タイタニア アニメ感想(2)

 

 

第十一話 ヒューリックの決意

 いかさまマフディー。原作ではろくに活躍していなかったマフディーだが、アニメではカジノで大活躍。しかも、スーツ姿がなんだかかっこいい。ファン同様、マフディーもアニメで好感度が急上昇。しかしマフディーの立場からすれば、こんな大金が簡単に手に入るなら、無理してファン一行についていかなくてもいいような気がする。

 その影ではドクター・リーも人員調達で活躍。
「パルチザンというのは、どうしてこう文学的な言辞を好むのか」というセリフがいい。

 原作と違い、今回はリラ処刑のニュースが流れていたが、これは  タイタニアとしては結構イメージダウンになるのではないか。特に、失敗後は……。まあ、失敗したときはすべてアルセス一人の責任。とはいえ、これにイドリスが絡んでくるとは少々意外だった。正直ヒューリックにまで手を伸ばしている余裕はないような気がするが、これでヒューリックがアルセスのみを倒して満足することもなくなったことだろう。今後の展開を考えればこの方がいいかもしれない。

 あと、この件をバルアミーがリディアに話していたことに違和感があった。リディアとの会話で精神的安定を得ようとするジュスランはともかく、自称野心家のバルアミーがそういうことを進んでペラペラ話し、しかも子守としてすっかり落ち着いてしまっているというのは……。ファンもマフディーもみんなアニメでかっこよくなったというのに、バルアミーだけはこのていたらく。この先彼に活躍の機会はあるのだろうか……。

 

第十二話 エーメンタール潜入

 リラ、死亡。でも一応ファンにもう一度会うことはできたし、死ぬ際の描写も抑えられていたので、原作ほど悲惨な最期という印象はない。だが、それでも気の毒な死に方をしたという点にかわりはない。これでヒューリックがタイタニアと戦う理由ができた。

 しかし、リラに対して優しい最期にしたせいで、なぜヒューリックだけ食肉魚の水槽に飛び込んで無傷だったのかという大きな疑問ができた。

 タイタニアの方では、若き日のテリーザ達の写真が示されるという驚きが。歳月の酷さを知らしめる写真……。しかし、この写真やその他のやりとりから見ると、テリーザは原作と違ってアルセスだけを偏愛しているわけではなく、ザーリッシュにも同じぐらい愛情を注いでいるように見える。こういう姿を描くことで、タイタニアのーというよりザーリッシュ(とテリーザ)の今後の行動に説得力を持たせようとしているのかもしれない。なにしろ原作のザーリッシュは色々と気の毒な立場だったから……。

 

第十三話 終わりと始まり

 アルセス、ヒューリックの敵討ちにあい死亡。自業自得とはいえ、哀れな最期だった。今際の際の姿を見てしまった母テリーザも気の毒といえば気の毒。しかし本当に不運なのは、戦艦オーロラの乗組員だろう。

 苦学の末一流企業に就職したら、たまたま赴任先がエーメンタールで人間的に問題のありすぎる上司のもとで苦労した挙句、その上司と一緒に心中することになろうとは。赴任先がエーメンタールだったばっかりに……。

 それにしてもベルティエは、以前はエウリヤの将軍職まで務めたというのに、その戦いぶりはあまりにも無能だった。これではタイタニアで大佐も務まらないだろう。戦艦一隻で艦隊を相手になぜか勝てる気でいるというのもそうだが、戦いの最中に敵前回頭しようとするとは。まあ、銀英伝でもアスターテ会戦でラインハルトの部下がこれをやって戦死し、愚かの一言で切り捨てられていたから、混乱するとこういうことをやる人間の一人や二人、出てくるのかもしれない。

 タイタニアはもとより性格に問題のあるアルセスを見捨てるつもりで、ジュスランもそれを了承。藩王に試されていると感じたからだろうが、そこでちゃんと(?)アルセスを切り捨ててしまえるところがやはりタイタニアであり、ジュスランである。

 しかし、そのような暗黙の了解がなくとも自分に害が及ばなければ、イドリスはアルセスを見捨てていたかもしれない。アルセスはできれば見捨てたくなる性格をしているが、イドリスにとっては特にそうだろう。アルセスのあまり自慢できない趣味は置いておいても、とにかく努力家で地位に伴う職責や重圧というものを嫌というほど知っているイドリスにしてみれば、そうしたものを一切放棄してタイタニアを名乗るアルセスは、存在自体が許せなかっただろうから。

 まあ、その目的はめ今回めでたく達成できたわけだが、ヒューリックは取り逃がしてしまった。あんな手にひっかかるとは……。ヒューリクの側ももうちょっとすごい作戦を使ってくれたら面白かったのに、これのせいでイドリスがずいぶん間が抜けて見えてしまった。
 だが、ヒューリックを取り逃がしたというのに、イドリスはなぜか満足そうだった。これで失敗したのが他の者ならけちょんけちょんにけなしていただろうが、「アルセスの処分」という第一の目的は達成したということで満足したらしい。よほどアルセスのことが嫌いだったのだろうか。

