天才とは何か

 

 「テニスの王子様」には、天才と呼ばれる人達が数多存在する。

そして、あまり天才と呼ばれていない人も、人間離れした技を披露したりする。

彼らと、「天才」との違いは何なのか。また、「天才」と呼ばれる人々の中でも、

それが「称号」として定着しているのは、不二だけである。それはなぜなのか。

それについて、少し考えてみたい。

 そのために、まず「天才」とはどういうことなのかをみていくことにした。

「天才」という言葉を辞書で調べると、

「生まれつき、普通の人には真似のできない、すぐれた才能をもっている人」

(新明解国語辞典)

となっている。

 では、「普通の人に真似のできない、すぐれた才能」とはどういうものを言うのだろうか。

「天才」という言葉がどのような場合に使われるのかも含め、少し考えてみた。

 

  1. 人並み外れて上達が早い
  2. センスがずば抜けている。なかなかわからないような急所を即座に見抜き、的確に突いてくる
  3. 常人には真似のできないことをやってのける
  4. 常人には理解できない面を備えている−独自のものを編み出す

 

 というような場合が挙げられると思う。

 ちなみに、「相手の技を見ただけで真似する」というようなのは、「1」「2」の両方を兼ね備えたものだと思われる。

 「3」は、どんなに練習し、努力を重ねても、常人には不可能なことをやってのける、ということ。

 「4」は、常人とは異なる発想で新たなものを創り出す「天才」の姿。狂人と天才は紙一重、とも言われている。

 一番多いのは「1」のケースだろう。人並み外れて上達が早ければ、それだけで「天才」と呼ばれる。だが、それだと、「テニスの王子様」の主要メンバーのほとんどが、これに該当してしまう。

 おそらく、この世界で「天才」と呼ばれるには、上に挙げた4項目のうち2つ以上を満たしていなければだめなのではないだろうか。

 そして、その中でも、不二のように「天才」の称号が二つ名として定着するには、そのすべての項目を満たさなければいけないのではなかろうか。

 それを確かめるために、作中で実際に「天才」と呼ばれている人達について、ここで取り上げてみたい。

 まず、言わずと知れた天才・不二周助。主人公の越前リョーマも、「天才少年」と呼ばれていた。菊丸も「天才肌」と言われている。

 他校では、山吹中の阿久津、そして氷帝の忍足が「もう一人の天才」と呼ばれていた。

 不動峰の伊武も、センスだけなら「天才・不二周助なみ」と言われていたが、「天才」とは呼ばれていない。おそらく、彼に該当するのが「2」だけだからだろう。ひょっとしたら、「1」も該当するのかもしれないが……もともと、不動峰の知名度が低いせいもあって、とにかく、それだけでは「天才」とは呼ばれてはいないのである。

 また、「青学最強の男」で「全国クラス」である手塚も、その知名度は不二

よりも高いようだが、「天才」とは呼ばれていない。確かに彼は強いかもしれ

ないが、ドロップショットはもともと存在する技で、自分で新たに編み出し

た技ではないし、手塚にしかできない技、というわけではない。

「零式ドロップショット」もリョーマに真似されている。「手塚ゾーン」も、

南次郎が似たようなことをやっていた。

また、リョーマが手塚を「強い」、不二を「巧い」と表現していることから、センスが常人離れしている、

というわけでもなさそうだ。

恐らく、彼に該当しそうなのは「1」のみ……乾の話からしても、これがずば抜けていたのではないかと思われる。これに、凄まじい練習量が加わって、あの強さになったのだろう。

 このように、いかに強くても、手塚は1項目しか該当しないので、「天才」とあ呼ばれないのだろう。手塚を破った跡部にしても、同じようなものだろう。彼の技は、名前とは裏腹に、いたってシンプルなものであった。

