなにもフローラを必要としているのに。

 ……でも、盾のためにはフローラと結婚しないといけないんだよなあ……。

 その横にはフローラがいて、アンディの看病をしていた。彼女は本当に優しい人なのだろう。怪我をした時にこんなふうに必死に手当をしてくれる人がいたら、きっと幸せだろうな。でも僕は、アンディほど彼女を必要としているわけではない……。必要なのは、盾だけ。

 …ごめん、アンディ。ごめん、フローラ。

 僕は、水のリングを手に入れる。

 

 そして僕は、船で北へと向かった。でもすぐに水門に突き当たり、それ以上先に進むことができなかった。困ってあたりをうろついていたら、近くに「水門に用のある方は、この先の山奥の村へ」という立て札を見つけ、早速そこに行ってみることにした。

 しか、本当に「山奥の村」だな…これ。周囲は山ばかり。村には畑と温泉があり、家はすべて木造。高床式、というのか、ちょっと変わった造りだ。なんにせよ、かなりの田舎。最初ちょっとカボチ村のことを思い出して嫌な気分になったが、ここの人達はあの村と違って皆愛想よかったのでほっとした。

 村を見て回っていると、お墓の前で熱心に祈っている一人の女性を見つけた。後ろ姿なので顔は見えないが、長い金髪が美しい。話しかけてみたが、熱心に祈っていて、僕には気付いていないようだ。……しかたがない。先へ進むとしよう。

 途中、ダンカンという名を耳にした。……ダンカン?

 ダンカンさんは身体が弱いのだがその娘のビアンカは本当によく働く、との話。

 それってまさか……まさか……。

 ダンカンさんは村の奥に住んでいるということだったので、急いで奥の家に行ってみる。部屋に入ると、そこにはベッドに寝ているダンカンさんが!

 ああ、本当にここにいたんだ……。

 でも、なんだかずいぶん年取ったような……昔会った時も風邪ひいてたけど、こんなに弱々しい感じはしなかったのに。

 ―10年。

 長い時間が、たったんだなあ………。

 ダンカンさんは、ここでもビアンカのお母さんが亡くなったのだと言った。…ダンカンさんよりもずっと元気そうだったのに。

 本当に、わからないものだなあ。父さんも……。

 そんなふうにダンカンさんと話しつつ感慨に浸っていると、「ただいまー!」と元気な声が耳に飛び込んできた。

 ……もしや、ビアンカ!?

 それはさっき、お墓の前でお祈りをしていた女性だった。

 ……ビアンカも、僕と同じように、見分けがつかないぐらいすっかり大きくなり……そして、とても綺麗になっていた。綺麗で、可愛い。

 長い美しい金髪。こぼれんばかりの笑み。あふれ出す生命力。僕にはビアンカの全身が輝いているように見えた。

 ビアンカ…ビアンカ!また会えて、本当に嬉しい!!

 ビアンカも僕との再会をとても喜んでくれ…その夜は一晩中語り合った。こんなに楽しい夜は久しぶりだった。

 

 そして翌朝。ビアンカが起こしに来てくれて、朝食を作ってくれた。料理するビアンカ…なんだか新鮮。

 待ってる間暇だったので、ダンカンさんの所に行ってみたら、驚くべき事実を聞かされた。ビアンカは知らないが、ビアンカはダンカンさんの実の娘ではないという。ダンカンさんは、だからこそビアンカが不憫でならず、幸せにしてやりたいのだと言っていた。僕がビアンカと一緒に暮らしてくれたら安心だとも………。

 僕が……ビアンカと?

 そんなこと、考えもしなかった。ビアンカだって、そんなこと思ってないだろう。

 確かにビアンカのことは好きだしずっと一緒にいたいとも思う。

 でも結婚となると……。

 第一僕は、昔ビアンカに、

「私はあなたより二つもお姉さんなのよ。そうだ。ご本を読んであげようか?」

 …なんて言われた仲なのである。これで結婚とか言われてもなあ……。第一、ビアンカにそんな気はないだろう。

 それに僕には父の遺言がある。それを果たすためにはビアンカではなくフローラと結婚しなければならず、そのために今ここに来ているのだ。でも年老いたダンカンさんを安心させてあげたいしなあ……うーん、困った。ま、でもそんなに深刻に考えることもないか。ビアンカは大切な幼なじみで、そういう仲じゃないんだし。

