幻の呪文

 

 

 

冒険の書:P21

 

 カボチ村を出発した僕たちは、いったんポートセルミに戻った後、西へ向かった。そこにはルラフェンという、ちょっと変わった町があった。どこが変わっているかというと、町全体がまるで迷路のような造りになっていることだ。それも、トンネル、建物の内部などともつながって、かなりややこしいものだ。道に迷ってる戦士もいた。そこらのダンジョンよりもよほど大変だ。まあ、モンスターがいないだけマシだが……。

 しかし、なんだってまた、こんなややこしい造りにしたんだろう……?

 カボチ村の後だし、よそ者をよせつけないためではないか…など嫌な考えが頭をよぎったが、実際に町の人と話してみると、そんなに排他的な感じはしない。普通の町だ。少しホッとした。

 また、ここには迷路ような構造のほかに、もう一つ変わった点がった。それは、町を覆うケムリ。町外れにある一軒家から出ているようなのだが、これが結構煙たい。町の人にも不評の様子。そういえば、ポートセルミの灯台からもこの煙が見えていたから、やっぱり相当凄いってことなんだろうな。

 そして、道に迷いながらも探索を続けるうち、このケムリを出しているのはベネットじいさんという人で、どうやらこの人が、失われた古代の呪文を復活させようとしているらしいこともわかった。

 古代の呪文というと…以前小耳にはさんだ、「一度行った城や町に一瞬で行ける」とかいうものだろうか?その話を聞いた時は、もしそんな呪文が使えたらどんなに便利だろうと思ったものだが……ベネットじいさんに会えば、その呪文について何かわかるかもしれない。場合によっては、すぐにその呪文が使えるようになるという可能性も!!

 まあ、ベネットじいさんが本当にその研究をしているかどうかもわからない今、そんなことを考えるのは捕らぬ狸の皮算用というものだが、それでも会ってみる価値はありそうだ。

 そう思って、ベネットじいさんの家に行こうとしたのだが……たどり着けない!すぐそこに見えているのに、色々なものに遮られてたどり着けないのだ。

 それからかなりの間町をさまようハメになったが、おかげで色々なウワサを耳にした。

 中でも驚いたのは、「ラインハット国王の兄が結婚した」という話だ。ラインハット王の兄というと…ヘンリー?

 ヘンリーが、結婚!?

 あまりにも唐突な話で、ちょっと信じられない。ヘンリーが結婚……「子分は親分の言うことを聞くもの」とか言ってたヘンリーが結婚……ううむ。是非会っていろいろ聞いてみたいけど、もうあちらへ渡る船もない現状ではいかんともしがたい。しかし……ううん、気になるなあ。

 気になるといえば、もう一つ気になる話があった。昔ここで生まれたという銘酒「人生のオマケ」の話だ。そのあまりのマズさに魔物さえも逃げ出した、といういわくつきのお酒らしいのだが……とある家に、厳重にフタをされたツボがあり、「酒 人…オマ…」とも読めるちょっとすりきれたラベルが貼ってあったのだ。話からすれば、これがその「人生のオマケ」と考えるところだが、問題は、このツボからは、なんとも言えないいいニオイがするということだ。どう見ても、そんなにマズいものには思えない。それに、酒のことを聞いた時の町人の反応が、どうもひっかかる。必死で何かを隠そうとしているような………うう、気になる。だが、どうもそれ以上の話を聞き出すのは難しそうだ。まあ、たかがお酒だし……そんなに気にするほどのことでもないだろう。僕としても、聖水がわりに使えたら便利だなあと思っただけのことだし。とりあえずこっちの方は置いておいて、ベネットじいさんの家を探そう。

 ……で、ようやく家の前に到着。苦労しただけに、喜びもひとしおである。早速家に入ろうかとも思ったが、手前に井戸を見つけたので、まずそこに入ってみることにした。

 何かいいものでも落ちてないかなー…何もないや。でも、かわりに猫が住み着いていた。ちょっと話しかけてみると、「にゃ〜ん?」と、なんだか何かを尋ねている素振りをする。なんとなくうなずいてみたら、なんと猫が人間の言葉でしゃべり出した。ベネットじいさんの家の庭が気に入っているのに、けむくっていられないとかなんとか……さも当たり前のことのように人間の言葉で話す。しゃべるスライムがいるんだからしゃべる猫がいても不思議はない…のか?僕もモンスターを仲間にして旅してるわけだし、これもはたからみればかなり不思議なことに違いない。しかし……本当、世の中は不思議に満ちているなあ。

 僕たちは、その猫に、地域の名産品と呼ばれるものを集めておくといい、とアドバイスまで受け、なんだか半分キツネにつままれたような(いや、猫だけど)気分で井戸を後にした。ベネットじいさんのところへ行こう……。しかし、まさかあの猫が喋れるのはベネットじいさんの研究のせいだったりしないだろうな……。

