写本はいかにして作られたか

 

 「写本」―一般に「異界黙示録の写本」と呼ばれているもの。

 それは一体、誰が、どのようにして作ったのだろうか?

 ここでは、それについて、少し考えてみたいと思う。

 最初に、現在わかっている情報を、少し整理してみよう。

 写本のオリジナルー異界黙示録は、降魔戦争で滅ぼされた水竜王の知識であり、降魔戦争の際に生じた空間の歪みの中心に位置する。入り口はいくつかあるようだが、うちひとつは竜たちの峰(ドラゴンズ・ピーク)にあり、竜達がそれを守っていると言われている。

 また、この「写本」に関しては、五百年前、レティデウス公国が滅びる際に持ち出され、その試作品としてザナッファーが作られた、という話もあることから、少なくとも五百年以上前に作られたと思われる。

 ……で、誰が「写本」を作ったか、ということだが……それを作れる者―「オリジナル」のもとに辿り着ける者というのは、限られている。異界黙示録のあるあの空間は、性質としては、むしろ精神世界に近く、人の身で迷えば一生を費やしても出口に辿り着くことは敵わない。であるから、ただの人間に異界黙示録のもとまで行くのは不可能。「赤の竜神の騎士」のような、特殊な人間ならわからないが……。

 と、いうことで、可能性としては、

  1. エルフ
  2. 魔族
  3. 「赤の竜神の騎士」のような特殊な人間
  4. 吸血鬼や魔道死霊

 の四者に絞られる。それぞれについて、検討してみよう。

 まず、1の竜族。

 彼らは恐らく、降魔戦争の時にできた、あの異空間を調査に入りーそして、異界黙示録を見つけたのだろう。降魔戦争で、ゼロス一人に壊滅にまで追いやられ、己の無力さを痛感していた竜達は、入り口のある「竜たちの峰」に棲むようになり、そこで度々異界黙示録のもとへ赴き、魔族に対抗する手段を探していたーというのが、竜と異界黙示録の関係だろうと思われる。

 魔族もリナも、竜達があの山に群れ棲んでいるのは、人間から異界黙示録を守るためだと解釈しているようだが、よく考えてみれば、異界黙示録が、あのようなわけのわからない異空間にある以上、人間にそこまで辿り着くことは不可能なのだから、あえて竜達が入り口を守る必要があるとは思えない。それでなくても、カタート山脈に近い辺鄙な場所で、人間が近づきたがる場所とも思えないし。

 そんなわけで、竜達は、異界黙示録を使用するためにあの山に棲んでいるのだと思う。だが、竜達が使用のために写本を作ったか、というと、すぐには肯けない。もともと記録や伝承といったことをしない、というところからすると、竜独自の文字を持っているとは思いにくいし、普通の文字で作成したなら、下手をすれば人間の手に渡って悪用されかねない。まあ、エルフとの共同作業であることを考えると、そういった危険性を承知の上で、写本を作成する必要があったのかもしれないが。

 だとすると、今「写本」が人間の手にあるのは、運搬途中で運び屋(笑)が人間に倒されて奪われたとか、エルフの村に保管してあったのが盗まれたとか……そんなところだろう。

 ただ、気になるのは、「写本」が不完全であること。人間の作ったザナッファーは二回とも暴走したのに、エルフの作ったザナッファーは、ちゃんと制御可能だった。「写本」を竜が作り、それをもとにエルフが製作したのなら、エルフの作ったザナッファーも暴走したはず。また、「金色の魔王」の正体についても誤解していたはず。

 それに、「写本」の存在を知る魔族は、竜族が―最も写本の作成に近い彼らが、異界黙示録を使用していることを知らない。これは魔族が、「写本」の製作者を知っている―竜ではないと知っている―からではないのか?

