月の呼称

 

 

 Lはキラ事件の捜査を進めていくうちに、夜神月の存在を知り、直接対面することになるわけだが、その時の月の呼び方はバラバラで、「月君」だったり「夜神君」だったりする。
 名前の呼び方には、その人をどう思っているかが自然と表れてくるものだ。だとすると、呼び方の変化から、
Lの月に対する心情の変化が多少なりと読みとれるかもしれない。

 そこで、Lが月を何と呼んでいるかを、時間の流れに沿って、下の表にまとめてみた。

 

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状況

呼称

A

19.屈辱

東大入学式で答辞を述べた後、初めて話しかける

夜神くん

B

入学式の後、リムジンの前で別れの挨拶。

夜神君

C

20.先手

テニス前後の会話

夜神くん

D

21.裏腹

テニス後、月を捜査本部に勧誘

夜神君

E

喫茶店での推理テスト(心理戦)

夜神くん

F

22.不幸

過労で入院した夜神局長と、それを見舞う月に話しかける

夜神くん

G

病院からの帰り道

夜神くん

H

26.転倒

捜査員一同の前で、月に捜査協力してもらうという方針を告げる。

夜神月くん
月くん

I

月が捜査本部に初めて姿を現す

夜神くん

J

捜査員が偽名を名乗ることを伝え、今後「ここでは月くんと呼ぶことにすると告げる。
その後月の推理を聞く。

月くん

K

27.恋心
28.判定
30.爆弾
31.簡単

捜査本部で第二のキラに対する推理・対策を話し合う。
「友達」発言も。

月くん

L

32.

夜神局長らに、今自分が死んだら月をキラと断定するよう伝える

月くん

M

大学で月に会う

夜神くん

N

33.移動

月にミサを逮捕したと告げる

夜神くん

O

捜査本部で月とミサの関係について語る。

月くん

P

34.投身

本部を訪れ自分がキラかもしれないと告げる月に対して

月くん

Q

「夜神月を手足を縛り長時間牢に監禁」

夜神月

R

35.白紙
36.親子

月監禁、そして記憶放棄

月くん

S

37.八人

解放された月、Lと共に捜査開始

月くん

T

38.打撃

月とやる気のないLが殴り合い

月くん

U

10(二ヶ月後)、ヨツバの業績急上昇を確認

夜神くん

V

39.離別
40.仲間
41.松田

ヨツバとキラの関係について推理。警察が捜査から手を引いた為、一時、捜査を続けるかどうかでもめた。

夜神くん

W

42.天国

松田救出作戦

夜神君

X

44.後継
45.無茶

ヨツバキラ捜査法をめぐってもめるが、月の手腕にLは「私のやり方に似ていますし私より早く考えついた」と誉め、Lの名を継ぐよう言って月を試す。
「やっぱり夜神くんは犯罪者なら殺されてもいいという考えなんですね?」

夜神くん

Y

45.無茶

夜神局長と捜査方針が分かれる。しかし月を口実にミサを協力させる。

月くん

Z

「夜神くんは私と違う捜査方法をお父さん達と取る様で、私とミサさん二人でという事に…」

夜神くん

a

48.交換

ミサの活躍でヨツバ捜査が軌道にのり、分かれた捜査チームも再び一つに。月をからかう
「照れなくていいです月くん」
「何真剣に答えてるんですか月くん」

月くん

b

49.植木

「殺したことを覚えてますか?」

夜神くん

c

月の返答を聞き自らの推理を確信する。キラの能力は能力を持った者の意思でしか動かないと。
「月くん
ミサさん 共にあのタイミングで他に移るなんてもっと有り得ない」

月くん

d

「夜神くん おかげで99%スッキリしました」

「その夜神くんの案 採用」

夜神くん

e

50.四葉

「いえ 夜神くんの失敗です」

「怖がらず喜びましょう夜神くん」

夜神くん

f

52.寸止

火口大捕物
「では夜神くん
私たちも行きますか」
「夜神くんでもできますよ(ヘリ操縦)」
「夜神くんも撃てますか?」

夜神くん

g

54.

