自由

 

ぼうけんのしょ:P12

 

…波の音が聞こえる。

 なんだろう。温かくてフカフカする……こんな感じは久しぶりだ。

 久しぶり…前はよくこうしていて……今は?

 僕は……どうしたのだろう?

 まだ頭がはっきりしないまま、そっと目を開けると、そこには心配そうな顔のシスターがいた。

 ……なんでも、僕は5日も眠り続けていたらしい。

 僕たちがタルの中に入っていたのをみて、たいそう驚いたとか。既に事情は聞いているらしく、元気になるまでゆっくりしていってくださいと言ってくれた。こんなふうに誰かに親切にしてもらえるなんて、何年ぶりだろう。……シスターの優しさが、身にしみるならあ。

 あらためてまわりを見回すと、いつの間にか服がかわっていた。僕があまりにもボロボロの服を着ていたのを見かねたシスターが、荷物の中から丁度良い服を見つけて着替えさせてくれたらしい。…うう、ようやく逃げられたんだって気がするなあ。

 そういえば、ヘンリー達はどうしてるだろう。シスターの話では、もう目を覚ましてるみたいな口ぶりだったけど。

 気になったので、シスターにお礼を言って、とりあえず二人のところに行ってみることにした。しかし、探すまでもなく、部屋を出たところでヘンリーに会った。

 ヘンリーは、僕が着替えたのを見て、自分はまだ奴隷の格好のままだとぼやいた後(ヘンリーは、着の身着のままさらわれてきたからなあ……王子の服も、とっくにボロボロになっちゃったし)、マリアがこれから洗礼式を受けるから見に行こうと引っぱるようにして僕を誘った。

 しかし、洗礼式って……なんか、僕が寝てる間に結構いろんなことがあったみたいだな。とすると、二人は僕よりずいぶん早く目を覚ましたのか。……なんか、悔しいぞ。

 洗礼式は、思っていたよりも簡単で、なんだか呆気ない気もしたが、それでもマリアにとってはすごく意義のあることなんだろうと思う。マリアが自分の道を見つけたのなら、それはヨシュアにとって望むところであり、僕としても嬉しい。後で聞いた話では、マリはシスターの間でも、たいそう心の美しい人だと評判で、シスター達にも歓迎されているようで、本当によかった。

 洗礼式の後、ヘンリーは一人急いでどこかへ行ってしまったようなので、とりあえず、僕は一人でマリアのところに行ってみた。マリアは僕の目が覚めたことを喜んでくれ、兄からあずかったものだといって、1000Gをくれた。

 ありがとう、マリア、ヨシュア……!本当にありがとう……!!

 君たちは、なんていい人なんだ!!この恩は一生忘れないよ!!

 そう、この時強く思ってしまった自分に若干自己嫌悪を感じながらも、僕はなるべくそれを表情には出さずにお礼を言い、マリアと別れて修道院周辺をのんびりと散策した。

 ……こんなに穏やかな気持ちになったのは何年ぶりだろう。子供の時以来かもしれない。

 すごく静かで、聞こえるのは波の音。鐘つき場までのぼると、ずっと向こうまで青い海が広がっているのが見えて、とても美しい。足元には色とりどりの花々が咲き乱れていて、これまたとても綺麗だ。

 そして、シスターは、みな優しく、出会うたびに温かい励ましの言葉をくれる。一人のシスターは、修道院に暮らす者が祈りを込めて彫ったものだと言って、木彫りの女神像をくれた。特別な力が宿るものではないと言っていたが、身につけると、運のよさが、なんと20も上がるのだ。これはありがたい。

 ……僕は、つくづく運が悪かったからなあ。

 父さんは殺され10年奴隷ってだけでも十分不運だけど、同じような経歴のヘンリー(しかもレベル1)と比べても、運のよさは比較にならないぐらい低い。子供の時から、ビアンカやプックルの運のよさをみて、なんで僕の運のよさはこんなに低いんだろうといつも思っていた。生まれつき低いだけでなく、レベルアップしてもなかなか上がらないのだ。

 そんな不運な僕にも、人並みの運を手に入れることができるチャンスが!!

 ああ、ありがとうシスター、心から感謝します……!!

 むろん、嬉しいのは運が上がったからばかりではなく、シスターの温かい心遣いが身に染みたのだ。信じてもらえないかもしれないが……。

 とにかく、ここは本当に穏やかで温かで居心地がよく、ずっとここにいてもいいような気分になってくる。一生ここで暮らすのも悪くないかな……って。

 でも、いつまでもここで休んでいることはできない。僕は、父さんの最期のをはっきりと覚えている。

 ……母さんを探さなくては。

 そして。あの憎きゲマを必ず倒す!!むろん、手下のジャミ、ゴンズ、そして光の教団の教祖もだ!!

