失われた10年(1)

 

冒険の書:14

 

さて、今日は早速北の大陸へ出発だ。…そうだ、その前に、景気づけにカジノで遊んでいこう!

 そう思った僕たちは、カジノへ突進。……といっても、まだ持ち金はそんなに多くないので、とりあえずコインは10枚だけ購入。さあ、遊ぶぞ〜!

 まずは近くにあったスロットマシン。2,3回やってみたが、外れ。まあ、そんなにすぐに当たるわけもないか……。しかし、他の遊びもしたいので、スロットはこれぐらいにして、次は格闘場。なかなか凝った作りになっていて、掛札にまでモンスターの絵がきちんと描かれていたりする。まず1枚賭け、それは負けてしまったのだが、次の試合で倍率を気にせず思い出のベビーパンサーに賭けたところ、見事勝利!7枚入手。これで今までの負けを取り返すことができた。ああ、ありがとうプックル……!

 気分が良くなった所で、舞台の方もちょっとのぞいてみる。ヘンリーが、調子にのって歌なんて歌い出したので、思わず笑ってしまった。控え室にも行ってみると鏡がおいてあり、僕たちはかわるがわる鏡をのぞきこんでみた。昔はよく鏡に触って汚しちゃったりしたっけ。なつかしいなあ。ふと思いついて、ブラウンやスラリンを鏡に映してみたら、二人ともずいぶんびっくりしていて、その反応が非常に面白かった。ああ、ブラウン、君はなんてかわいいんだ!

 次に、スライムレースとすごろく場にも行ってみた。両方とも負けてしまったが、大いに楽しめた。カジノはいいなあ。

 しかし、本来の目的を忘れてはならない。十分楽しんだことだし、やみつきにならないうちに、また旅立つことにしよう。

 ……そうして、町を出て、橋を渡って地図をひろげると……なんか、見たことのある地形に見たことのある建物???

 まあいいや、とにかくその建物のところに行ってみよう…って、え?この先はラインハット?するとここは、あの関所?へえ〜、そうか、つながってたのか……。あれ、じゃあ、そうすると、近くにサンタローズやアルカパがあるってことか!!?うわあ、なつかしいなあ……あの村が、すぐ近くに。僕の故郷。僕が唯一、幸せな時をすごした場所。

 ……すぐに行ってみよう!今頃どんなふうになっているだろう。オラクルベリーみたいににぎやかになってたりして。それとも昔のまま?どちらにせよ、あの村に流れていた穏やかな空気はきっと変わらないだろうな。サンチョやビアンカにも会いたい。元気でいるだろうか。今頃どうしているだろう。また仲間になってくれると嬉しいんだけどなあ。

 そんなことを考えながら歩いていると、なんと、おばけキノコのマッシュが仲間になった。これは、幸先がいい。いい事は重なるものだなあ。

 マッシュは成長が早く能力も高い。眠りこうげきや息攻撃など、様々な役立つ特技を覚えたし、攻撃力も無装備でブラウンより高い。とてもありがたいことだ。……が、マッシュには致命的な欠点があった。可愛くないのだ。ブラウンやスラリンと違って、その歩く姿を見て幸せな気分にはなれない。そんなわけで、能力的にはブラウン・スラリンよりも勝るが、マッシュは馬車行きである。ごめん、マッシュ。

 それでもマッシュの早い成長を楽しんでいるうちに、僕たちは思ったより早くサンタローズに辿り着いた。既に夜半近くになっていたが、子供の頃は、夜家を出て村の中を歩き回らせてはもらえなかったので、久々に昼の村を見る前に、一足先に夜の村を見て回るというのも悪くないかもしれない。

 ……だが、いざ村に足を踏み入れてみると……何か、様子が変だった。あの穏やかな優しい空気は消え失せ、どこか悲しみに満ちた空気が漂っている。おまけに入り口には誰もおらず、毒の沼地までできている。……どうなってるんだ!?

 嫌な予感を抱きつつ、傍らの階段を上がると、前は立派な建物として建っていた宿屋や家が、廃墟と化していた。そして、近くの畑は荒れ果てており、大きな黒いカラスが留まっていた。近づくと、羽根をひろげて西の方へ飛び去っていったが……なかなか凝った演出である。うう……何も、ここまでしなくてもいいものを。ますます不幸な気分になってしまったじゃないか。不幸の神でも住み着いたのか、ここは?