 ベネットじいさんは、一見偏屈そうにも見えたが、煙のことで苦情を言いに来たのではないと知ると(ごめんよ猫さん)、がらりと態度が変わって僕たちを歓迎してくれた。まだ何も聞かないうちから、研究について話してくれ……それは、予想通り「一度行った場所へ瞬時に移動できる呪文」の研究!思わず身を乗り出すと、ベネットじいさんはさらに大きく身を乗り出し、「研究を手伝ってみたいと思うだろう?」と言ってきた。その勢いに半分気圧され思わず頷くと、研究材料のルラムーン草というのを取ってきてほしいと頼まれた。ルラムーン草というのは夜になるとぼんやりと光を発する草で、それ故夜にしか採ることができないものらしい。ベネットじいさんが見せてくれた地図によると、この大陸の端っこにあるようだ。…なるほど端ならわかりやすい。

 僕が大体理解したのを見て取ると、ベネットじいさんは「それではわしは寝て待つことにしよう」と言って、さっさとベッドに入ってしまった。……おいおい、いくら「果報は寝て待て」って言っても、本当に実行しなくてもいいだろう。それも、こんなに迅速に。喋りたいだけ喋って、すぐに寝てしまうなんて、じいさんなのに、台風のような人だなあ、まったく。ヘンリーよりも行動力あったりして……。

 なにはともあれ、やることはわかったので、僕たちは、地図に記された場所への出発した。思ったより遠かったが、場所はすぐにわかり、夜になると簡単にルラムーン草を見つけることができた。しかし…ルラムーン草って、もっと神秘的な感じのを予想してたけど、こうして見ると、光ってるほかは、本当にただの「草」だなあ……。

 すぐさまルラフェンに戻り、ベネットじいさんのところに行くと、寝ていたベネットじいさんも飛び起きた。そして、煙の原因の巨大な壺のところへ行くと、一心不乱に何かを始めた。話しかけても取り合ってくれない。一言お礼ぐらい言ってほしいなあ…と思いながらも、そんなじいさんの様子が微笑ましく思えてしまうから不思議だ。

 そうして、僕が半分呆気にとられつつ、研究熱心なベネットじいさんを見守っていると……変化が訪れた。ベネットじいさんがルラムーン草を投げ入れると、急に壺の中身が紫色になって泡立ちはじめたのだ。それはだんだん激しくなり……ついに爆発した。

 ………………。

 ……どうやら気を失っていたらしい。さっきの爆発で吹っ飛ばされて、意識を失って……幸い怪我はないようで、仲間達やベネットじいさんも、三々五々起き始めている。

 ベネットじいさんは、老人とは思えぬほどこの中では一番元気で、爆発でどこかを痛めた様子もなく。今の爆発で例の呪文が使えるようになったはずだから、使ってみせてくれないか、と言う。

 え?どれどれ……あ、本当だ、新しく呪文が追加されてる。ルーラ、か……いい響きだ。あれ、でも、どこへ行こう?う〜ん……やっぱり、ヘンリー結婚の噂が気になるし、ラインハットに行こうかな。たとえ噂がデマだとしても、しばらくぶりにヘンリーに会いたいところだ。

 それで、僕はラインハットにむかって唱えた。

 …ルーラ!

 すると僕の体は一瞬で空高く飛び上がった。

 その一瞬…はるか下の方で、ベネットじいさんが大喜びしているのが見えた……。

 

 

冒険の書:P22

 

 ラインハットは、ヘンリー結婚の話でもちきりだった。やはり、あの噂は本当だったようだ。しかも、ヘンリーとその奥さんとはずいぶん仲がいいと評判だ。それは、独り者には目の毒だ、と言わしめるほど。

 また、細かいところを見ると、最初は頼りなく思えたデール王も今では立派に国を治めているという話で安心した。みんな元気でやっているようだ。よかった。

 とにかくヘンリーに会っていろいろ聞いてみよう。そう思って、まず上へ行ってみる。玉座の間にはいなかったが、かわりにデールがいて、ヘンリーは上の部屋にいると教えてくれた。以前、太后がいた部屋だ。また、デールは伝説の勇者について調べてくれていて、かつて勇者の使ったという盾が、ルラフェンの南のサラボナという町にあるとも教えてくれた。これは貴重な情報だ。ありがたい。さらに、大臣が、サラボナにはルドマンという大富豪が住んでおり、船もたくさん持っているといううわさだと話してくれた。大臣……最初はイヤミな奴に見えたけど、結構いい所があるじゃないか。

 思わぬ収穫に喜びつつ、僕はヘンリーのいる部屋に向かった。

 部屋に入ると、すぐにヘンリーが僕に気がついて駆け寄ってきた。ヘンリーは僕の来訪をとても喜んでくれ、随分探したのだといった。結婚式に招待してくれようとしていたらしい。今ヘンリーの隣にいるのは、マリア。なんだか恥ずかしそうにしている。と、いうことは……。