 名残惜しいが、そろそろ行かなくては。もう、十分休んだ。これ以上ここにいては、旅立つのが億劫になるかもしれない。

 そう思って門を出ようとすると、そこにヘンリーがいた。洗礼式の後、姿を消したと思っていたら、こんなところにいたのか。

 ヘンリーは、僕の考えていることを、もう察しているようだった。いよいよ旅立つのかという彼の問いに、僕がそうだと答えると、彼は、自分も同行させてほしい、と言ってきた。むろん、仲間は多い方がいい。大歓迎だ。……昔みたいにイヤな性格のままだったら断るかもしれないけど。でも今はすっかりいい奴で、戦闘面だけでなく、移動中のおしゃべりという点でも旅には欠かせない人物となりそうだ。僕がそう言うと、早速出発することになった。

 …思い立ったらすぐ行動、の人だよなあ、ヘンリーって。それとも王子っていうのは、みんなこんな感じなのかな。昔読んだ「エデンの戦士たち」って童話に出てくるキーファ王子も、熱い情熱の持ち主で、本当に思い立ったらすぐ行動、台風のような人だったもんなあ。

 門を出ようとすると、僕たちが旅立つと聞いた修道院の人達が見送りに来てくれた。マリアも。マリアは、ここで多くの奴隷にされた人達のために毎日祈ることにしたとか。

 マリアにお別れを言うとき、なんだかヘンリーはずいぶん寂しそうな様子だったけど……「奴隷の時は気付かなかったけどマリアさんて綺麗な人だよなあ」なんて言ったりして。ひょっとして、ヘンリー……まあいいや、「マリアと一緒にいたいからもう旅はやめる」とかさえ言わなければ、別に。ちゃんと僕の旅についてきさえくっるならそれでいいさ、……なんてことを考える僕って、結構冷たい人間かも知れない………。

 なにはともあれ、温かい修道院に別れを告げ、僕たちは新たな旅に出た。もう、誰も僕たちの行動を縛ったりしない。目の前には、広大な世界が待っている。

 

 

ぼうけんのしょ:13

 

 外に出ると、太陽がまぶしかった。

 ―自由だ。

 ヘンリーも感慨を抑えきれない様子で、二人してあちこち駆け回った。

 それにしても……さっき気付いたんだが、僕の職業欄が、いつの間にか「パパスのむすこ」から「にげたドレイ」になっている。

 ……なんか、めちゃくちゃ格好悪いぞ。ヘンリーは「ラインハットおうじ」なのに。ずるいよなあ、コレ。なんとかならないもんかなあ……。

 なんてことを考えながら歩いていると、すぐに町に着いた。一度も魔物に出会わなかった。結構近いんだな。

 町はオラクルベリーといった。なかなかいい響きの町だ。

 町に入ってすぐ、僕とヘンリーはたちまち腰をぬかした。すごく大きな街だったのだ。……いや、町ではなく、都。まさに「都」というにふさわしい、大都市だった。

 都はぐるりと塀に囲まれ、隅々まで整備されている。建物は全て石造り、道も川も全て人の手が入っている。町の各所にランプが灯され、昼も夜も明るい。川の水面に灯が揺れる様が、いかにも「都」といった感じだ。そして、町の中心部に一際大きい建物―カジノがある(これは大いに興味があるが、もう少しお金がたまるまで自粛しよう…)。

 王都ラインハットも、ここまで華やかではなかった。僕もヘンリーも、しばらく呆然として立ちつくしていた。

 ……いや、しかし、いつまでも飲まれているわけにはいかない。まずは買い物だ。

 武器屋に行って、新商品・刃のブーメランを買う。今まで装備してたチェーンクロスより若干攻撃力は劣るが、なんといっても敵全体に攻撃できるのが魅力。そして、今まで使っていたチェーンクロスをヘンリーに渡す。防具も、袋の中にあった鉄兜やうろこの鎧などをヘンリーに装備させた。鉄の鎧などもこの町には売っていたが、この先お金がいろいろと必要になるだろうし、ここで全部使ってしまうのは得策ではない。

 買い物の後も、「いかにも田舎者でございます」といわんばかりにあちこち見物していたら、地下室で「モンスターじいさん」なる人物に出会った。モンスターじいさんは、僕に、なんと、モンスターを仲間にする方法、というのを教えてくれた。なんでも、憎む心ではなく愛をもってモンスターと戦うとか。

 モンスターを仲間にできる!!

 じゃあ、あの可愛いスライムとかスライムナイトとか、ブラウニーとか、ガップリンとか、他にもいろいろ……あの愛くるしい魔物達と一緒に旅ができるのか!!うわあ、それは楽しみだなあ。

 早速試してみよう……と思ったのだが、そのためには馬車がいるらしい。この町には、変なものばっかり売ってる「オラクル屋」って店があるそうだから、そこへ行けば売ってるかも……と思って行ってみたものの、店はもぬけのから。何でも、夜しかやっていないとか。仕方なく、夜になるのを待つことにした。

 町にいてもしょうがないので、せっかくだから、外に出てお金と経験値を稼ぎながら夜を待つ。……うう、なかなか夜にならないなあ……。こういう時にかぎって、時間が経つのが遅く感じられるんだ。

 それでも歩いていれば時間がたつ。ようやく夜がきて、星を見る暇もおしんで早速オラクル屋へ。予想通り、ここでは馬車を売っていた。それも、なんと300ゴールドで!10分の1の値段にまけてくれたのだ。これも、木彫りの女神像の幸運か?