 唖然としながら、そのままあちこち歩き回ってみたが、明るいことは一つもない。かつて僕の家があったところに行ってみたが、寂しく焼け跡がのこってるだけだったし……。だが、教会はそのまま残っていたので中に入ってみた。そこにはあの時と同じシスターがいて、ラインハットの兵士達が、王子行方不明はパパスのせいだと言って村に火を放っていったのだと教えてくれた。

 父さん……僕たち親子って、ひょっとして疫病神?あの状況ではそう思われても仕方ないかもしれないけど……ああ、なんか本当に悲しくなってきたなあもう……と落ち込んだが、もっと深刻だったのはヘンリーで、見てるこっちが気の毒になるほどショックを受けていた。

 うう……10年の間に、こんなことになっていたなんて……。

 シスターは、僕が誰だかわかると、とても驚き、また喜んでくれた。昔みたいに、「わーいわーい!」と飛び上がって喜んだりはしてくれなかったけど。喜んでくれたのは嬉しいけど、飛び上がってくれなかったのはちょっと寂しいなあ……。

 しかし、落ち込んでばかりもいられない。ここは、僕の知る限り、父さんが最も長く滞在した村だ。父さんのやっていたことについて、何か分かるかもしれない。とりあえず今日は宿屋に泊まって、明日いろいろ調べてみよう。

 宿代は驚くほど安かったが、その晩はよく眠れなかった……。

 

 

冒険の書:15

 

 朝になったが、村の寂れた印象は変わらないままだった。しかし、明るくなったおかげで、動きやすい。井戸の中にもぐってみると、以前洞窟で会ったスライムがいて、洞窟の奥にパパスの研究室があると教えてくれた。……そういえば、父さんはいつも、イカダに乗って洞窟に何かをしに行っていたっけ。あの時は、おじいさんが通せんぼして通れなかったけど、大人になった今なら、奥まで通してくれるかもしれない。

 洞窟前のおじいさんの家に行ってみると、幸いそこはさしたる被害もなく、おじいさんも元気だった。ベッドでは、小さな男の子が昼寝をしていて、「君は誰?ベラ?おかしな名前だね……」なんて寝言を呟いている。夢の中で、妖精の国に行っているのだろうか。……昔を思い出して、なんとなく微笑ましい気持ちになった。

 おじいさんは、もう僕を止めようとはしなかったから、すんなりと洞窟の奥に入ることができた。昔は、この洞窟の奥に入ってみたいとどんなに思ったことだろう!そして、早く大人になりたいと、どんなに願ったことだろう!そうしたら、もっと色々な所へ行けて、色々なことができるのに、と。……しかし、こうして大人になり、あのころ出来なかったことがこうして出来るようになっても……そんなに嬉しいとは思えなかった。大人になりたがっていたあの頃の方が、こうして大人になった今よりも、遙かに幸福だったように思えるのだ。ただただ冒険に心躍らせ、自分がその気になれば何でもできると思っていた。父さんと一緒にどこまでも旅をしていけると……そう、信じていた。父さんが僕の前からいなくなってしまうことも、光の教団のような恐ろしい存在も、そして圧倒的な力の前にただ無力な自分も。何も、知らずにいることができた。そんなこと、考えもしなかった。……大人になるということは、それらを知ることだった。何かを為せるようになるということは、何かを知るということだった。知らずにいられたら、どんなに幸福なことだったろう。だが、それがより大きな行動範囲をー自由を手にするための、すなわち大人になるための代償だった。大きすぎる代償。ずっと子供のままでいられたら……!!しかし、それは叶わぬ事。人は皆、大人にならなければならない。

 ……前に、進まなくては。

 そうして、僕たちは、洞窟の奥へと進んでいく。しばらく行ったところで、ずっと黙り込んでいたヘンリーが口を開いた。

「お前の村がこうなったのて、やっぱりオレのせいだよな……」

「オレにできることがあったら何でも言ってくれよっ」

 胸を衝かれた。

 村がこうなったのは、別にヘンリーのせいじゃないとか、色々言いたいことはたくさん会ったけれど。今は、ただ。ヘンリーという友達がいて、本当に良かったと……そう、思った。