 なんてことを考えているうちに、食事ができたとビアンカが呼びに来た。それで、一緒に朝食。モンスター達との食事もそれなりに楽しいけど、こうして屋根の下で、誰かと会話しながらの食事っていうのもいいなあ。何種類かのパンーそれが、何倍も美味しく感じられた。

 食べながらの会話だったが、ビアンカは、僕の水のリング探しを手伝うと言ってくれた。思いも寄らぬ申し出に、僕はとても嬉しかった。一晩で別れるのはちょっと淋しいと思っていたところだったのだ。それに、一時的とはいえ仲間が増えるのは無条件で嬉しい。

 ビアンカもなんだか楽しそうで……そんなビアンカを見ていると、僕も幸せな気分になった。

 そんな僕に、ビアンカはまた一緒に冒険ができるねと笑った。そんなビアンカを見ているのがとても楽しく、また僕も久しぶりにワクワクしてきた。こんな気持ちはしばらく感じなかった。

 ……レヌール城のお化け退治は怖かったけど、ワクワクしたなあ。

 

 そうと決まれば早速出発!水門はビアンカが開けてくれるそうなので、問題はない。ダンカンさんにあいさつをした時、ビアンカをよろしくとか頼まれてしまった。ビアンカは気にするなって、笑ってたけど……。

 行く道すがら、ビアンカが色々と村を案内してくれた。ここは温泉で有名な村で、ダンカンの身体のためにこの村に引っ越してきたのだそうだ。温泉は宿屋を抜けた所。

 ちなみに、宿屋の地下は酒場になっていて、昼間は閑散としているが、夜はそれなりににぎわう。酔いつぶれて眠ってる男なんかがいるのもいかにも酒場にありがちな光景。でも、聞く所によると、その男はビアンカがこの村にやってきてからというもの、急に大工仕事に燃えてしまって、自分の家を建てるのには二年もかかったくせにビアンカの家はあっという間に建てたそうだ。そりゃあ疲れるだろうなあ……。

 そういえばこの人、ビアンカに大工仕事は危ないからと言って手を出させず、そういった仕事はみんなビアンカにかわって引き受けてるみたいだけど……まさかこいつ、ビアンカに気があるんじゃ……?

 ま、ビアンカはそんなこと全然気付いてない様子だが……なんとなく気になって、その男に近づいてみると、寝言でビアンカの名を呼んでいる。

 ……なんだか面白くない。

 

 まあともかく、あまりゆっくりもしていられないので、僕たちは山奥の村を後にした。……でも、せっかく再会を果たしたんだし、このまますぐに水のリング探しに向かうのももったにない。ビアンカのレベル上げも必要だし……。ということで、僕は、せっかくルーラを習得したことでもあるし、これまで行ったいろんな町や村に、ビアンカを連れて回ってみることにした。

 そこでまず向かったのは、ポートセルミ。これは、ビアンカと散歩する、ということの他に、福引きをするという目的があった。福引き券を大量に貯めこみ、定期的にやっているのだが…いつも半分ぐらいははずれ。一度祈りの指輪があたったこともあったが……もっといい景品はないものだろうか。

 で、そろそろまた福引きがしたくなっていた頃だったし、ビアンカが仲間になって運が良くなったような気もしたのでまずそこへ行ってみた、というわけである。

 福引き52枚からで、早速挑戦!今日は結構白玉が出るな……。それだけチャンスが増えるわけだから、ありがたい!って、おお!!祈りの指輪が二つも当たった!すごいな、いつもは残り券数枚とかいうところでやっと一つ当たる程度なのに。今日はツイてる!この調子でいけば、もしかしたら……!!

 まわせまわせまわせ〜〜!!あと15枚〜〜あと14枚〜ぐるぐるぐるぐる〜〜〜〜コロン。

 ……あれ、見たことないな、こんな玉。黄色……金色?

 一瞬の思考停止の後、盛大なファンファーレが鳴り響いた。

  特等だ!!

 おばあさんも驚いていたが、何より僕が驚いていた。まさか本当に、金色の玉にお目にかかれる日が来ようとは……!!

