L【総評】

 

 

<キラとの対決勝敗表>

相手に与えたダメージ・敗北感を5点満点で評価。

行動

L

L、キラの潜伏地域特定 (page.2:L)

4

月、犯罪者を一時間おきに殺害 (page.3:家族)

2

月、日本に潜入したFBI捜査官を殺害 注1
(page.3:家族~page.8:女)

5

L、捜査対象を夜神家と北上家に絞る
(page.11:~page.15:電話)

1

L、夜神家を監視。(page.16:逆立〜page.18:視線)

1

L、「日本に先進各国から合計1500人の捜査員導入」という偽の報道を流す。 (page.17:) *注2

2

L、夜神月と接触。(page.19:屈辱)

5

Lと月、テニスを通した心理戦(page.20:先手) *注3

1

2

L、月に推理力テスト&心理テストを実施 *注4
page.21:裏腹)

3

第二のキラ争奪戦(page.26:転倒〜page.29:武器) *注5

3

月が捜査状況とビデオを観て「第二のキラの可能性がある」と推理するか否かを見る。(page.26:転倒)*注6

1

L、月に「キラのメッセージ」を偽造させる *注7
page.26:転倒)

1

1

月、ミサに「最後のメッセージ」を送らせる。 *注2
page.31:簡単)

2

L、「もし自分が近日殺されたら『夜神月がキラ』だと捜査本部の者に伝えた」と月に語り、行動に釘を刺す

3

L、ミサの携帯で月の電話を受ける (page.33:移動)

1

L、第二のキラ逮捕(page.31:簡単〜page.33:移動)

4

夜神月を監禁(page.34:投身〜page.36:親子) *注8

4

2

月、Lのすぐ側で火口を殺害 (page.53:悲鳴)

4

月、13日ルールでLの思考を封じる (page.55:創造)

3

月、レムとミサを利用しLを殺害
(page.57:二択〜page.58:胸中)

5

1

合計

31

30


注1
 
Lは、月のフェイク(犯罪者に書かせた暗号)に完全にひっかかった。

注2
 
仕掛けた側はそこそこの自信を持っていたようだが、あっさり看破され、仕掛けた方がかえってダメージを受けている。

注3
 
月が自分を捜査本部に連れて行くよう要求する前に、「1%ぐらいだが本当は夜神月をキラではないかと疑っている」と直接告げて先手を打ち、Lが会話の主導権を握った。
 テニスに勝ったのは月だが、
Lは負けたことを特に気にしてはいないようだ。

注4
 
よく喋る月を見て「負けず嫌いの典型だ」と判断、5%未満だったキラ=月の可能性が7%に上昇した。

注5
 
第二のキラ獲得にあたり、月は殆ど何もしていないに等しいが、これも日頃の行いの賜物。勝ちは勝ちである。

注6
 月が偽キラを示さなければキラの疑いをより深め、ひっかからなければ
Lの説が有力になるだけ。どちらにしてもLが有利になる。

注7
 恐らく本物のキラであろう月にキラを演じせるとは、なかなか嫌味である。しかし月も、軽いジョークでLは死んでもいいが」という一文を入れるという嫌味で返している。

注8
 一見
Lに有利な状況が出来上がったが、それもまた全て月の掌のうち。Lもそれを勘づいていたものの、結局月の計画通りにことを進めてしまう。そして、キラについての推理を一から考え直さざるを得なくなったLは、やる気を失う。

 

 試しに数値化してみると、驚くべきことに、わずか1点差で月の勝利となった。別に狙ったわけではない。本当に、紙一重だったのだ。

 まず、ざっと見たところ、顔を合わせる前の序盤は月が優勢。
 しかし、顔を合わせてからの中盤になると優勢なのは
Lで、月はやや押され気味。対面してのやりとりでは月が守る立場にあるというのもあるだろうが、嫌味合戦ではLがやや上手ということになるだろう。
 ところが終盤になると、終始月の独壇場。
Lは完全に月の手の上で踊らされており、月の策を全く読めずにいる。これらの策は全て、窮地に追いやられた月が思考をフル回転させて編み出したもの。
 追い詰められた者は強い。思えば、
Lがミサを逮捕して月を追い詰めることができたのも、自分が窮地にあると認識したが故だった。

 Lは、全力を出した月に勝てなかったのだ。


Lの失策>


【備考・他のキラへの無関心】

 

 Lは、優れた推理力を持っているが、失策もないわけではない。
上にそれをまとめてみたが、これを見ると、失策の大半は油断や不注意によるものであることがわかる。

 自身が優れている故に、捜査官にキラについて説明する必要に気づけず潜入したFBI捜査官の全員死亡を招いたり、また自身の推理に絶対の自信を持っているが故に、ヘリ機内で月への注意を怠りすぐ側にいたにも拘わらず火口殺害を許してしまうなど、どれも油断と先入観が招いたことだ。

 キラに対し本腰を入れ始めてからの動きは決して悪くないのに、やはり「やる気」の差だろうか。相手が第二、第三のキラになると、途端に動きが鈍る。
 特に、火口追跡の際の危機意識の少なさ。
 しかしその一方で、キラが第二のキラと手を組んで、追い詰められたと感じた時の動きは目を瞠るものがある。

