タイタニア アニメ感想(3)

 

 

第二十一話 エスタールの邂逅

 今までで一番面白かった。原作ではいまだ一度も対面していないジュスランとヒューリックが、今回戦艦ごしとはいえ初めて対峙したのだ。しかも、あの壮大な主題歌つきで。これが燃えないはずがない。まさにこの時を待っていた!……という感じだった。

 また今回は初めてかもしれないジュスランの活躍を目にすることができて、それがまた大変面白かった。このエスタールのエピソードは原作のバルガシュのエピソードを地名を変えて行っているだけかと思っていたが、実はそうではなく、もし原作バルガシュで政治分野の得意なジュスランが赴いていたら、という「if」を見せてくれたのだということがはっきりとわかったのだ。相手に口を挟ませないジュスランの外交は流石だった。

 また今回バルアミーの命が危険にさらされたことで、危険なリュテッヒにいるよりはいいとの判断から辺境に左遷されることになった。原作と同じ展開になったわけだが、その際シュズランは「もし藩王殿下の許可がいただけないのならイドリス卿に任せる」と発言し、またしてもその政治力を見せ付けている。ここまで言われてしまっては、もしこの先バルアミーに何かあった場合イドリスの責任が問われることになり、それを思えばイドリスもバルアミー殺害を諦めざるを得なくなる。あまり目立たないジュスランの得意分野「政治力、外交力」が存分に発揮された回だった。

 あと今回は話の後になんと原作者へのインタビューがあった。口調などが対談にあるのと全く同じで驚いた。内容も興味深く、「タイタニア側は舞台俳優、ヒューリック側は白黒ミュージカルのイメージ」というのを聞いてなるほどと思った。確かにそんな感じだ。

 

第二十二話 野望のプレリュード

 今回はイドリスが主人公。登場人物の中で最も行動力に溢れ、やる気のないジュスランよりもよほど働いているイドリスの過去がこの話でじっくりと描かれる。原作では軽く触れられただけの彼の過去をこうしてじっくりと見ることができたのはとても嬉しい。イドリスがこのような背景を持っていたというのは原作を読んだときとても印象深く感じたことだったから。

 会議の後「口から先に生まれてきたような男」とジュスランを罵り(ジュスランが基本的に無口であることを考えるとこのセリフは面白い。確かに彼は口がうまい)、やけ酒を煽るイドリス。父の姿が刻まれたペンダントを取り出して、昔の誓いを思い出す。

 話は十年前に遡る。昔の話なので、登場人物は皆若々しい姿。アリアバートは今とあまり変わっていなかったが……しかしそんな中でも登場人物それぞれの個性がもう既に現れていてそれが興味深かった。ジュスランがさり気なく面倒見のよさや社交の場での如才なさを発揮していて面白い。イドリスも、今の姿から毒気を抜いてそのまま幼くしたような感じだ。

 父が事故で重傷を負い、しかし仕事を辞めることが出来ずに無理をして苦しむ姿を間近で見続けてきたイドリス。その負担を一日も早く取り除くため彼は努力に努力を重ね、ついにアジュマーンに認められるが、それを確認してすぐ父は逝った。タイタニアに使い捨てにされた父を見て同じ轍は踏むまいと強く決意するイドリス。それは彼がただの「嫌な奴」から物語の主人公たる重みを持った人間に変わる瞬間だった。

「タイタニアをわが手に、宇宙を我が物に」という言葉にはこちらの胸を熱く燃え立たせてくれるものがある。だが、タイタニアに使い捨てにされることを最も嫌ったイドリスが、原作のその後の展開においては一番タイタニアに酷使され使い捨てにされる運命であることを思うと、気の毒で仕方がない。

 

第二十三話 砂漠の鼠

 ほぼ原作どおり、順調に進んでいく。セラフィンは原作だとリラとはまた別のタイプに感じられたが、アニメだと見た目のせいか似ていると感じる。それにしても、アニメではタイタニアにより壊滅状態になったはずの流星旗軍がリーの指示のもと何かと便利に動いてくれているようだが、一体どの程度の力が残っているのだろうか。

 あと、今回も原作者へのインタビューがあった。そこでなんと、四巻執筆の意思が語られた。殆ど諦めかけていただけに、これは嬉しい。たとえ何年先になろうとも、希望があるのは嬉しいものだ。もっとも監督はあまり信じていないような口ぶりだったが……。

 

第二十四話 オネストオールドマン

 ザーリッシュがますます三流悪役のようになってきた。アニメだと、実際に「慣れ親しんで見ていた場所」が燃えていく様子が見てとれるので、多少ではあるが船が破壊されたことに感情がわく。
 「金を稼ぐことだけが君の取り柄だ」というドクター・リーの毒舌は今回も絶好調で、見ていて楽しい。

 

第二十五話 熱砂の激闘

 次回最終回で、そろそろクライマックス…のはずなのだが、撃ち合いばかりやっていて、どうも面白みに欠ける。同じ撃ち合いでも海中や宇宙空間ならまだしも多少の映像美を味わうことができたかもしれないが、舞台は砂漠で、なんとも味気ない。原作通りの展開とはいえ、ここはあまり時間をかけないでほしかったような…。

 

第二十六話<終> 終幕の鎮魂歌

 ザーリッシュの死と共に最終回。アニメの進みが遅いと気づいた時にこのあたりで終わるのではないかとの予想もしていたので、驚きはない。特別にこれというものもなく、無事に終わりを迎えた。

 ただ一つ、原作と違うのは、ザーリッシュの遺体引取りにジュスランが赴き、ヒューリックと直接対面したこと。いくら近くにいたとはいえ、仮にも四公爵の一人がそんな所に顔を出すだろうか、という疑問はあるが、こうして対面場面があったのは嬉しい…と言いたいところだが、残念なことにあまり盛り上がらなかった。「エスタールの邂逅」ほどでないのは演出のせいもあるのかもしれないが、「銀河英雄伝説」のラインハルトとヤンの対面に比べても、あまり胸に迫るものがない。「銀英伝」では特別な音楽が流れていたわけではないのに、あそこには濃密な空気が流れていた。交わされる言葉の一つ一つが印象に残った。しかし、今回タイタニアにはそれがない。ジュスランにラインハルトほどのカリスマ性がないことを差し引いても、あまりにもさらりとしていて、とても歴史に残る対面という気がしなかった。まあ、原作ではジュスランもヒューリックもまるで互いを意識していないのだから、無理もないといえば無理もないが…。

 それにしても、後半になってこれから面白くなるというところで終わってしまったのは残念だ。できるだけ早く続きが見たいと思う。

 

 

 

2009.4.9

 

 

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