 「実はオレ達、結婚したんだよ!」というヘンリーの言葉がその予想の正しさを証明した。ううむ……しかし、ヘンリーの口からそんな言葉を聞く日が来ようとは……。いや、確かに彼もいつかは結婚するだろうし、ヘンリーがマリアに好意を寄せていることに気付いてもいたが……それでも、結婚というと、遠い先のことに思えてならない。それがこんなに早く……。うう、さすが親分、手が早い……いや、行動力あるなあ。

 ひとしきり再会を喜び合った後、ヘンリーは、結婚式には呼べなかったけどせめて記念品を持っていってほしいと言ってくれた。以前のヘンリーの部屋にあった宝箱に入れてあるとか……。それを聞いて、少しイヤな予感がしたが、まあとりあえず、言ってみることにした。

 かつてのヘンリーの部屋は、今では太后の部屋になっていた。太后も、すっかり人柄がまるくなった様子で、いろいろと忠告してくれた。……本当、変われば変わるもんだなあ。

 早速宝箱の所に行き、開けてみると……予感的中。宝箱はからっぽだった……。

 まったく、ヘンリーもこりないヤツだなあ……と思い、あらためてよく見ると、宝箱の底に何か文字が刻んであるのが見えた。それは、ヘンリーが僕に宛てたメッセージで…僕の父のことを一日たりとも忘れたことがないこと、僕に借りを返さなくてはと思っていること、この国を守り人々を見守ってゆくことがやがて僕の助けになるのではないかと考えているということ……そして、いつまでも僕とヘンリーは友達だということ。そんなことが刻まれていた。

 ヘンリー……。

 それを読んで、僕は胸が熱くなるのを感じた。本当に、君って奴は……最高の親友だよ、ヘンリー!!!

 それにしても。ここにこうしてメッセージが刻んであったということは、一度ラインハットで別れた後、いつ来るとも知れない僕のために、こっそりここにメッセージを彫り込んでおいた、ということになるが……結構マメな奴だなあ……。いや、心憎いヤツ、というべきか。

 さて。しかし、ヘンリーのメッセージに感動したものの、記念品らしきものは見当たらない。まさか、このメッセージが記念品?……には見えないしなあ。

 とりあえず、ヘンリーのところに戻り、メッセージのことには触れずに、何食わぬ顔で記念品がなかったことを告げると、これまたヘンリーも、何食わぬ顔で相変わらずだなあと笑い、記念品を手渡してくれた。綺麗なオルゴールだった。

 

 その後、久しぶりにサンタローズ、アルカパなどにも寄ってみた。こちらには、まだラインハットが平和になったという話は届いておらず、これといった変化は見当たらなかった。しかし……遠くルラフェンにまで、ヘンリーの結婚話が届いてるのに、ここには何も伝わっていないとは……やっぱりここって、かなりの田舎?

 オラクルベリーには、ラインハットの話が色々と伝わっており、様々な変化も見られた。ここで一番の収穫は、オラクル屋ののれんを買えたことっ!これまで色々とウワサに聞いていたが、ついに、それがこの手に!

 5000Gは少し高かったが、これはスライムの装備品としてもかなり使えるので、惜しくはない。それに、のれんのウワサをしていた男にこれを見せびらかした時は、快感だったなー。

 

 で、……さて。一通り思い出の地めぐりも終わったことだし、ルラフェンに戻ってみることにした。

 ベネットじいさんは、次の呪文の研究にいそしんでいるようだが、今度のはなかなか難しいらしく、すぐには成功しそうにないらしい。残念だが、仕方がない……。それでもベネットじいさんは、ゆっくりしていってくれ、と僕を歓迎してくれて、ご褒美だと言ってとっておきの一本・銘酒「人生のオマケ」をくれた。

 「人生のオマケ」……?それって確か……。

 複雑な表情をしていたのだろう、ベネットじいさんは笑いながら、あれは作り話だと教えてくれた。この酒は非常に美味だが少ししかとれないため、旅人に広まったら大変なことになると、そんなデマを流しているのだとか。みんなに悪気はないらしい。

 そんなに大事な酒を譲ってくれるなんて……。僕は嬉しかった。もっとも、僕は酒を飲めないのだけれど…ベネットじいさんのくれた大事な品だ、思い出として大切に大切に袋の中にしまっておくことにしよう。しかし、こんなふうに喜んでもらえるって、本当に嬉しいものだなあ。

 ベネットじいさんに別れを告げた後、僕はもう一度高台やルラムーン草のあたりをじっくり見物に出かけ、ミステリドールのミステルとパペットマンのパペックを仲間にした。意外にすぐ、仲間になってくれて嬉しい。二匹とも預かり所行きだけど……。

 そして、僕はとうとうレベル30に。……我ながら、のんびりしてるなあ。まあ、周辺のモンスターも仲間にしたことだし、明日はサラボナに行ってみよう。

 

 

2004.5.7

 

 

次へ

戻る

プレイ日記風小説に戻る

 

 

 

 

inserted by FC2 system