 洞窟の中は、今まで見たことのない魔物達がたくさん出てきた。外のよりも、数段鋭い。ううむ……子供の頃、こっちの洞窟に入っていたら、瞬殺されていただろうな……。

 ダメージ量が大きいのは、なんといってもアウルベアー。大きな爪でひっかいてくる。こいつは、なるべく早く倒してしまいたい。できれば、攻撃される前に。そして、ダメージ量はアウルベアーよりはましなものの、今回一番手こずったのは、ガメゴン。とにかく甲羅が固くてなかなかダメージを与えられない。打撃だけで倒そうと思うと、何ターンもかかってしまい、当然こちらのダメージ量も大きくなる。それで、こいつに会った時だけは、呪文を使った。ヘンリーのメダパニ、ルカナン、イオは非常にありがたい。また、ごくたまに僕もバギマを使った。この前レベル17になって、覚えたばかりなのだ。バギマを使うと、固いガメゴンも一撃で倒せるので非常に気分爽快。しかし、僕は唯一の回復担当なので、MPはひかえなければならず、そう頻繁に使うわけにはいかなかったが。

 結構苦労したが、それまで散々レベル上げをしていたおかげで、命の危機を感じることもなく最下層に辿り着いた。

 そこが目的の場所だと、すぐにわかった。天然の洞窟の中で、その部屋だけ、人の手が入っている。特に変わった所のないような本が集められた本棚もあり……そんな本をわざわざこんな所まで運び込んで部屋を作り上げるなんて、父さんって結構物好きだったんだな……。なんて感慨にひたりながらも、何かいいものはないかと辺りを見回していると、部屋の奥に変わった剣があるのを見つけた。変わった……というか、なんだかすごい剣。さっそく手にとってみたが、異様に重くて体もだるくなり、とても持っていられなかった。第一、使おうにも鞘から抜けないのだ。これではどうしようもない。とりあえずその剣を袋に放り込んでため息をつくと、傍らに手紙のようなものを見つけた。もしやと思い、広げてみると……やっぱり。父さんからの手紙だ。僕にあてて何か書いてある。

 ヘンリーと一緒にその手紙を読んだのだが……その手紙には、僕の母マーサは魔物と心を通わせる不思議な力を持っていて、その力のために魔界にさらわれてしまったこと、そして魔界に入り母マーサを助けることができるのは天空の武器防具を身につけた勇者だけであること、天空の剣は見つけたものの、伝説の勇者はいまだ見つかっていないこと……などが記されており、最後に、残りの防具と勇者を探し出しマーサを助け出すようーそう、結んであった。

 父さん……僕がまだあんなに小さかった時からこんな手紙を残していたなんて……やっぱり、何か予感があったんだろうか。ああ、あの時の僕がもっと大きくて、強かったら……!!

 しかし、これで手がかりはつかんだ。何か、想像していたよりも遙かに大変なことになりそうだけど……まず当面の目的は、伝説の勇者と天空の武器防具を集めることだ。天空の剣は、さっき手紙の傍らにあった剣……あれが、そうなのだろう。あれを装備できる者が、勇者。あれを装備できる者を、探さなくてはならない。

 ……悔しい。何故僕は、勇者ではないんだろう。

 おとぎ話に出てくる、伝説の勇者。子供の頃は、僕がその勇者になって、悪い奴をやっつけるのを夢見たものだった。しかし……僕はゲマに勝てなかった。僕は、勇者ではなかった。

 それはあの時、思い知らされたことだけれど。それでもやっぱり、僕が勇者ではないとこうしてはっきり示されると忸怩たるものがある。

 ……父さんも、悔しかったんだろうな。本当は自分の手で母さんを助け出したかっただろうに、勇者を見つけ出さなければそれは叶わない、なんて……。

 まあ、でも。ここまで来ただけの甲斐はあった。とにかく収穫はあったんだ。ここで立っていても仕方ない。……戻ろう。

 こうして僕たちは、村に戻った。父さんの手紙に書いてあったことを説明すると、シスターは、アルカパに勇者に詳しい人が住んでいると教えてくれた。

 ……へえ。そんな人がいたとは初耳だ。

 しかし……アルカパ、か……。丁度、この後寄ってみようと思っていた所だ。世の中も、そう悪いことばかりではない。

 宿で一休みしたら、早速出発しよう。

 そこではまた、新たな手がかりが得られるだろうか。

 ビアンカに、会えるだろうか………。

 

 

2004.4.24

 

 

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