 ……これらのことから考えると、「写本は竜が作った」という1の説になる可能性は低い。

 次に、2のエルフ族。

 異界黙示録への道を知っている竜の案内で、異界黙示録のもとへ赴き、エルフが写本を作成したーとも考えられるが、人間に流通している写本が不完全であることなど、竜族作成説と同様、引っかかる点も多い。

 もしエルフが製作者ならば、それはきっと、意図的に異界黙示録のもとへ辿り着いたものではないと思う。あの空間への入り口は、「竜たちの峰」以外の場所にも何カ所かあるようだから、たまたまそこに迷い込んでしまったエルフが、さまよい歩くうちに異界黙示録を発見し、写本を作成した、という可能性も十分あると思う。そして、そのエルフは、異界黙示録から出口を聞いて異空間から脱出したものの、そこで力尽きて倒れ、それを通りすがりの人間が見つけて写本がその手にわたったーというところだろうか。写本が不完全なのは、そのエルフが既に死にかけているような状態で、十分に写本を作る余裕がなかったため。こう考えれば、なんとか話のつじつまは合う……ような…気もしないこともないが……それでもやはり、可能性が低いことには変わりない。

 では、3の魔族。

 魔族はゼロスを使って写本を処分しようと動いているのに、その魔族が写本など作るわけがない……と、一見思えるのだが、よく考えてみれば、魔族の命令系統は、下の方になるとかなりいい加減。たやすく異界黙示録にたどり着けそうな純魔族でも、好き勝手やっている連中は、かなりいるらしい。そんな連中が人間と契約を交わして、人間を異界黙示録のもとへ連れて行ったり、あるいは「写本」を作成して人間に渡したり(この場合、写本が不完全なのは、魔族自身も、『これはひょっとすると魔族に不利かもしれない』と、わざと不完全なものを製作して人間に渡したのではないかと思われる)……ということは、ありそうに思える。それで、後に獣王がこのことを知り、人間の魔道技術の進歩と考え合わせて魔族に不利だと判断し、「写本を見つけたら処分するように」との通達が下されたのであって、それまでは野放し状態だったとか……。仮に、もっと前から、異界黙示録に関する通達が出されていたとしても、そんな下っ端までは行き渡らなかったとも考えられる。いや、そもそも、通達が下っ端まで行き渡らないことを見越して、そのような通達は出されておらず、獣王&ゼロスが独自に写本の処分をやっているだけのことだという可能性もある。これならば、先の、「魔族は写本の製作者が竜でないことを知っている」理由にもなるし、下っ端魔族(もしくはそれに導かれた人間)が写本を作成した、という説は、それなりの説得力を持つのではないだろうか。

 次に、4の特殊な人間。

 「赤の竜神」の力と意識の一部が眠っている「郷里の姉ちゃん」のような「赤の竜神の騎士」あたりなら、ひょっとすると、異界黙示録にたどり着けるだけの力を持っているかもしれない。また、「赤の竜神の騎士」同様に、水竜王の力と意識の一部が眠っている「水竜王の騎士」というのがいてもおかしくはないわけだが……なにしろ異界黙示録は水竜王の知識。もとが水竜王だった、という関連から、「水竜王の騎士」が異界黙示録にたどり着ける可能性も、決して低くはないと思う(かごめだって、四魂のかけらの気配がわかるわけだし……)。人間に流通していることも、これなら不思議ではない。

 もっとも、私はまだ、現在出版されている「水竜王の騎士」を読んでいないので、この説が見当はずれだという可能性もあるにはあるのだが……。

 最後に、5の強大な力を持つアンデッド。

吸血鬼や、へたな純魔族よりもタチが悪いと言われる魔道死霊(リッチ)とかなら、寿命もないことだし、異界黙示録のもとへ辿り着くことも不可能ではないだろう。特に、魔道死霊は、生前魔道に凝っていた人物(?)。彼が偶然異界黙示録を発見し、それで写本を作ったとしても不思議はない。そして、彼が人間に倒された後、その築き上げたおたからの山の中に、「写本」が混ざっていたということがあっても不思議ではないのだ。

 ……こうして考えてみると、5のアンデッド作成説が一番可能性が高いように思える。リナからは殆どザコ扱いの彼らが、一番可能性が高いとは……なんだか意外な結果が出た。

 

 

2004.1.7

 

 

戻る

 

 

 

inserted by FC2 system