ダイの大冒険・一言コラム

 

 

気配り屋のラーハルト

 

 物語終盤になって、突如として再登場したラーハルト。それは、それまで知らなかった彼の新たな一面を見せてくれた。それは細かいことにこだわらず、器用で、しかも気配り上手だということである。

 まず、彼は、自らの片割れとして大切にしてきた(であろう)鎧の魔槍が新しく改造されているのを見ても、何も言わなかった。もちろん、より強力になったのだから、前のデザインでなければ嫌だ、というような特段のこだわりがないかぎり、不満はないだろう。一目見て、それが以前より強力になったことを見抜いただろうし、ロン・ベルクの存在を知っていたことといい、彼が武器についてそれなりに詳しいことは疑いない。それなのに、新しくなった鎧の魔槍を見ても、何のコメントもないのである。ヒュンケルに対しても魔槍に対しても、何の言葉もない。魔槍であることにはかわりないのだから、鎧のデザインがちょっと変わったぐらいのことは気にとめない、こだわりのない男なのだ。
 バランの手紙とダイにより、簡単にそれまでの方針を百八十度転換して人間を助け魔王と戦うことからしても、それはわかる。いや、これはむしろ、適応力に優れている、というべきだろうか。実際、新しい鎧の魔槍も何の問題もなく使いこなしている。素晴らしい適応力である。

 アバン先生が現れた時もそうだ。そもそもラーハルトは、アバン先生と顔を合わせるのは初めてのはず。伝説の勇者だから名前ぐらいは知っていたかもしれないし、もしかするとヒュンケルの師ということも知っていたかもしれない。もちろん知らなかったという可能性もある。それなのに、ミストバーンとの戦い中、いきなりモシャスで現れたアバン先生に対し、何の感じないとは……。「あれは誰だ?」とか、「そうか、あれがあのアバンか…」などの一言すらないのだ。無論、そんなことをゆっくり話していられる状況ではなかったのは確かだが、それにしても、少しぐらい反応を示してもいいような気がする。初めて戦った時には「ヒヨッコ」と称していたポップの作戦をごく自然に信じ受け入れたりするあたりも含め、本当に素晴らしい適応力である。……単に、一部の相手を除いては、徹底的に無関心なだけなのかもしれないが。
 ただ、これに関しては、まったく別な見方もある。ラーハルトが血を与えられてから再登場するまでには結構間があいているため、その間にアバン先生と会ったことがあるかもしれない、という可能性だ。アバン先生はずっと破邪の洞窟に潜っていたが、その間一度も外に出なかったとは言い切れない。もしそうだとすれば、ラーハルトだけでなく、アバン先生も、初めて知ったはずのことも既に知っていたかのように構えていることの説明がつく。

 しかし、全体的に見れば、やはりラーハルトは細かいことにこだわらず、素晴らしい適応力を持っていると思う。加えて、気配り上手。

 大魔王と対峙した時、武器を何も持っていなかったアバン先生は一体どうやって戦うつもりなのだろうかと思っていたが(まあ武芸百般、武器にこだわらずジャッジの鎌の柄まで使っていたアバン先生のことだから、あまり心配はしていなかったが)、なんと35巻では、絶妙のタイミングでラーハルトが手甲から剣を取り出しアバン先生に手渡していた。何も言われていないのに(アイコンタクトすらなし)、実に気の効く奴である。

 やはり、竜騎衆でもリーダー格だっただけあって、気配り上手なのだろう。

 

 

働き者のミストバーン

 

 ミストバーンは実に働き者である。

 大魔王が地上破壊に本格的に乗り出す前からの忠臣で、アバン先生を「ハドラーを倒した頃から知っている」ということから、地上偵察なども頻繁に行っていたと思われる。もしかすると、ハドラーを実際に死の淵から蘇らせたのはミストバーンだったかもしれない。
 ヒュンケルを助けたことも考えると、その後も時折アバン一行の様子を探っていた可能性がある。そしてヒュンケルを育てると同時に魔影軍団の軍団長としての仕事も行い、他の軍団長と大魔王との橋渡し役にもなる。立ち入るものの殆どないバーンパレスの奥深くで、バーン様の給仕としても活躍する。…けして疲れない存在だからいいようなものの、そうでなければ過労死していたとしてもおかしくない。

 魔王軍一の働き者はミストバーンに間違いないだろう。

 

 

ジャッジの謎

 

 アバン先生は決闘の後、ジャッジによる異空間からリリルーラで脱出したが、もしそんなことができるのならば、ジャッジから簡単に逃げることができてしまうため、ジャッジは決闘マシーンとしては欠陥品になってしまい、とても魔界で長く使用されるようなものではなくなってしまう。

 この場合はジャッジの死後だから可能だったのか(それならリリルーラを使わなくても自動で戻ってもよさそうな気もするが…)、本当に欠陥品だったのか。なにしろ古い品だし、そこに変な細工まで施したりしているものだから、性能に何らかの不具合が生じていてもおかしくはない。
 アバン先生が破邪の秘法と併用した、という可能性もある。魔界にこのような秘法を使う者がいた可能性は低い。
 様々な可能性が考えられるが、ただ言えるのは、アバン先生には奇跡が味方についていた、ということである。少々不可思議な点は、これで説明がつくだろう。(身も蓋もない…)

