カボチ村の魔物
冒険の書:
P20
……潮の香りがする。
波の揺れが、心地良い。
船に乗るなんて、十何年ぶりだろう……。
ビスタの港を出て数時間。穏やかな時間が過ぎていく。
僕が最後の乗客だったみたいで、乗るときはちょっとドタバタしたけど。船に乗ってからは実にのんびりしている。幸い、魔物にも会わない。船賃をとられなかったことも、幸せな気分を高めている。
外の景色を眺めていると、途中、巨大な船が停泊している小島が見えた。いったい何なのか見てみたい気がしたが、残念ながらこの船はそこまで寄ってくれなかった。
……まあいいや。今は、目的地のことを考えよう。
これから行く大陸には、何が待っているだろう。どんな町に、どんな人が暮らしているだろう。期待に胸が高鳴る。
あれこれ考えていると、見る間に時間は過ぎてゆき、あっという間に港に着いた。ビスタの港と違って大きいからか、降りた先は暗い建物の中で、そのことにまず驚いた。もちろん、建物の外には立派なポートセルミの町が広がっていたのだが。
外に出ると、太陽の光が眩しかった。暗い所から出てきたせいもあるが、どうも、こちらの方がラインハットよりも陽射しが強いような気がする。また、街は道も建物も皆真っ白で、それで余計に眩しく感じるのかも知れない。……きれいな街だ。
町のはずれには大きな灯台があった。下にいた男が、この灯台には怪物が住んでるって言ってたけどちっとも怖がってるふうではなかったし……本当かな?何にせよ、塔があれば上ってみたいと思うのが人の情。好奇心にまさるものはない。
そんなわけで、一応戦闘向きのメンバーを選んで上っていったわけだが、上の部屋にはドワーフに似た男が一人住んでいるだけだった。どう見ても怪物には見えない。……どうやら、下にいたあの男にからかわれたらしい。まあ、実害はないからいいけど……。
そのまま灯台のてっぺんに上ってみると、遙か下の方に広がる海が見え、美しかった。望遠鏡があったので覗いてみると、雲を貫く高さの山があり、その頂上に神殿が建っているのが見えた。
……あれ?この山、そしてあの神殿……まさか……いやしかし、あれだけの高さを持つ山は、他にない……。あれは、光の教団の神殿だ!!
…あそこがそうなのか。僕が十年の歳月を過ごした場所。今なお、多くの人々が苦しめられている場所。そして、おそらくは父の敵がいる場所。……僕が、いずれは向かうべき場所。あそこが……。
しかし、今はまだ、行けない。あんな高い山の頂上まで行く術はない。しかし、現に教団の奴らは頂上まで行っているのだ、きっと何か方法があるはず。……いずれ必ず、その方法を見つけ出してみせる。
とりあえず、今のところは、灯台の男にあの山のことを聞くだけにとどめた。あの山はセントベレス山といい、選ばれた者だけが頂上に行ける……ということになっているらしい。選ばれない方がどれほど幸福か……。
あまり有益な情報とはいえないが、まあ、こんなものだろう。教団の本拠がどこにあるかわかっただけでも収穫だった。ここはこれぐらいにして、町の中を見回ってみることにしよう。
新しい町といえば、まず買い物!……と、いきたいところだが…そういえば、大半のお金はゴールド銀行に預けてるんだった……。買い物にはまずゴールド銀行を探さないと。それで、あちこち探したのだが、これが結構大変だった。どこにも看板が見つからないのだ。結局、教会の地下にあったのだが……かなりわかりにくいぞ、これ。教会と銀行、という取り合わせもなんか似合わないし。まあ、なんとか無事見つかったんだからいいけど。
6万
Gある貯金のうち、2万Gを引き出して、さっそく買い物。武器・防具屋ではそれほど真新しい物はなかったので、自分用にはがねの鎧を一つ買うにとどめたが、意外なことに、掘り出し物があったのは道具屋。なんと、マジックシールドが売っていたのだ。これまで使っていた鉄の盾よりも守備力が高いうえに、魔法のダメージを軽減してくれるというおまけつき。さらに嬉しいのは、おなべのふたしか装備できなかったスライム族にも装備できるということ。これで、守備力大幅アップ!ついつい馬車要員も含め、装備できる者全員に買ってしまって、2万Gはすっかりなくなってしまったが、僕としては満足だ。福引き券ももらえたし。…ここで買い物すると、時々もらえるらしい。覚えておこう。…で、買い物もすませたことだし、あとはゆっくりと街を探索。
まだ昼だったが大きな酒場(なんと、ステージつき!)にも行ってみたところ、丁度一悶着起きていた。田舎出ふうの一人の男に、ガラの悪い二人の男が絡んでいたのだ。山賊ウルフ程度の強さだったんで、僕があっさりやっつけてやったのだが……それがきっかけで、頼み事をされてしまった。なんでも、彼の住むカボチ村に魔物が出て、畑を荒らされて困っているから助けてほしいのだとか。特に急ぐ用事もないので引き受けることにして、前金の1500
Gを受け取った。男は、言うだけ言うと何やらひどく急いでいる様子ですぐに酒場を出て行ってしまったが……モンスターの出る中、一人で村まで帰れるのだろうか?少し気がかりである。僕も村には向かう予定だが、それは一晩休んでからのことにして、今日はちょっと宿屋脇の福引き所に行ってみた。せっかくもらったんだから、やってみなくちゃあ……ということで、やってみたのだが。出てくるのは、黒玉ばっかり。たまに福引き券があたるだけで、他は見事に全部ハズレ。……こういうガラガラには弱いんだよなあ、僕……。はあ……。仕方ない、今日はもう寝よう。
