麒麟と国民性

 

 

 麒麟は、民意の代表であるという。ならば、麒麟はその国の国民性といったようなものを表してはいないだろうか。今回は、それについて考察してみたい。

 

・【雁と延麒】

 500年の長きに渡って安定した治世が続き、北方一豊かな国、雁。同じく大国・南方一豊かな奏と比べ、活気のあることで知られている。

 そして、延麒の性格は…ご存知の通り。おそらく、十二麒麟のうちで最も腕白・活発な性格だろう。

 雁においては、この満ちあふれる活気がそのまま麒麟に反映されているように思える。

 

・奏と宗麟

 治世600年、十二国のうちで最も長い歴史を誇る奏。雁と並ぶ大国だが、活気のある雁に比べ、奏は安穏としていると言われている。

 そして、宗麟は、延王曰く、「玲瓏たる美女で、天女のように慕われている」とか。このセリフからは、宗麟について、「穏やか」「おしとやか」といったものが連想される。実際、奏王一家の家族会議においても、宗麟の発言は少なく、一家のやりとりを温かく見守っているという印象だ。延麒と対照的に、落ち着いた、穏やかな女性なのだろう。

 奏においては、この「落ち着いた、穏やかな」ところがそのまま麒麟に表れていると思う。

 

・慶と景麒

 王のいない時代が続いたため、ずっと貧しかった慶。悪吏に泣かされる人も多かったが、そんな中でも屈せずに戦おうとした人々がいたことは、慶の民に(明るくはないものの)骨太の、独立不羈の精神を感じさせる。また、どの国ともあまり国交はない様子で、景王陽子の即位までは、隣国の雁とすらあまり国交がなかったようだ。もっとも、それが十二国の世界における流儀のようではあるが…。しかし、浮民や海客への差別などがつい最近まで残っていたこともあり、あまり開放的とは言えない気風なのかもしれない。

 一方景麒は、無口で無愛想。麒麟ではあるが、大体に置いて正論を通そうとするため、時に冷たく見える。しかし、なかなか見つからない王に業を煮やして、自ら蓬山を飛び出して探しに行くという行動力も持ち合わせている。

 開放的とは言い難い気風、しかしいざという時の行動力。景において、麒麟の性格と国民性は一致するのではなかろうか。

 

・恭と供麒

 現在の供王は治世90年に達し、国もまずまず豊か。しかし、先王が亡くなってから現王が登極するまで27年、王のいない時代が続いた。麒麟が蓬莱に流されるなどのトラブルがあったわけではない。毎年昇山の者はいたが、一向に王が現れなかったのだ。王を失い、国は荒廃の一途を辿るが、それでもそこそこ国は機能しており、深刻な状況のわりに、どこか呑気な風情が漂っていた。

 一方の供麒は、麒麟なだけに人はよさそうなのだが、朴訥とした印象で凡庸、頼りない感じである。景麒はなかなか見つからない王に業を煮やして蓬山を飛び出したのに、供麒はそういうこともなく、ずっと蓬山に留まり続けていた。そして、国に下ってからは、覇気に満ちあふれた小さな女王に、しょっちゅう平手打ちをされているような印象がある。

 この、どこか呑気で行動力に欠けるような所が、以前の恭国を覆っていた雰囲気と通じるものがあるような気がする。

 

・戴と泰麒

 酷寒の地、戴。十二国のうちで最も寒さが厳しく、冬は雪と氷に閉ざされる。極国であることとも相まって、他から隔絶され、何もかもが内へ内へと強い力で押し込められているような感じのする所である。また一方で、戴の民は気性が荒いとも言われている。

 しかし泰麒は、胎果としてあちらに長く居すぎたということもあるのかもしれないが、ご存じの通り、気性が素直で優しくて、よく人に気を遣うーけれども大変気が小さい、という子供だった。もっとも、成獣になってからは、周囲からの孤立も意に介さない、一見おとなしいけれど大変芯の強い人物になっていた。思えば、子供の時も、泰麒は使令を下すときに、驍宗をすらひるませるほどの覇気を見せていた。

 成獣になる前の泰麒は、「気性の荒い」戴の民と比較して「例外」だと思われていたが、成獣になってからの泰麒は、芯の強さが前面に出てきており、「戴国」から受ける印象と似たものを感じた。もっとも、成獣となった泰麒の活躍が見られるのはこれからという所なので、その性格をまだ十分に掴みきれていない面があり、泰麒が戴国民の国民性を表しているとするにはやや材料が少ないかもしれないが、同時に、この説を否定するだけのものもここからは出てきていないだろう。g

 

 なお、他の国については、麒麟があまり出てきていなかったり、もしくは国の様子があまり語られていなかったりで、材料不足のため考察はできなかった。

 しかし、以上の考察を踏まえると、「麒麟はその国の国民性を表す」という説にはある程度の説得力があるのではないだろうか。

 

 

 

2004.7.16

 

 

 

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