 

 

ファントムレイザーの謎

 

 アバン先生は無事キルバーンを倒した。

 しかし、ここで気になるのは、その後どうやって周囲のファントムレイザーを抜けて先へ進んだのか、ということである。キルバーンが倒れて消失したのか(でもピロロは無傷)、見えていたのか(ミエールの眼鏡を使用すればもしかして…)、事態を予測して何らかの手を打っていたのか。トラマナかトヘロスを使ったという可能性もある。確定はできないが、いずれにせよ、戦闘中でないのなら、とり得る手は色々考えられる。

 それより気になるのは、アバン先生はキルバーンを倒した後どうやって自分に刺さった一本を現実世界に持ち帰り、使ったのか。もしかして、しばらく刺さったまま活動していたのだろうか。少しもそんな素振りは見せなかったが……。ファントムレイザーの所有権がどうしてアバン先生に移ったのかも気になるところだ。刺さったからなのか(しかしその時点ではまだキルバーンにもレイザーが見えていたようだったが)、それとも空間を移動したからだろうか。

 それはそうと、アバン先生がバーニングクリメイションの引火したキルバーンの炎を消さなかったら…黒のコアは爆発していたかもしれない。アバン先生の優しさに世界は救われた……!

 

 

ヒュンケルVS.バランとアルビナス

 

 ヒュンケルとバランの一騎打ちにアルビナスが割って入ったとき、ヒュンケルは身を挺してバランを守った。そのためヒュンケルは重傷を負い戦闘不能を告知されたのだが(もっともその後何事もなかったかのように戦いに赴いているが)、本当にそこまでする必要があったのだろうか。

 この時アルビナスが放った「ニードルサウザンド」はベギラゴンを拡散して放つものだから、鎧の魔槍を装備したヒュンケルや竜闘気に守られたバランには、きかなかった可能性が高い。
 とはいえ、この時のヒュンケルはアルビナスがどんな攻撃を仕掛けてくる々わからなかった(まだ毒針を飛ばせることぐらいしか知らなかったろう)から、その行動も無理からぬことだったかもしれない。どのみちこうなっては勝負に専念することなどできないし、かわすか攻撃するかということになれば、咄嗟の判断で攻撃を選択するのはヒュンケルの性格からすれば当然のことだっただろうから。
 問題は、アルビナスの方である。彼らにニードルサウザンドが通じないであろことを、ハドラーから聞かされていなかったのだろうか。親衛騎団の大半は呪文を接近戦の能力とからめて使うので、わざわざ説明する必要をハドラーは感じなかったのかもしれないが、やはりこれは伝えておくべきだろう。ただアルビナスは、それと承知の上で、意表をつきさえすればいいというつもりでこの技を放ったのかもしれない。驚いて二人の手が止まったところを完全体になったアルビナスが攻撃すれば、大きなダメージを期待できる。ただ誤算は、ヒュンケルの手がそんなことでは止まらなかったことだ。まさかギガブレイクを受けるのを承知の上で反撃してくるとは、アルビナスも思わなかったのだろう。ヒュンケルもアルビナスも、戦うために生まれたかのような存在だが、ヒュンケルの方が一歩上手だったようである。

 

 

ギガストラッシュとストラッシュX

 

 ギガストラッシュとアバンストラッシュX。ともにダイが会得した超強力な必殺技だが、しかしこれについては一つ解せないことがある。

 ハドラーとの戦いでは闘気量が残り少なくストラッシュXがもう打てなかったため、呪文でカバーすることにし、ダイはギガストラッシュを放った。単純に考えてストラッシュXは約二倍の闘気を消費するので、納得のいく選択である。若干ギガストラッシュの方が強力そうな印象はあるものの、正確なところはわからない。

 しかし、大魔王バーンとの戦いでは、ギガストラッシュを使う体力がもう残っていないという理由でストラッシュXを放った。ちなみにこの後ダイはライデインを連発しているから、MPが残っていないわけではない。また、ポップが天地魔闘を破る間、ライデインを鞘でギガデインにする時間(10秒)も十分にあった。

 ギガストラッシュとストラッシュX、選択した理由はよく似ているのに、放った技は全く別なのだ。これは一体、なぜだろうか。
 ひっかかるのは、やはりバーンとの戦いである。闘気と体力は違うのかもしれないが、体力にしても、ギガストラッシュよりストラッシュ
Xの方が消耗が激しいように思える。竜の騎士にのみ可能な魔法剣は特に体力を消費する、という見方もできるが、それにしても釈然としない。ハドラーとの戦いの時だって、ダイは十分体力を消耗していたはずなのだ。

