ミランとオルラ兄妹

 

 

 この「伝説の勇者の伝説」には、影の仕事を担当する人物として、ローランドにはミラン・フロワード、ガスタークにはオルラ兄妹がいる。そのような仕事を担当する以上、両者は「誰にでも好かれる人物」ではありえず、事実私はオルラ兄妹は大嫌いだったりするのだが、その一方でなぜかミランの方はわりと気に入っていたりする。
 この違いは一体どこから来るのだろう。不思議に思ったので、ここで両者の違いを考えてみることにした。

 ……ただ、考察の動機が動機なので、この先にはオルラ兄妹の悪口が含まれると思います。オルラ兄妹のファンの方がご覧になった場合、気分を害する恐れがありますので、ファンの方はこちらからお戻りください。

 

 

 ミランとオルラ兄妹の違いは色々あるが、まずその一つは「悪逆非道の具体性」である。

 オルラ兄妹は勇者の遺物を見られたという理由だけで何の罪もない近隣の住民全てを虐殺したり、ネルファとの交渉の際兵士たちを皆殺しにしたりと、その悪行の数々は枚挙に暇がない。魔眼保持者に対する言動はことに酷く、笑いながら彼らを屠る様は正に悪鬼そのものである。

 ミランも影では色々とえげつないことをやっているのだろうが、さてでは具体的に何をやっているのかということになると、それはこちらにはあまり示されていない。何かというとすぐに暗殺しようとする悪い癖があるが、それで実際に殺された罪のない人物というのはすぐには思い浮かばない。
 エスタブール反乱軍の幹部とローランドの貴族に対しては大虐殺を敢行しているものの、彼らが皆どうしようもないほど腐りきっていたため、「なんと酷いことを」というような印象は受けなかった。むしろローランドの貴族に関しては、様々な悪辣な振る舞いが示されていたこともあり、「よくやった」という感想を持つほどのものであった。
 むろん、ミランも必要とあればためらいなく村の一つや二つ消し去ったり、魔眼保持者を殺したりもするのかもしれないが、実際にそれが目の前に示されるどうかでこちらの受ける印象というのはだいぶ変わってくるものである。

 もう一つは、ミランとオルラ兄妹の「仕事」に対する態度である。淡々とこなすミランに比べ、オルラ兄妹の方は力なき人々を嬲って楽しんでいるとしか思えない。特に魔眼保持者に対しては、「レアアイテムを持ったモンスター」といった認識しか持っていない様子で、メタル狩りをする勇者よりひどい。その行い、その表情、まさしく悪魔そのものである。
 ミランとても必要とあらば魔眼保持者をためらいなく殺すだろうが、オルラ兄妹のような態度はとらないだろう。彼は誰でも簡単に殺そうとするが、それは貴族、一般人、魔眼保持者、そして己自身に対してさえ変わらない。確かに彼は人を人としてみていないかもしれないが、それは自分自身を含むすべてに対してそうなのだろう。彼にとって重要なのは、それがシオンに害がある存在か否かであり、そこに好悪の情は含まれない。「シオン以外は自分も含め皆石ころ」という彼の方が、「自分たち以外皆虫けら」というオルラ兄妹よりも余程好感が持てるのは確かである。
 無論、ミランとても感情を持っていないわけではない。シオンに心酔しているし、クラウやノア・エン、ライナらに対してはどちらかというと好感を抱いているようでもある。その一方ではローランドの貴族やエスタブール反乱軍幹部に対しては若干ではあるが嫌悪や侮蔑といった感情を持っているようにも見え、そのことから考えると、彼の好悪の基準というのはただそれが美しいかどうかにのみ左右されるのではないかと思う。それはある意味とても純粋であり、人の持つ醜さとは無縁であって、一切の濁りなくひたすら己の求める美に殉じる姿はこちらの目には美しいものに映る。「大掃除の宴」で窮地に陥っても全く動じなかったり、クラウがミランを助けた理由を本気でわからない様子だったところなども、彼が純粋であること、そしてまた彼が普通の人とは違う価値基準を持っている(逆に言えば普通の人の持つ感情、価値基準を持っていない)ことを示すものとして印象に残るエピソードである。

 翻って、オルラ兄妹は、純粋なミランとは正反対に、人間の醜い部分を色濃く映し出している。自分は虫けらのように人を殺す一方で、暴走ライナと対峙した時のように己が窮地に陥ると半恐慌状態に陥ったり、仲間が傷つくのは嫌だが魔眼保持者や他国の人間はむしろ嬉々として殺しにかかるとか、その感情はやや常軌を逸しているものの、あくまでも普通(といってよければ)の人間のものである。ことに後者は、片腕を失った兄を必死に連れ帰るなどの「人としての美しい部分」を見せる一方で、魔眼保持者に対する態度など、人の持つことに醜い部分を示しもする。彼らの行動、感情、価値観すべて、ミランとは違って様々なもの―それも偏見や嘲りなど決して好ましいとは言えないものに支配されている。彼らがそんな「普通(よりはもう少しひどいが)の感情」を持つことは、幻影旅団に激怒したゴンのごとく、怒りをかきたてる理由にしかならない。
 ミランは純粋である。純粋すぎて傍目には狂っているように見えるぐらい純粋である。思えばシオンもそうだった。その純粋さにこそ私は強くひかれる。

 ミラン・フロワードとオルラ兄妹。担う役割は同じでも、彼らの持つ性質は根本的に異なるものであった。

 

 

2011.8.15

 

 

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