 馬車が手に入って少し余裕ができたので、少し町を見物してみることにする。昼と夜では、色々と様子が違っていて面白い。

 そうして見物していると、占い師を見つけた、ためしに話しかけると、「おぬしは男前でわしの好みじゃから、特別にただで見てやろう」と言う。そうか、男前なのか、僕……。なんだか嬉しいぞ。

 占いは、僕が探してる人はまだ生きている、北に行けば何かを見つけられる、ってことだったけど……僕が人を探してることがわかったんだから、この占い、信じていいのかな。「まだ生きている」……本当に、当たるといいな。

 なんとなく気分がよくなったのを機に、そのまま外に出た。さあ、はりきって戦うぞ!

 変化があったのは、戦いはじめてわりとすぐだった。倒したブラウニーが、起きあがって仲間になりたそうにこちらを見ていたのだ。なんとも愛くるしい。喜んで仲間に加えると、ブラウニー(ブラウンという名前らしい)は飛び上がって喜んだ。ああ、なんて可愛らしいんだろう!

 初めて仲間になったモンスターだ。まるで子供が生まれたように嬉しい(いや、そんな経験はないんだけど)。大事に可愛がってあげよう。まずは装備を整えないとな。

 そのために、さっそく町へ。チョコチョコトテトテ一生懸命後をついてくる様子が、もう可愛くてたまらない。あの大木槌を「ヨイショ ヨイショ」「う〜ん う〜ん!」と必死に持ち運ぶ姿も可愛くて可愛くて。思わず何回も抱きしめてしまった。ヘンリーにはあきれられたけど……。

 そんな可愛いブラウンには、最上級の装備を。鉄の鎧に鉄兜。袋の中からうろこの盾。あいにくブラウンに装備できる武器は売ってなかったんで、武器は無装備のままだけど……。これでお金はすっかりなくなってしまったけど。僕は満足。

 防御は整えたし、HPも40そこそこあるから、すぐに戦闘に参加させても大丈夫。無装備だけど、そこそこ攻撃力あるしな。

 そんなわけで、ほくほく笑顔のまま、オラクルベリーのまわりでレベル上げ&お金稼ぎ。そのうち、スライム三匹も仲間に!

 最初に仲間になったのはスラりん。後の二匹はスラぼう、アキーラという名前だったが、どうもピンとこなかったので、それぞれプライム、ぷにぷにと改名。ぷるぷるふるえてピョコンピョコンと飛び跳ねながらついてくる様子がこれまた可愛らしいのだ。

 最初はお金がなくて装備が買えず、HPも低くて危険なので、すぐに戦闘に加えることはできなかった。しかし、スライムは成長が早い。レベルアップもブラウンよりずっと早くてすぐに追い抜いてしまったし、一回のレベルアップでHPが10以上上昇するのだ。もっともこれはレベル5までで、レベル6からは、上昇値は一般的なものになるが。

 そんなこんなで、他の防具よりも安いスライムの服ととんがりぼうしを購入すると、思ったより早くスラりんを戦闘に参加させることができた。武器は、僕が以前使ってたブーメランだが、刃のブーメランを購入できれば、攻撃力は素手のブラウンに近いものになる。

 海辺の修道院の人達は相変わらず温かく親切で、タダで泊めてくれるので、これに甘えて少しでも宿代を節約。

 こうして何度も戦闘を繰り返すうち、無事刃のブーメランを購入。これで随分戦闘が楽になった。全体攻撃ができる人間が二人いるって素晴らしい。それもスラりんの装備がブーメランでは今ひとつ効果が薄かったが、刃のブーメランになってからは、大抵の敵はほぼ1ターンで倒せるようになった。

 プライムとぷるぷるにも、無事スライムの服ととんがりぼうしを購入。武器は、二匹とも、袋の中にあったブーメラン。馬車の控えだから、こんなところでいいだろう。

 現在僕はレベル15(なかなか上がらない…)、ヘンリーLv9、ブラウンLv5、スラりんLv8、プライムLv6、ぷにぷにLv4

 ブラウンの成長が遅いのがちょっと気になるが…しかし、全体的には順調順調。明日は、占い師の行ってたとおり、橋をわたって北に行ってみようかな。橋をわたると魔物が強くなるってジンクスを聞いたことがあるけど、こっちも結構強くなったし、大丈夫だろう。

 お祈りでもして、今日はもう眠るとしよう。

 

 

2004.4.14

 

 

 

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