 特等の景品は、ゴールドカード。なんと、全ての店で、2割引で買い物できるようになるという素晴らしいものである。ああ、なんたる幸せ……すりすりすり。ああ、この感触……。カードに貼られた金箔が目にまぶしい。

 それにしても、これまで何度も挑戦してなかなか当たらなかったのに、ビアンカが仲間に加わった途端、いきなり特賞が出るとは……。ああ、ビアンカ、君は幸運の女神だ!!君がいてよかった……!!

 

 すっかり舞い上がってしまった僕だが、いつまでも浮かれてはいられない。思わず笑い出しそうになるのをこらえながら、思い出の地巡りを開始することにした。

 まず向かうはラインハット。以前、ビアンカのことを話したとき、紹介しろよと言われていたのを思い出したのだ。でも、いざ行ってみると……ヘンリーの奴、ビアンカに全然気付かないんだからなあ、もう。せっかく来てやったのに、ヘンリーときたら、マリア以外まるで目に入らない様子だ。恋は盲目、とはよく言うけれど、本当に盲目になるとは思わなかったぞ。

 その後も、サンタローズ、アルカパ、レヌール城……と、次々に色々な場所をまわった。そして、ビアンカといろんなことを話した。その言葉の一つ一つが胸の奥までしみこんできた。ビアンカの言葉は心の奥までしみ通り、胸を熱くさせる。

 ……同じ思い出を共有する二人だから。サンタローズを見て、思いを共有できる人だから。その言葉は重く、ずしりと胸に響く。

 話しながら、ビアンカも淋しかったんだなあと思った。

 アルカパで、ふと、「大人になったら二人でまたここに来よう」と約束していたことを思い出して、そこの酒場に行ってみたが、ビアンカはそのことを忘れているらしく、何も言ってはくれなかった。……ちょっぴり悲しい。まあ、昔のことだし仕方ない。僕も、宿屋でかくれんぼしたことなって全く覚えていなかったから、これでおあいこか。

 ……幸せだった、あの頃。

 仲間モンスターは大勢いるものの、あの頃持っていた何もかもを失って、時折どうしようもない寂寥感にみまわれることがあった。

 ビアンカは、僕が時折感じるそんな気持ちを誰よりもよくわかってくれていると思った。なぜなら、ビアンカもそんな気持ちを感じていたに違いないから。

 ビアンカ……。

 僕は、いつの間にかビアンカと離れがたく感じていた。

 ビアンカの側にいたいと思った。

 ビアンカの笑顔を見ていたいと思った。

 支えてあげたいと思った。

 でも……それは、かなわない。

 水のリングを手に入れたら……ビアンカとは、お別れだ。

 

 そして僕は……水のリングを、手に入れる。

 

 

冒険の書:P25

 

 水門を抜けた先は大きな湖、さらにその先には大きな滝があり、その裏には洞窟があった。いかにも怪しい。きっとここに、水のリングがあるに違いない。

 馬車は入れないので、僕とビアンカ、ピエール、メッキーの四人で探検。回復呪文が使えるメンバーを中心に選んだ。ビアンカは特別だ。

 入ってみると、岩の間から光が差し込んできていて綺麗な所だ。そのおかげで明るくて見通しもきくのがありがたい。途中、滝を間近に見れるところがあって、それがまた壮観だった。魔物さえ出なければ、観光地として十分通るだろう。

 素晴らしい滝を見られたのも嬉しいが、それでビアンカが喜んでいたのが何より嬉しかった。魔物と戦い続ける長くつらいダンジョンも、こうしていろいろ話せる同行者がいると違うものだなあ。

 下の方に行くと、水が溜まっているところがあり、そこをバシャバシャとかきわけて進む。……楽しい。

 思わずそこら中歩き回ってビアンカと一緒にずぶ濡れになり、二人で笑い合った。

 でも、笑いながらも、僕はどうも気分が晴れなかった。

 これで水のリングを見つけたら、ビアンカとは別れなくちゃならないんだな……。

 そう思うと、楽しい気分もいっぺんに吹き飛んでしまう。

 ……本当は、ずっとこうして一緒に笑っていたいのに。

 

 長い洞窟の先、滝の裏の部屋で僕は水のリングを見つけた。

 ……これでフローラと結婚できる。天空の盾が手に入る。

 しかし、不思議と喜べなかった……。

 

 

2004.5.23

 

 

 

次へ

戻る

プレイ日記風小説に戻る

 

 

 

 

inserted by FC2 system