ホムンクルスの弱点

 

 

 ホムンクルスの弱点は、その手本となった肉体の一部―。それを前にすると、ホムンクルスは、自分が「作られた存在」であることを実感し、精神的忌避感から動けなくなる。

 それが、アニメ版ホムンクルスの設定だ。そのことは、ホムンクルス自身も知っている。

 しかし、ここで疑問なのは、何故、ホムンクルスは自分の「弱点」を処分してしまわないのか、ということだ。…その機会はいくらでもあったはずなのに。

 その理由として、まず、考えられるのは、「弱点」が、ホムンクルス本体と共鳴しているのではないか、ということだ。

 グリードが死んだとき、その弱点である元の肉体の一部(頭蓋骨)も、共に崩れ去った。ならば、その逆も言えるのではないか。「弱点」が消滅すると、ホムンクルス本体も消滅してしまうのではないか。

 しかし、そうすると、また不可解な点が出てくる。もしこの説の通りならば、ホムンクルスと直接戦わなくても、「弱点」を処分すればいいわけで、なにもホムンクルスとあんな死闘を繰り広げなくてもよかったはずだ。なのに、それを実行した人物はいなかった。

 エド達に関しては、ひょっとするとそのことを知らなかったのではないか、とも考えられるのだが、ダンテまでそれを知らなかったとは思えない。

 そもそも、「偽者」のホムンクルスが死んだことで、何故「本物」の遺体がダメージを受けるのかも謎である。

 ここで思い浮かぶのが、ホムンクルス誕生の経緯である。

 ホムンクルスは、誕生した時こそ人の形をしていないが、紅い石を与えられ、「本物」と同じ容姿と記憶の一部を持つようになる。

 「容姿」はおそらく「製作者」がイメージしたもの、「記憶の一部」も、「製作者」の強い感情が焼き付いた物―という解釈があるが、実は、それだけではないのではないか。

 ホムンクルスは魂がないかわりに、紅い石が生命の源になっていると考えられるが、紅い石を得た途端人の形をとるようになるのは、紅い石を得たことで、「門」の向こうにある「本物」の魂とリンクするようになったためではないか。誕生時の「製作者」のイメージを媒介に。

 そのつながりは、紅い石を与えられる前からあっただろうが、魂の影響を完全に形にするだけの力がなかった。それが紅い石を得たことで、魂の影響を具現化するに至った……。

 ホムンクルスは魂を持たないが、その存在は、特定の魂の影響下にある。そして、最終的には魂を所有すること(=人間になること)を望んでいる。誕生の経緯を考えれば、ホムンクルスが所有したい魂とは、特定の魂―元になった人間の魂に他ならない。

 それは、ホムンクルスが手に入れたいと切望しながらも、決して手に入らない物。

 元の肉体(=弱点)は、その魂と結びついており、現在の魂の持ち主が自分(ホムンクルス)ではないことを知らしめる物。忌まわしき存在。

 …だが、それでも、それ(元の肉体)はホムンクルスにとって魂と同一の価値を持つ物で、自らが求める魂と結びつく、唯一のもの。

 だからホムンクルスは、自らそれを壊せなかったのだろう。それは、忌避すべきものであると同時に、唯一の拠り所でもあったから。

 では、周りの者がそれを壊さなかったのは?

 実際にホムンクルス本体と共鳴しているわけでないのなら、壊してもダメージは与えられず(与えられたとしても精神的なものに留まる)、行動封じに持っていた方が得策、ということになるが、そうなると、やはり説明がつかないのは、グリードが死んだ時に、「弱点」も一緒に消滅してしまったこと。

 こうなると、考えられるのは、ダンテのしわざか。

 いつどこにいてもホムンクルスの生死を把握できるよう、ホムンクルスの死に際して「弱点」も共に消滅するよう、仕掛けを施しておいた…。

 特にグリードに関しては、その誕生に直接関わったのではないかという疑惑があり、「弱点」も、もともとダンテが所持していたので、その可能性は十分に考えられる。つまり、「元の肉体」とホムンクルスの共鳴は、自然に起こったのではなく意図的なものだったということだ。

 つまり、ホムンクルスと元の肉体は共鳴しているわけではない。しかし、ホムンクルスは精神的に「元の肉体」を処分することができない、ということである。

 それにしても、精神的なものが弱点となっているあたり、本当に
ホムンクルスは人間と変わらないように見える……。

 

 

 

2005.6.9

 

 

 

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