 ヒューリックの方は無事アルセスを討ったということで(あにめだと、皆ドクター・リーの手柄でヒューリックは殆ど何もしていないように見えるが)リラの墓参り。アルセスがいなくなったことで、エーメンタールに入るのも難しくなかったのだろう。しかしこの墓、いつの間に誰が作ったのだろう。あまりゆっくりしている時間はなかったはずだから、現地組織の人達に埋葬を頼んでおいたのだろうか。火葬する設備まではなさそうだから、もしかすると土葬かもしれない。あの時代に土葬して枝を一本立てた墓、というのがなんとも妙な感じはするが、まあ、細かいことは気にしないでおこう……。

 

第十四話 リュテッヒの動乱

 リュテッヒの動乱、意外にも一話で終了。これまで原作にない描写があり、もっと詳しく描かれるのかと思ったら、ある意味原作以上にあっさりとした展開になっていた。国王すら出てこないのである。これまでも扱いが小さかったが、最初に登場したきりずっとご無沙汰、というのはある意味一番可哀想かもしれない。誰からも存在を忘れ去られている……。

 テリーザ夫人が原作に近づく狂乱ぶりで、苦労するザーリッシュ。その腹いせにか一瞬ギリシア時代かと見紛うような前時代的な訓練をしている時にジュスランの偽情報に踊らされて出撃する。
 今回は性格に似合わずジュスランに根回しまでしていたというのに、気の毒なことである。まあ、アリアバートは根回しなど受け付けないだろうし、イドリスよりは何を考えているかわからないジュスランに頼んだほうがいいと思ったのだろうが、ジュスランもタイタニアはタイタニアであって、なかなか性格が悪い。身内にも同僚にも踊らされるだけ踊らされるザーリッシュは色々と気の毒な役回りである。

 気の毒といえばエストラード候も、原作よりもなんだか無能になっていて気の毒だ。原作どおり階段から転落死したのではつまらないと思ったのか、死因が銃の暴発に変更されたことも。これはバルアミーにとってもより直接的な形で手を下したことになってしまって苦い結末だろう。

 ジュスランはバルアミーに、父親を牽制するよう遠回しに圧力をかけていたが、どんな時でも不測の事態というのは起こってしまうものだ。打ちのめされているバルアミーにジュスランがかけた言葉が印象深い。

「どのような言葉も無意味とは知りながら、また、言葉によってしか慰めることもできぬ」これは確かなことだと思う。

 一方再び目的を失ったヒューリックはさすらいのガンマンといった風情で登場。帽子が妙に似合っている。そういえば砲術士官出身だったし。音楽のヒューリックのテーマ(仮)もそんな気がする。しかし、いくらミランダの出身地とはいえタイタニアに手配されている身で仲間に内緒で密入国してふらふら出歩くというのはちょっと無理があるのではないだろうか。まあ、出歩けないから酒びたり、ということになってもそれはそれで困るが。

 名前だけ登場していた国をこうして実際に見ることができるのは嬉しいが、やはりただの旅行ではつまらない。何か事件が起こって欲しいものだ。もっともこの状況で事件が起こっても、一人ふらふら歩いているヒューリックの間が抜けているようにしか見えないのが困りものだが……。

 

第十五話 一粒の麦のごとく

 ヒューリックの傷心旅行。原作よりも落ち込みが激しかったので、こういう話も必要なのだろうが、見ている方としては、少々退屈な感じも。景色は綺麗だったが。

 あと、あの状況でなぜか生きていたベルティエ。しかし、不自然に生還したのにもかかわらず、すぐに退場。一体何のために出てきたのだろう……。

 

第十六話 反撃の狼煙

 原点回帰の回。タイタニアでは久しぶりに全員揃った会議が開かれ、ジュスランの「指でコツコツ叩く」という癖も復活。一回休んだ間にバルアミーもすっかり復活していたが、子守として何の不満もなく定着してしまっている点、原作のバルアミーが見たら色々と思うところがあるかもしれない。

 ヒューリックの方も、再び原作のストーリーに戻ったようだ。ただし、より能動的に。もっとも、リラ救出作戦にそんなに資金を費やしたとは思えないのに、今回いきなり貧乏になっていたのが不思議ではあった。確かに逃亡生活にはそれなりに費用がかかるものだが、マフディーの稼いだ金額はそれを十分補って余りあるものだったはず。一体どうしてそんなことになったのか……。

 また、前回も思ったことだが宇宙船の中にいながらヒューリックが出て行ったのにも入ってきたのにも全く気づかないという点が気になった。一応追われている身なのだから、警備にはもう少し気を配った方がいいのではないだろうか。

 