火口逮捕。L、デスノートを知る。
「あんな化物を目の前にして夜神くんは冷静な行動ができて凄いです」
「夜神くんらしくないですね。科学なんて超えてますよそれは」

夜神くん

h

57.二択

監視・手錠は解かれる。
「夜神くん
早いですね」

夜神くん

 

 以上のようになった。
 なお、
Lのモノローグでの月の呼び方は「夜神月」と、フルネームで一貫している(テニスの試合中は「夜神」だったが)。口に出しては、Qで一度「夜神月を長時間手足を縛り牢に監禁」と言ったのみ。これは事務的な伝達事項であり、また月の容疑がほぼ確実になったことから、呼び方に配慮する必要がなかったためだと思われる。

 Aにあるように、最初に話しかけてしばらくは「夜神くん」で、これは初対面の人間に対しては一般的な呼び方だろう。「くん」が漢字だったり平仮名だったりすることについては、とりあえず考えずにおく。

 この呼び方が「月くん」に変わるのは、Lが月を捜査本部の一員に加えてからのこと。
 なお、
Hで捜査員の前で月について語った時は「夜神月くん」「月くん」だったが、これは別に親しみをアピールしようとしてのことではあるまい。現に、その後Iで月に話しかけた時は「夜神くん」だった。局長の前では「息子さん」と呼んでいたのが、捜査員全員を前にしているので「月くん」になっただけだと思われる。「夜神くん」ではないのは、父親の「夜神さん」がいたのでその呼び方ではまぎらわしくなるし、不快感を与えてしまうかもしれないと考えたためだろう。

 あと、M&Nでは呼び方が「夜神くん」に戻っているが、これは場所が大学だからだろう。本部では「月くん」、大学では「夜神くん」と使い分けているのだと思われる。なるほど外ではその方が自然かもしれない。それに大学の者は皆月の本名を知っているし、本部外で偽名を使う意味はないのだから、本来の呼び方に戻ったのだともいえる。
 このことからすると、別に親しみをアピールするために「月くん」と呼んでいたわけではないのだろう。
 そういえば、呼び方が「月くん」に変わる前、二人はテニスでお互い「親睦が深まった」と了承し合うための儀式を終えているが、この前後で呼称は変わっていない。
 やはり、「月くん」というのは、別に親しみを表してそう呼んでいるのではなく、あくまでも本部での「偽名使用」の一巻として呼んでいるということだ。

 ちなみにLは、月が捜査本部に入ってから、夜神局長含め捜査員を偽名で呼ぶようになった。以前は本名で呼んでおり、月が本部に入って以後も、月が本部にいない時は本名を使っている。これは、Lがいかに月を疑っているかを表しているといえるだろう。

 「投身」で月の監禁が決定して以後は月の前でも捜査員を本名で呼んでいる。最初に本名が出たのは、月を目隠しして牢に連れていく「相沢さん」。下の名前は明かさないままだし、月の自由を奪ったのだから殺される心配はないと考えたのだろう。
 月を監禁から解放した後は皆(
Lを除いて)本名で呼び合うことになる。捜査員の偽名使用をやめたということは、それだけ月への疑いが弱まったということを意味する。もちろんLの中には月への疑いがくすぶり続けているが、捜査員達はもはや月を疑っていないのだから偽名を使おうとは思わないだろうし、それならばLだけが捜査員を偽名で呼んでも無意味だ。
 それに、捜査本部にキラがいたとしても、皆依然として
Lの本名は知らないままなのだから、Lの無事は変わらない。ここで捜査員を殺しても、Lからの疑いを深めてしまうだけのことで、キラ(月)がそんなことをするはずもない。そういう計算が働いていることは否定できないだろう。つまり、Lの名が知られない限り、捜査員達が殺される事はないということになる。もっともLのことだから、キラ(月)が捜査員達を殺してボロを出す、という展開も期待していたのかもしれないが。

 
 月とミサが釈放されたのは7月23日、そして8月2日に月と
Lは殴り合い。偽名使用をやめたとはいえ、Lは、月のことだけは「月くん」と呼び続けている(S,T参照)。
 それだけなら習慣ということで不自然ではないのだが、
101(U)、殴り合いから約二ヶ月後には「夜神くん」になっている。そしてその後も、殆どの場合「夜神くん」と呼び続けているのだ。

 これはどういうことだろうか。やはりLにとっては「夜神くん」こそが本来の呼び方で「月くん」は偽名使用の際に便宜上そう呼んでいただけだったのか。
 しかしそうすると、偽名使用をやめた後に何度か「月くん」と呼んでいるのは何故なのか、という疑問が生じる。