 どうもLは、追い詰められるか、強い相手と相対した時でないと実力を十分に発揮できないという、少年漫画の初期の主人公によくある特性を持っているように見える。常にー兎を倒すのにも全力を尽している月とは対照的で、そこがLの敗因だろう。(もっとも、月も、第二部に入ってからは、このLの特性を受け継いでしまったように思えるが)

 

<違法捜査>


注:法律には反していなくとも、道義上問題のある捜査も含む。

 

 Lは、基本的に目的のためには手段を選ばない。

 一応、法的に問題が生じないように考慮はしているようだが、たとえ法的な合意が得られなくとも、その方法を実行することに躊躇はしない。法的に問題がなく、生じるのが道義上のものだけだとすればなおさらだ。

 Lの目的はキラ断定で、それが最優先。人命よりも、それが優先するのだ。犠牲になるのが自分にせよ他人にせよ、Lにとっては目的のためなら躊躇なく計画を実行にうつす。

 Lは「死の会議」の存在を知った時、人命よりもキラ断定を優先しようとして捜査本部と意見が分かれたし、デスノートを入手した時は、捜査員達の手前、検証したいのを我慢していた。
 
Lがそうした手法をとるのを我慢したのは、それを強行すると、捜査員達の反発にあい今後の捜査がやりにくくなるからにすぎない。
 
Lがいつもこのような法を無視した策を強行していたら、いかにLが有能とはいえ、世界の警察を動かせる立場にはなれなかっただろう。こうした駆け引きのぎりぎりのバランスが、Lを世界の名探偵たらしめている所以である。(それを考えると、ニアが世界の警察を動かしていけるのか、多大な不安が残る)

 

<疑惑を表すパーセンテージ>

 Lがよく口にする確率だが、13巻には次のように記されている。

Lが数値を口に出す時、基本的に彼の中で疑惑は90%を越えてます。
だから信用できません。そもそも彼は嘘つきですから。
だからあの数字は、私が
Lの気分で適当につけているものです」と。

 しかしLは、心の中でも数値を挙げている時があり、まったくの出鱈目とも思えない。「自分の中での疑惑」と、「客観的な疑惑」は異なるため、「客観的な疑惑度」あるいは「口に出して他人を納得させ得るだけの疑惑度」を口に出しているのではないかと思われる。

 口に出しては「5%」なのに、その内実は90%以上。
 この差違を埋めるのは何か。勘としか思えないのだが、その勘がことごとく的中しているのが不思議でならない。

 

<キラという存在>

「月くんがキラであってほしかった……」


 
Lは、基本的に興味をもった事件にしか動かず、行動力においてキラに劣るため、どうもキラに対し後手後手にまわりがちな部分がある。決断後の実行は早いが、決断するまでに間隙が生じる。

 そんなLが、キラに目を付けた。
 その動機、実行力。そして殺人を行う方法。
 どれもが
Lの目を惹くに十分だった。

 Lが動き、それに対するキラの反応をみるにつけ、ますます興味がわく。

 挑発には挑発で返ってくる。
 自分と同じく、「幼稚で負けず嫌い」。
 自分と同じレベル、発想で動く存在。

 かつてない手応えを感じる。

 そして、FBIの事件で完全にしてやられたL。初めての敗北。
 それで初めて真剣に向き合える存在に出会えたと思っただろう。

 自分にふさわしい好敵手。

 Lの中で「キラ」の存在感が今までにないほど大きくなった。

 そんな時に出会ったのが夜神月だった。

 醸し出される圧倒的な存在感、あらゆる面で完璧な存在。
 その一挙手一投足、全てが
Lの描く「キラ」のイメージそのもの。

 これぞ「キラ」、「キラ」はこうでなくてはならない。そう思ったろう。

 月はLの考えていることをどこまでも的確に読むーキラと同じく。
 その上での勝負。そんなことができる相手はこれまでいなかった。
 月に出会った事で、
Lの中の「キラ」のイメージが明確に固まった。

 Lの推理は、それが「キラ」に対してのものか、「月」に対してのものか、もはや分離することができなくなっていたし、する必要も感じていなかっただろう。月が記憶を失うまでは。

 だから月が記憶を失い、月がキラではないのではないかという疑いが生じた時のLの落胆はひどいものだった。
 それはすなわち、月だけでなく、初めての好敵手「キラ」のイメージをもくつがえすことであったから。

 記憶を失った「夜神月」は、Lの描く「キラ」のイメージとは違う。

 「夜神月」は、能力的にはLと同等で大変優れた頭脳の持ち主ではあるが、性格的には不完全で甘い。
 キラであれば感じさせるであろう、圧倒的な存在感もない。以前の月から感じていたのは錯覚だったのではないかと感じさせるほどに。
 
Lにとってキラは、能力だけでなく性格も完全でなければならない。キラこそが、自分と対等の、「完璧な存在」。

 第二のキラが現れた時の「やり方が気に入らない。キラらしくない」というセリフの裏には、「キラはこうあってほしい」という願望もあったのではないだろうか。

 並はずれた頭脳を持っていたL。それまでは恐らく月と同じように退屈を抱えて生きてきたのかもしれない。
 そんな
Lがここまで執着したのは、キラが最初で最後だろう。

 

 

 

2007.5.25

 

 

 

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