虚空を駆ける白い機体。
一瞬の光の閃きの後には、音もなく爆光が広がる。
―また一機。
光の戦士に、翼を持たぬ者達は、次々に塵へと返される。
しかし、それでも光の戦士は不満だった。
何かがおかしい。
どこがどうとはいえないけれど、白いパートナーの様子がいつもと違う気がする。
帰ってから、念入りに点検した方がいいかもしれない。
―また一機。
これで最後だ。
ほっと一息ついた時、激しい衝撃が機体を襲った。
真っ赤に染まる視界。
鳴り響く警報音。
―一体何が。
敵は全て倒したはず。味方。誤射。いや。
―違う。これは……。
悟ったその途端、再び激しい衝撃が機体を襲った。
攻撃―いけない、機体がいうことを聞かない。
どこかで態勢を立て直さなくては。
どこか。
どこへ。
……どこへ行きたい。
青い空。
行きたい。
……青。
薄れていく意識の中、イーグルは、最後に青い空を見たような気がした。
この青い空の下で
ぼんやりと目を開けると、辺りには淡い闇が広がっていた。
そっとまばたきを繰り返すと、徐々に意識がはっきりしてくる。
あの時、味方だと思っていた者から砲撃を受け、FTOは戦闘不能状態に陥った。
どこか近くの星に着陸して、なんとかその場をやりすごそうと思ったところまでは覚えているが、そこから先は、機体を最後にどこに向けたのかも覚えていない。
しかし、どうやらとりあえずは助かったようだ。
イーグルはベッドに寝かされてはいたが、特にどこかを怪我しているような様子もなく、多少の疲れを除けば全くの無傷だった。
砲撃で受けたダメージと、着陸の際受けたであろう衝撃を考えると、これは奇跡に近い。
それとも、誰かが手当をして受けたはずの傷を治してくれたのだろうか。
そう思い、イーグルはゆっくりと身を起こす。
辺りには誰もおらず、部屋には柔らかな光を放つ灯りがあるだけ。身につけていたマントや武器も見当たらない。
いや、よく見ると、床に魔法陣のような模様が描かれている。
―ここは一体どこなのだろう。
あの近隣の国々はもとより、イーグルの知るかぎりでは、このような細工のライトや模様を扱っている所は一つもない。
芸術家の家なのだろうか。
灯りをもっとよく見ようと立ち上がると、突然部屋の横手から眩い光が差し込んできた。
扉があるようには見えなかったが、いつの間にかそこは四角く切り取られ、白い空間を浮かび上がらせていた。
そしてそこに佇む黒い影。
逆光で顔はよく見えないが、大柄な男で、なんと鎧を身につけている。
まるでおとぎ話にでてくる騎士のようだとイーグルは思った。
思わずじっと見つめていると、男はゆっくりと口を開いた。
「……もう、大丈夫なのか」
低い声。そこには、どこかいたわるような響きがあった。
「ええ、この通りです。あなたが助けて下さったのですか」
にっこりと微笑みイーグルが答えると、男はぽつりと
「……手当てをしたのはグルとザガートだ」
と呟くように言った。そして、それは誰かとイーグルが聞く前に、
「……ついて来い」
とだけ言って、名も告げずにさっさと背を向け歩き出してしまった。
慌てて後を追うイーグル。
部屋の外には、長い廊下が続いていた。高い天井。城のような内装。
本当に、ここはどこだろう。
あれからどのぐらいの時間がたったのだろう。
話からすると、やはり自分は何らかの傷を負っていたようだが、今ではまったくその痕跡すらない。
そして、彼は一体何者なのだろう。
顔もはっきりとはわからなかったが、恐らくファイターだろう。それも、かなりの使い手。
あれこれ疑問は浮かぶが、男についていくのが精一杯で、話しかける暇もない。
やはりまだ本調子ではないのか、思うように速く歩けないようだ。
一旦考えるのをやめて、歩くのに専念した方がいいかもしれない。
そうしてしばらく黙ったまま歩いていると、突然目の前が明るくなった。
どうやらさらに開けた場所に出たらしい。これまでよりもさらにまばゆい光を感じる。
そして。
一歩踏み出すと、そこには。
―青い空が広がっていた。
2007.6.3