第十七話 高すぎた身代金

 ヒューリックはわざと捕まることでタイタニアから懸賞金を得ようとするが、脱出に失敗し、本当に捕まってしまう。しかしいくら辺境の地とはいえ、気前のいいのだけが取り柄のタイタニアが賞金を一括払いできないとは……一体どうなっているのだろう。

 脱出失敗の直接の原因となったのは、タイタニアの陣営にマフディーのかつての知り合いがいたこと。それにしても、あのイカサマライターのことを知っているとは、カイルも裏では色々と悪事を働いていたようである。有能そうなのにこんな辺境に飛ばされているのがその証拠。恐らくマフディー逃亡の際の調査で悪事のいくつかが明るみに出たのだろう。そのカイルもミランダの怒りに触れ、わずか二話での退場となった。

 一方タイタニアでは、仲良くウサギと追いかけっこをするリディア姫とバルアミー。……もはや野心家バルの欠片もない。そのウサギ獲りの過程で、今回のヒューリック捕り物劇とこれからの展開を暗示。最近はこういう所にしか出番がないのが悲しい。

 

第十八話 監獄衛星クロノス

 ヒューリックが捕まったことで皆が自分を責める中、ただ一人「提督の作戦が甘かった」ときっぱり言ってのけるドクター・リーが素敵。とはいえ、その彼が自信たっぷりに提示した作戦というのもさほど斬新なものではなく、しかも実行者がマフディーという時点で大変不安なものはあるのだが。
 しかし何はともあれ、彼らの方から積極的に動いているのは面白い。やはり「行く先々に協力者がいてなんとなく助かった」というのよりは色々と楽しめる。そのせいで他のキャラの出番がなくなったが、まあ……リラが死んで早々に他の女性キャラに気をとられていては、ヒューリックの人気も落ちるだろうし……。

 

第十九話 ラドモーズ事件

 アニメで是非見てみたいと思っていたエピソードは色々あるが、これもその一つ。ただアニメのラドモーズは「思慮分別に欠ける」という点では共通しているものの、原作にあった一種の厳めしさというか鈍重な恐竜のようなイメージとは違い、もっと軽薄な感じである。頭痛をこらえるイドリスの様子が全く予想通りだったので見ていて面白かった。
 ラドモーズとバルアミーが衆人環視の中殴りあったことで、バルはジュスランの副官の任を解かれてしまうが、原作のように辺境に左遷されなかったのは幸運というべきか。もっとも謹慎先のリュテッヒがイドリスの勢力下ということでまた一悶着ありそうだが、今後の対立の描写にはバルが近くにいた方が色々と面白いかもしれない。

 バルアミーの処分が軽いものですんだのは、リディア姫が手紙で真相を伝えたからで、「ラドモーズが藩王の兄を侮辱した」ということも伝わりイドリスとしてもそれ以上の反論はできなかった。ただこうした様子を見るかぎりでは、この藩王も原作とはだいぶ性格が違うように見える。原作の藩王はそんなことは意に介しないであろうから。原作の藩王にあった妖怪じみた存在感もなく、わりと常識的な統治者……に思えるのだが、話が進めばこの先どうなるか。もっともこの感じでは、そこまで行く前にこのアニメが終わってしまいそうで残念ではある。

 

第二十話 クロノス強襲

 ヒューリック救出作戦開始。ところどころチェスを持ち出して作戦を進めていくドクター・リーがかっこいい。
 ミランダも、つい忘れそうになる「公女」という人脈を生かして作戦に寄与。以前ヒューリックに嫌がらせを仕掛けていた二人はミランダに与するものだった。しかし前回の時点では、まだミランダからの連絡はいっていなかったはずなのに、あのような嫌がらせを仕掛けていた、というのは……やはり「噂のファン・ヒューリック」に興味を持って近づいた、というところだろうか。場所が場所で監視の目があるからあのような近づき方になったけれど、形はどうあれとにかく接点を持ちたかった、ということかもしれない。監視カメラが切れているにもかかわらず、死なない程度にーしかし本気でヒューリックの心身にダメージを与える程度にまで暴行を加えたことからも、二人の外見に似合わぬ用心深さが窺える。ただ疑問なのは、なぜヒューリックを脱出させる時に一緒に行こうとしなかったのか、という点だ。脱出艇がよほど小さいのか、それとも来るかもしれない追っ手に備えるためか。いずれにしてもヒューリックはそんな彼らのことは知らず、夢でも見ていたかのような表情で目を覚ました。ある意味ヒューリックらしい。

 一方ヒューリックが逃げたことでエスタールは大変なことに。焦土と化した街を目に呆然と佇む大統領。こうなることは予測できたであろうに……。原作では最初からザーリッシュ艦隊が色々やっていたから仕方のない面もあったのだが、アニメだと、もう少しうまく立ち回ることもできたのではないかと思えてしまう。

2009.3.12

 

 

次へ

戻る

田中芳樹作品に戻る

 

 

 

inserted by FC2 system