 では、実際に「天才」と呼ばれている人はどうか。

 山吹中の阿久津は、運動神経が常人離れしていた。だから、「1」と「3」が該当する。あの動きは、常人には無理だろう。自分で何かを編み出したわけではないので、「2」と「4」は該当しない。2つ該当するため「天才」とも呼ばれるが、それがすべて運動神経に拠るため「怪物」と呼ばれることが多いようである。

 氷帝の忍足。一応羆落としを使用しているので、「3」が当てはまるだろう。

恐らく「1」も当てはまるものと思われる。「2」については微妙なところだ。

センスが優れているような描写があったが、それでも桃城・菊丸のコンビに

出し抜かれているので、それほど卓越したものではないと思われる。

また、羆落としにしても、自分で編み出したわけではないだろうから(恐らく不二のを見て真似したと思われる)、「4」も当てはまらない。

恐らく、当てはまるのは2つ。一応二つあてはまるので、学内では「天才」と呼ばれているようだが、外部にまで名が響き渡るほどではないようである。

 そして、青学。まず、菊丸。動きにやや常人離れしたものがあり、「気まぐれ」という性質が、よくある「天才」の性質に似ているため「天才肌」と呼ばれているのだろうが……それでも「天才」の条件としての項目を満たしている、というのにはやや足りないのか、「天才肌」とは呼ばれても、「天才」とは呼ばれていない。

 そして、主人公・越前リョーマ。

相手の技を見ただけで真似たりしているところから、「1」と「2」は満たしているものと思われる。

「3」は…ツイストサーなどは、現実に存在する技だが…「ドライブB」や「一本足のスプリットステップ」などもある。後者については、立海付属の切原も使用しているが、勘で跳ぶ方向を決めなければいけないので、普通の人にはちょっと難しいだろう。どちらも、不二の技ほどのインパクトには欠けるが……とにかく、「3」についても、十分ではないものの、ある程度はその要素を持っているものと思われる。

「4」についてだが……一応彼も、オリジナルの技を編み出してはいるのだが、何かを確立した、というのには少し足りない。その「天衣無縫のテニススタイル」も、もとは南次郎の確立したものだったし。

「3」「4」については、これを満たす可能性を秘めてはいるが、現時点では十分ではない、発展途上というところだろうか。

だから、現在ではまだ「1」「2」の二つ。「天才」と呼ばれることはあっても、それが二つ名となるほどではない。しかし、この先成長して、「天才」の名を周囲に轟かせるという可能性も大いにある。

 そして、不二。上達速度についてはあまり描写はないのだが、2年になった時点で既にレギュラーだったことや、対六角中の試合で、試合中にさらに強くなったことなどから考えて、やはり、かなり速い方だったと思われる。「1」はまず当てはまるだろう。

 また、卓越したセンスを持つことは、よく言われていることでもあるし、対観月戦では特に技を出した様子もないので、主にこの「卓越したセンス」で勝利したものと思われる。当然「2」も当てはまる。

 そして、「3」。あのトリプルカウンターは、真似しようと思ってもできるものではない、人間離れした技である。よって、これも当てはまる。

 さらに、「4」。彼の「トリプルカウンター」は、それまでに存在したどの技にも当てはまらない、全くのオリジナルである。その発想、そしてそれをきちんと形にして実用化させた点、常人離れしている。また、彼自身の性質も、不可解な要素を多分に含んでいる。これまで検討したなかで、誰一人として当てはまらなかった「4」の要素が、彼にはぴったり当てはまる。

 彼は、4つの項目のうち、全てを備えているのだ。

 こうして見た結果、全ての要素を申し分なくぴたりと備えているのは、不二だけである。だからこそ、彼は「天才」の称号をほしいままにし、その二つ名が各地に轟き渡っているのだろう。

 余談だが、「銀河英雄伝説」で、ただ一人、ヤンから「天才」と評された「ラインガルト・フォン・ローエングラム」も、これら4つの要素を全て備えているものと思われる。

 

 

2003.8.14

 

 

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