赤の竜神スィーフィードは長い戦いの末、赤眼の魔王シャブラニグドゥの体を七つに断ち切り、それをこの世界のいたるところに封じ込めた。だが、さしもの竜神も力尽き、「混沌の海」へと沈んでいった。しかし、万が一の魔王復活を恐れ、竜神は力尽きる寸前に、地竜王、天竜王、火竜王、水竜王の四体の分身を作り上げ、それぞれにこの世界の東西南北を任せた。

• 冥王フィブリゾの計画で、戦いという刺激の中で、誰かの内に眠る魔王を覚醒させようとした。
• デーモンの群発。人々の間に広まる不安。不安はそれに乗じた戦いを生み、ますますの混乱を生んだ。
• 世界には、不穏な空気が満ちていた。いくつかの国が、戦争準備としか見えない軍備増強を押し進め、国境地帯で小競り合いが繰り返されることもしばしば。そしてーそんな小競り合いが、本格的な戦争になるのに、さしたるきっかけは必要なかった。いくつかの国を巻き込んで起こる戦い。そして、戦いと混乱の中に、魔族による被害が混じりはじめー徐々にその数を増しつつあったが、誰もーエルフ達でさえーそのことにしばらくは気付かなかった。
• 人々が気付いた時には遅かった。既に各国は疲弊し、「英雄」と呼ばれていた者達の多くは、他国とのー人間との戦いで死に絶えー野には、大量に出現したデーモンの群れが跋扈し、戦争で生き残った人々を蹂躙した。人間同士の戦い、と、傍観を決め込んでいた竜達も、ことここにいたってようやく、事件の裏に潜むものの気配を察知していた。思えば、各国の武力増強も、国の中枢に入り込んだ何者かの意志があったようにも感じられた。
• 竜、エルフ、ドワーフ、そして人間達、生きる者達は連合し、野にあふれるデーモンたちの掃討に全力を挙げた。―だが、デーモンの大量発生すらも、陽動でしかなかった。
• 皆の目が野に向いているその間に、魔王配下の五人の腹心が集結した。当時は水竜王ラグラディアの住まう聖地だった、カタート山脈に。腹心達は、水竜王との直接対決を巧みに避けつつ、神殿を破壊し、聖者を殺し、カタートを、徐々に死の山へと変えていった。魔族の狙いは水竜王。それを察知した、竜達を中心とする連合軍は、水竜王に手を貸すべく、カタート山脈へ向かいーそして、魔王が出現した。魔王出現の現場に居合わせて生き残った者は一人としていなかった。
• 冥王フィブリゾ配下の冥神官も冥将軍も捨て石にされ、この戦いで既に皆滅ぼされていたものの、竜族は獣神官ゼロス一人のためにほぼ壊滅。エルフやドワーフ、人間の精鋭部隊も、分断されて、連携も取れない。かろうじてなんとか戦っていた、というその状況で、シャブラニグドゥが復活しては、もはや勝利は不可能だった。
• この時、再臨した赤眼の魔王の一つは、カタート山脈に在った水竜王を滅ぼすため、水竜王の力を弱める神封じの結界を形造らせた。
• 魔王自身は魔竜王ガーヴを引き連れ、水竜王と直接対決したが、水竜王を滅ぼした時に、魔竜王も相打ちのような形で倒された。そして、魔王自身も体を大地に繋ぎ止められ、身動きが取れなくなってしまった。
• こうして神封じの結界が造られ水竜王は滅び、七つに分かたれた魔王シャブラニグドゥの一つが復活した。だが、彼もまた、その戦いで、カタート山脈で水竜王の氷に閉ざされた。それがどのような戦いであったのか、見届け、生き残った者はいない。知るのは神と魔のみである。

• 五百年の昔、栄華を極めたレティデウス公国の時の公王は、不死さえをもその手におさめようと野望し、国の内外に莫大な報奨金をかけて「不死」を求めた。その結果、「不死の探求」の名目で、虐殺・略奪が公然と横行し、国の内外は、これ以上ないくらいに乱れた。当時は様々なむごい実験が、公然と行われていたらしい。様々な実験が行われ、そのことごとくが失敗した。
• 結局、内乱と外敵とに攻め立てられ、公国は滅び、王は断首となった。不死を求めるふれを出し、わずか二年ほど後のことだったらしい。今では、魔道士うちで「暗黒時代」などと呼ばれているほどである。
• 現在のカルマート公国にあたる場所が、かつてのレティデウス公国の領地だった。マインの村付近には、今でも当時の遺跡が数多く残っている。
• レティデウス公国の公用金貨は、現在ではマニアに高く売れる。
• 当時、レティデウスには膨大な量の魔道資料が集まっていた、と言われており、それらの殆どが消失、またはどこかへ散逸しているらしい。

• もともとは、魔道士協会の本部が存在し、魔道都市の名で知られた町だったが、約１２０年前、魔獣ザナッファーによって壊滅させられ、一時は「死霊都市」などと呼ばれたことすらある。
• ザナッファーについて、記録は全く残っていないが、実は、ある魔道士が写本を使って造り出した不完全な封魔装甲が暴走したもの。
• 光の剣の戦士が死闘の末に魔獣を討ち滅ぼしたが、死してなお、その躯は、無限の瘴気を放ち続けた。そこで戦士は、竜族より手に入れた瘴気を吸収、浄化することによって成長する聖木（神聖樹）の苗を魔獣の体に植えた。それが大きく成長し、最近までサイラーグのシンボルとなっていた。

• 「英断王」として名高かった、ガイリア王国のディルス二世―ディルス＝ルォン＝ガイリアが、この世界の不秩序の源と言われている「北の魔王」を、魔道戦力を中心とした精鋭五千を引き連れてカタート山脈へ討伐に向かいーそして、歴史から消えた。
• おそらくは、「北の魔王」によって返り討ちにあったのだろう、というのは世間での噂。本当の所は、ディルス王はたった一人だけ帰ってきた。「屍肉呪法」をかけられて。助けることも、楽にしてやることもままならず、重臣と兵士達は、このことの一切に口をつぐみ、それをどこかに幽閉したという。今でもガイリア城では、夜になると「殺してくれ」と哀願するディルス王の声が、通風孔を抜ける風に乗って聞こえることがあるという。
• 噂の真偽はともかく、この遠征が、カタート山脈の脅威を実証した。
• ちなみにこの時、カタート山脈に住む中でも下っ端の魔族達も戦いに駆り出され、ラギアソーンとジョンは生き別れに。