イーグルの洞察力
アニメが佳境にさしかかった時、どうしても不思議でならなかったことがある。
イーグルは、いつランティスの、光への思いに気付いたのか。
そもそも、ランティスはいつ光が好きになったのだろうか。
アニメ45話。
王冠の部屋に入った後、目を覚ましたイーグルは、
「ランティス…あなたは次の柱を好きになってしまったのかもしれませんね」
と心の中で呟く。
そして、これがランティスが光をどう思っているかを示す、初めての重要証拠だったのである。
その後、ランティスがノヴァを光と誤認して刺されたことから、彼が光を好きだということがはっきり示される。
だが、それまでは、ランティスが光をどう思っているかなどということは、全く分からなかった。
確かに「心を動かされた」と思われるであろう描写もちらほらとあったが、それは「好き」であると確信させるに足るほど強いものではなかった。
光がランティスと出会ってから三日足らず。
言葉を交わしたこと自体少ないのだ。
その上ランティスは、光と違って、主人公ではないため、その心情が描写されることも多くはない。
とりあえず、ランティスが、光に心を動かされたであろう場面をまとめてみよう。
これに、原作の「誰よりも心の強い持ち主の目だ」という、光を評した言葉を合わせれば、ランティスが光に惹かれたのも、それほど不自然ではないようにも思える。
おそらく、それがはっきりと形を持ち始めたのは、光から告白を受けてからだろうが。
ただ、問題は、これらの場面を、イーグルは見ていないということなのである。
見ていた視聴者でさえ、容易には掴めなかったランティスの気持ちを、イーグルはいともあっさり悟ったのだ。いくら親友とはいえ、これはすごい洞察力と言わねばならない。
光とランティスが接した時間は確かに少なかったが、イーグルがセフィーロに来てからランティスと接した時間はさらに少なく、ランティスの気持ちに気付く機会など、ごく限られたものであろうに。
ここでまた、45話までにイーグルがランティスと接した場面をまとめてみよう。
…こうしてみると、ランティスの気持ちに気付けそうな場面は殆どなく、むしろ、「ランティスはアルシオーネが好き」と誤解するほうが自然のようにさえ思える。
もちろん、4だけでそのように思いこむのは早計というものだが、これで誤解することがなかったのだから、1で気付いたということはまずあるまい。第一、この時点では、まだランティスは光に対して、好意と呼べるほどはっきりした感情を抱いてはいなかっただろうし。
では、2はどうか。
想いを寄せていた女性がさらわれたため、単身敵地に乗り込む、というのはよくあるパターンだが、ランティスの性格と実力を考えれば、単身敵地に乗り込むというのもそれほど大胆なことではなく、ごく普通のことだろう。
それに、あいにくあの状況では、さらわれたのがプリメーラだったとしても、ランティスは同じことをしただろうし。
名前を出された時に一瞬反応する、というのも、あの会話の流れだと、その表情の変化は、「話をはぐらかすな」と言っていると捉えるのが自然に思える。
ちなみに、無口・無表情のランティスから、この「一瞬の反応」を読みとるのは難しく、私の場合、脚本集を読んでから気付いた。イーグルは、すぐにわかったのだろうが…。
5では、さすがにランティスの気持ちを読みとる余裕はないだろう。決闘の最中に名前を呼ばれて一瞬注意が逸れた、ということが挙げられるかもしれないが、それはイーグルとて同じことである。
となると、残るは3しかない。
ノヴァが去った後、三人の間でどんなやりとりが交わされたのかは明らかにされていないが、すぐに光が怪我をしたランティスを連れて部屋を出たであろうことは想像がつく。
それでも、まがりなりにもランティスと光が接している場面をイーグルが見る事ができたのは、この時だけだろうから。
二人が部屋を出るまでの短い時間―ランティスの、光を見る目が特に優しい事に気付いた、というようなことだろうか。
いくら「目は口ほどにものを言う」とはいえ、ごくわずかな時間で、無口・無表情でならしたランティスからそこまで読みとってしまうとは、さすがオートザム最強のコマンダー。イーグルの洞察力畏るべし、である。
ただやはり、流石にこれだけでは確信には足りないだろう、という思いも拭えない。
他に、何かランティスの気持ちを確信させるようなものはないだろうか。
そこで思い浮かぶのが、光がランティスからもらったペンダント。
イーグルは、ランティスがこれを手渡した場面を見てはいないが、ノヴァとの戦いの最中、ペンダントを見る機会はあったろうし、ペンダントがどういうものかーランティスの大切なものだと知っていれば、それを持っている光が、ランティスにとって大切な存在だということもわかるのではないだろうか。
加えて、もしこのペンダントに、「母に託されたもの」という意味の他に、原作のフェリオのリングのように、「いつか大切な人ができたら差し上げなさいと渡されたもの」という意味があったとすれば、ランティスの気持ちは、もう明らかだ。
もちろん、あのペンダントにそこまでの意味があったかどうかはわからないが、ランティスの親友であったイーグルが、彼がそのペンダントを大切にしていたことは知っていてもおかしくない。
ランティスが大切なペンダントを渡したこと。
そして、光を見るその目。
これらのことから、イーグルは彼の気持ちに気付いたのではないだろうか。
#それでも、まだ確信には少し足りないような気がするが…。
ちなみにイーグルは、46話で光の「ランティスが好き」という告白に驚いた様子を見せなかったから、光の気持ちにもとっくに気付いていたと思われる。光といつも一緒にいる海や風も気付いた様子はなかったのに…。
そういえば、ランティスが、王冠の発光現象について、「エメロード姫の最後の想い」と説明した時にも、目敏く「最後」の部分に反応していた。
やはり、イーグルは常人離れした洞察力を持っているのだろう。
2006.6.6
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