不死の契約

―魔族は何を得る?―

 

 ―魔族と契約を交わした者は、かりそめの不死を得ることができ、

  200年以上を生きた魔道士もいたという―。

 それはただの言い伝えではなく、実際にリナ達は、かりそめの不死を得たハルシフォムと戦っている。

 しかし、ここで気になるのは「契約」の内容である。人間は「不死」を得るが、魔族はそれで一体何を得るというのだろうか?「契約」というからには、魔族にとっても何らかの利益があると思われるが……。

 魔族が従うのは、より強大な力を持つ者か、契約を交わした者のみーという話は聞いたし、実際、セイグラムはハルシフォムの命令に従っている。

 しかし、魔族からすれば、わざわざ人間に不死を与えてやり、さらに「人間ごとき」につき従ういわれなど全くない。「契約」は魔族にそれをさせるだけの利益をもたらすものであるはずである。実際、セイグラムは「契約の石」が砕かれたことを悲しんでいた。

 だが、「人間ごとき」が、魔族にそこまでさせるだけの、何を持っているというのだろうか?魔族は人間には及びもつかない強大な力を持っている。その魔族が、人間から何を得るというのだろうか?

 それについて、少し考えてみたい。

 「魔族との契約」でまず連想するのが、「悪魔との契約」である。

 ―死後魂を渡すかわりに、願いを叶えてもらう−

 というのが一般的だが、この場合、それは当てはまらないだろう。

 なぜなら、その「かりそめの不死」が失われる時というのは、

だとされている。

 つまり、魔族からすれば、自分が滅びるか、契約そのものが失われるかしなければ、目当ての人間は死なないわけで、これでは魂を手に入れることはできない。かといって、セイグラム達が、「なんとか竜破斬を使える者を探し出し、ハルシフォムを倒させよう」などと画策していたような様子もなかった。

 「悪魔との契約」では、魂よりもむしろ、その「契約」によりもたらされる人間界の不和や混乱を目当てとする場合もあるようだが、魔族の場合は、わざわざそんなまわりくどいことをせずとも、自分ですればいいだけのこと。「神封じの結界」のおかげで神に妨害される心配もない。実際、セレンティアでは魔族が契約などせずに人間達に憎悪を生み出させていた。だから、これは一般的な「悪魔との契約」とは違うものだと思われる。

 では、一体「不死の契約」とは何だろうか。魔族と契約を交わした者は、自らの魂を「契約の石」に封じ込めたらしいが……魔族にとって利益と言えば、やはり自分が力を得ることであろうから、その「契約の石」を身につけた魔族は、何らかの力を得るとも推測できる。

 だが、「契約の石」を砕かれたらその力も失われてしまうため、積極的に戦うことはできない。セイグラムも戦いを避けていたが……これでは、力を手に入れても意味がない。この考えも却下。

 それに、ハルシフォムは、「契約の石」に魂を封じ込め、さらに、その石が砕かれた後も、自我を失っているような様子はなかった。だとすると、そもそも、魂とは何だろう?

 この点をふまえて考えていくと、三つの仮説ができあがる。

  1. 「契約の石」から魔族は徐々に魂の力を吸収することができる。
  2. 「契約の石」は貯金箱のようなものである。
  3. 「不死の契約」は、実は「長寿の契約」である

 である。

 それぞれの仮説の検討に入る前に、まず、「魂」というものについて考えてみたい。

 不死の契約をしたハルシフォムが自我を失っていなかったところからすると、石に封じ込められても自我を保つことはできるのか。あるいはーもう一つ考えられるのが、「魂=自我」ではなかった場合。すなわち、契約に使われる魂が、自我とは無関係のもので―おそらく、「転生する力」とか「何かを生み出す力」といった、「魂」というよりも、「魂の力」というようなものだった場合。どちらも、魔族にはないものであり、これを手に入れて魔族が力を得る、というのも理解できる。

 どちらにしても、「契約の石を砕かれると力も失われるから積極的に戦闘に参加できない」という先程の懸念があるが、これについては、それぞれの仮説を用いれば、クリアすることができるだろう。

 例えば、その力を契約した魔族は徐々に吸収していくことができる、という一つ目の仮説なら、問題はない。力を全て吸収した後も、魔族側の義務は残ると思うが、魔族としては、その時にはもう「契約の石」の無事を気にかける必要はない。

 二つ目の仮説についても同様だ。

 「契約の石」は貯金箱のようなもので、契約が存続した期間に応じて魔族が魂から得られる力が溜まり、石が割れた時に魔族はその力を手にする、という考え方だ。石の力を使わねばならないような事態など、そうそう起きるわけもないし、それが必要になる時―恐らく全面戦争の時までには、かなりの力が溜まっている、という寸法だ。とりあえず、この説が否定される要素は今のところ見当たらない。

 さらに、3つ目の仮説について。

 契約内容が「不死」ではなく、実は「二千年の寿命(その間は不老不死)とひきかえに、死後魂を渡す」というようなものだという説である。

 これは、一つ目の仮説とも通じるものがあり、魔族が魂の力を全て吸い尽くすまでーおそらく、千年とか二千年とかの時―が契約期間で、その後は契約が終了し、自然に不死が失われる、という可能性もある。

 ここでいう「魂」が、「魂の力」ならさしたる問題はないのだが、恐ろしいのは、「魂=自我」で、さらに魔族が「魂を徐々に吸収」する場合。石に封じ込められているだけなら契約者は自我を保っていられるが、魔族がそれを吸収していくにつれ、だんだん自我が失われていき……その間の契約者の恐怖も魔族にはいい食事だろうが……ついには自我をすっかりなくし、魔族の操る「不老不死の人形」になってしまうとか……。いわゆる「悪魔との契約」のパターンにも通じるものがあり、魔族好みのやり方に思える。

 仮説のどれが当てはまるのかはわからないが……なんにせよ、ロクな未来が待っていそうにない。魔族とは契約などしない方がよさそうである。

 

2003.9.25 

 

 

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