というわけで、これまでより高い宿代を払って一晩泊まり、翌朝僕たちはカボチ村へと出発した。途中、魔法使いのマーリンが仲間になったのに驚く。仲間になりやすいとはきいていたが、こんなにすぐに仲間になるとは……。なんにせよラッキーである。昨日の福引きのことは忘れよう……。
そして、カボチ村に到着。ポートセルミで聞いてはいたが、すごい田舎だ。畑ばっかり……。村の一角にちょっと怪しげな石が置いてあったので調べてみると、なんと隠し階段が。降りた先には宝箱!しかし、中身はメガンテの腕輪……。もうちょっといいものを期待したのだが……まあ、田舎だし……。
村の人の間では、このまま畑を荒らされて作物がとれなければ飢え死にするしかない、と悲観的な見方が広まっている様子だった。ううむ。怪物は人を襲ってはいないらしいが、これはなかなか深刻なことになっているのでは……。
とにかく、村長さんのところへ行って詳しい話を聞こう。……そう思って村長の家に行ったはいいが……どうも雲行きが怪しい。よそ者に村のことを頼むなんて、と強硬に反対している人がいたのだ。他の村人も、どこか冷たい目でこちらを見てるような気が。てっきり歓迎してくれるものと思ってたんだが……。だがしかし、一度引き受けたのだし、これで断るわけにもいかない。村長から詳しい話を聞いて、実際に怪物退治に乗り出すことになった。
もっとも、詳しい話といっても、「怪物は西の方から来る」という非常にあやふやなものであったが……。
まあ、それでもとりあえず行ってみると。そこには洞窟があった。多分ここだろう。中には馬車ごと入れたのが嬉しい。イエッタがこごえるふぶきを覚えてくれたおかげで、戦闘は楽勝。コドランの火炎の息もあるから、1ターンで決着がつかない戦いはない。そしてここでは、ドロヌーバのヌーバが仲間になった。まだ2〜3回しか戦っていないのに仲間になったのだ。今日はツイてる!洞窟は、それほど深くはないものの、落とし穴が多くて苦労した。暗くてわかりにくいのだ。もっとも、それだけに、最下層までたどり着けた時には嬉しかったが。
最下層には、ちょっとした部屋のようなものがあり、そこには干し草らしきものの山が。そしてそこには、話に聞いていた「トラのような怪物」……キラーパンサーが。こいつか!!
近づいてみると、キラーパンサーはいきなり襲いかかってきた!
早速戦闘になったのだが……強い。なかなかダメージを与えられないのだ。それにどうも様子がおかしい。あまり積極的に攻撃してこないのだ。時々立ち止まって様子を見たり……そして、何かをしきりに思い出そうとしているように見える。
……待てよ。キラーパンサーって確か、ベビーパンサーの成長した姿だったよな?まさか……ひょっとして………。
信じられない気持ちだったが、ものはためし。ビアンカのリボンを見せてみた。すると、そのキラーパンサーはおとなしくその匂いをかいで……思い出したらしい。僕の顔をなめはじめた。
キラーパンサーは、プックルだった!
ああ、プックル、生きていてくれたんだ……!正直、ベビーパンサーだった頃の方が可愛かったとも思うけど、やっぱり大好きだよ、プックル!!よかった……生きていてくれて、本当に嬉しい……!!
プックルは、僕の顔をひとしきりなめた後、奥から何か剣を引っぱってきた。見覚えのある紋章……これは、父さんの…パパスの剣!?持っていてくれたのか、プックル……!!君は、なんて良い奴なんだ!!ありがとう、プックル……君は、最高の友達だよ!!
思いもよらぬ収穫だった。こんなところで、生き別れになったはずのプックルと再会できるなんて。これからは、ずっと一緒だよ、プックル……!!(途中で預かり所行きにしてしまうかもしれないけど)
プックルは、別れた時よりもずっと強くなっており、また、鉄の爪と皮の腰巻きを装備していた。……あれ?確か、プックルが装備していたものは全部、別れたときにいつの間にか袋の中に入っていたはずだけど……あの後、別のところで手に入れたんだろうか?それにしても、皮の腰巻きなんてどうやって装備したんだろう?自分で装備できるようには思えないんだけど……。
若干の疑問はあるが、プックルと再会できた喜びの前には些細なこと。とりあえず僕たちは、村に戻ることにした。戻ってプックルを紹介し、もう安心だということを教えてあげなければ。
……しかし、喜び勇んで村に入った僕たちを迎えたのは、村人達の冷たい視線だった。僕とプックルが一緒に歩いているのを見て、僕が「怪物」とグルになって村を脅していたと思ったらしい。……まだ、何も言ってないのに。
村人達は、僕が何を言っても聞く耳もたなかった。僕たちを怖れ、疎み、早く出て行けと罵った。
僕には、そんな村人達の姿が、魔物よりもよほど恐ろしく、醜く見えた……。
でも、村にいたおばあさんは、僕を怖れも罵りもしなかった。
村長の奥さんは、僕にちゃんと礼を言ってくれた。
少年は、僕をモンスター使いと呼び、かっこいいと言ってくれた。
……気付けば、いつの間にか、僕の職業欄が、「さすらいのたびびと」から「モンスターつかい」になっていた。
こんな村でも、悪い人間ばかりではない。
そして、モンスターも、悪いモンスターばかりではない。
僕はそこに、一条の光を見た気がした。
その光を世界中にひろげていく……モンスター使いに、僕はなろう。
愛をもってモンスターと戦う……その言葉の本当の意味が、この時初めてわかった気がした。
全てのモンスターに、愛を…………。
2004.4.30
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