 偽名使用をやめた後に、Lが「月くん」と呼んでいるのはS&TYacの四箇所。一つ一つ検討していきたい。

 S&Tについては最後に検討することにして、まず、Yについて見てみよう。
 
Yは、ヨツバキラ逮捕のために、Lがミサの協力を得ようとするところだ。ここでわざわざ「月くん」と呼び方を変えたのは、「自分と月は親しい」ことをミサに対してアピールするためではないかと思われる。「月と親しい人」からの頼みということにすれば、月に絶対の愛を注いでいるミサを説得しやすくなる。
 そして、
Zで再び「夜神くん」と呼んだのにももちろん意味がある。ミサ達と「友情を確かめ合った」後、「夜神くんは私と違う捜査方法をお父さん達と取る様で…」とわざとよそよそしい呼び名と口調を使うことで、ミサと月の間にも距離が開いてしまったかのように錯覚させ、ミサも月説得に動くよう仕向けたのではないか。そうやって、月をL側に協力せざるを得ない状況にさせた。

 ただ、Lは、ミサの部屋に向かう前に「月くんもお父さん側だとわかってますが手錠は外せないので付き合ってもらいます」と発言している。まだミサがいないのに「月くん」と呼んでいるのだ。
 ミサ説得で「月くん」と呼ぶのでその前準備、というのが大きいと思うが、ひょっとすると月を子供扱いしてそう呼んだという可能性もあるのではないだろうか。
 「月くんもお父さん側だとわかってますが…」
 「夜神くんは私と違う捜査方法をお父さん達と取る様で…」
というセリフを見ていると、どうもそんな気がする。

 Lは「真相を解明しなければまたキラの能力が他に渡ってしまうかもしれないのに、目先の人命を優先して事件解決のチャンスを潰すなんて考えが青い」と考えているふしがあるから、ここで人命優先を主張する月を(秘かに皮肉を込めて?)子供扱いしたのかもしれない。捜査員達の中で、月だけがLより年下なので、そうしたとしても不自然ではない。
 そういえば
Lは、ミサのことは解放してからずっと「ミサさん」と名前で呼んでいる(心の中では「弥」と苗字だし、尋問の時も苗字で呼んでいた)が、これはミサのことを子供扱いしているからではないだろうか。

 aLは「照れなくていいです月くん」と月をからかうが、これも月を子供扱いしているように見える。

 Lは、子供扱いする時には名前で呼び、対等の捜査員として話しかける時には苗字で呼んでいるのではないだろうか。他の場面でのセリフなどをまとめて見ると、そう思う。
 それに、月への疑いを捨てきれないとはいえ、それが薄まってきているのは確かなようで、偽名使用をやめただけでなく、「
39.離別」ではワタリの存在まで月に教えていた。これで月はLに関して、他の捜査員達とほぼ同じだけの情報を得たことになる。Lの中でも、容疑者としてだけでなく捜査員の一員として見るという意識ができてきていたとしても不思議はない。
 もしも松田が
Lよりも年下だったなら、「桃太くん」と彼のことを呼んでいたかも知れない。

 cは夜神局長を含む捜査員全員に対して話しかけているので、Hと同じく局長の手前、混乱を避けるため名前で呼んだのではないかと思われる。

 これで大体の説明はつくと思うが、残る疑問はS&Tだ。

 偽名使用をやめたのだから、名前で呼ぶ必要はないし、この時点ではまだ、月を子供扱いできるほど疑いを解いたわけではないだろう。
 いきなり呼び方が変わったら不自然だ考えたのかもしれないが、その後
Lはしばしば月の呼び方を変えているし、前置きなしに捜査員達を偽名で呼ぶのをやめてもいる。だから別にそれが不自然だと考えてやめたわけでもなさそうだ。
 では、なぜなのか。
 思うに、これは
Lから月への挑発だったのではないだろうか。
 月解放後、
Lは捜査員達の偽名使用をやめ、一見月を正式な捜査員―仲間として認めたかのように見える。特に捜査員達の間では、月への疑いはもはやないも同然。
 だが、そんな状況でも
Lは、月を偽名使用時の呼び方で呼び続けることで、「自分はまだ月を疑っている」と暗に主張して挑発していたのではないだろうか。
 もちろん手錠をしているという時点で、
Lが月への疑いを解いていないということはわかるはずなのだが、Lの「幼稚で負けず嫌い」な性格を考えると、それが呼び方での挑発となって表れたとしても有り得ない話ではないと思える。


 つまり
Lは、月のことを一般的な呼称「夜神くん」で呼ぶのが標準で、偽名使用時、子供扱いする時、第三者に月との親しさをアピールする時、夜神局長の前で月を話題にする時など特殊な場合のみ「月くん」と呼んでいるということになる。
 大抵は必要に応じてそう呼んでいるのだが、そうでない時に子供扱いして名前で呼ぶ時もあると考えると、
Lの意外な一面が見えて面白い。

 

 

 

2007.4.22

 

 

 

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