 だから、ダイが大魔王バーンとの戦いでストラッシュXを放ったのは、体力が残っていなかったからではなく、別の理由があったのだと思う。それは、大魔王バーンの油断を誘うことにあったのではないか。天地魔闘の構えが破れ一瞬生まれる(であろう)隙にダイが攻撃を仕掛ければ、大魔王も身構える。もしこの時ギガストラッシュを放っていたならば、大魔王は全力で迎撃していただろう。しかし、目の前に飛んできたのは一見普通のアバンストラッシュ。「アバンストラッシュAだ」と一瞬の油断が生まれたところにダイが急接近してきたため、大魔王は驚き、そこに大きな隙ができてしまった。アバンストラッシュXは相手の意表を突くことができるという点でも優れた技だったのだ。
 さらにストラッシュ
Xは、大魔王との戦いではそれまで一度も使用しておらず、実戦ではハドラーとの戦いで一度使ったきりだったので、大魔王バーンもこの緊迫した状況の中ではその存在を失念していたのではないかと思われる。
 それに実際、ギガストラッシュは以前あっけなく受け止められてしまったので、大魔王バーンを相手にするならば、ストラッシュ
Xの方がいいように思われる。この技なら、フェニックスウィングだけで弾かれる可能性は低い。やはり技も状況に合わせて使っていくことが大切なのだろう。

 何にせよ、アバンストラッシュXもギガストラッシュも一回限りの技とならなかったのは、嬉しいかぎりである。

 

 

マトリフとバダック

 

 マトリフは魔王ハドラーを倒した後、一時期パプニカ王家に仕えていたことがあったらしい。その時側近達に嫌がらせを受けて人間嫌いになり隠遁生活に入ったようだが、ここで気になるのは、バダックとマトリフはどの程度お互いのことを知っていたのだろうか、ということだ。

 マトリフに会った時、バダックが「魔王軍と共に戦った魔法使いがかつてパプニカ王家に仕えていたという…」と発言したことから、どうやらバダックはマトリフのことを伝聞でしか知らなかったようである。マトリフは15年前から容貌は変わっていないし、マトリフの方からも、特にバダックを知っている素振りはなかったので、これは確かだろう。
 しかし、バダックは長年パプニカ王家に仕え、レオナ姫のお目付け役のような存在でもあった。このように、パプニカのかなり中心部にいたと思われるバダックが、マトリフに会ったことがないなどということがあり得るのだろうか。同じ城にいたならば、少しぐらい顔を合わせたことがあってもよさそうなものだ。
 では、違う城にいたとすればどうだろうか。パプニカの風習か何かでレオナが離宮などで育ったとすれば、それは十分に考えられる。マトリフはレオナに会うのも初めてのようだったから、こう考えれば一応筋は通る。
 もしマトリフがパプニカにいた頃、バダックやレオナに会っていたら、少しはその後の展開も違っていたかもしれない。

 

 

「瞳」の条件

 

 大魔王バーンは、自らと戦う資格のない者を「瞳」に封じこめる能力を持っている。実に大魔王らしい能力だが、最終決戦で封じられた者についてポップが推測する場面には、若干の疑問が残る。
 ミナカトールを使えるレオナやクロコダインまでも「レベル外」と判定されたことからすると、大魔王と戦うための条件は、かなり厳しい。
 ポップは「ヒュンケルはもともと重傷、マァムと老師はミストにやられた傷がまだ残っていて、クロコダインとチウはレベル外」と考えているが、本当にそうだろうか。

 クロコダインでは大魔王に致命傷を与えることは難しいだろうから、レベル外とされたのは仕方のないことかもしれない。ただ、老師はミストにやられたダメージというより、活動可能時間が短すぎるというのがその理由だろう。カイザーフェニックスを受けたら一撃でやられてしまいそうだというのも原因の一つかもしれない。通常攻撃は受け流せても、飛び道具はそうはいかないだろうから。

 しかし、何より気になったのは、マァムについてだ。ミストにやられたダメージが残っているとポップは言うが、そんなふうには見えないのである。
 虚空閃のダメージについては、既に回復呪文などで回復しているだろうから、この時点でダメージが残っているとすれば、それは回復呪文のきかない暗黒闘気によるもの、つまりミストに体を酷使されたダメージということになるが、逆に言えば、ミストはちゃんとマァムの体を使いこなせていたのだから、マァムもその気になりさえすれば、まだまだ戦えるということである。実際、その戦いの後、マァムは腹立ちまぎれにポップをボコボコにしていたのだ。決して戦う力が残っていなかったわけではない。
 それに、ダイが重傷を負っても瞳にされなかったことからすると、ダメージが大きければ即瞳にされるというものでもないらしい。それより遥かに傷の小さかったマァムが瞳にされたということは、やはりクロコダイン達と同じく「レベル外」と判断されたからではないだろうか。マァムも決して弱くはないが、瞳にされなかった者たちと比べると、やはりどうしても物足りなさが残る。
 ポップがそう判断しなかったのは、長い間一緒に戦ってきた仲間ゆえの贔屓目だったのではないだろうか。

 

 

 

2008.7.27

 

 

 

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