暗闇の向こうに

 

暗いところにいた。

あまり、動いてはいけなかった。

……生きていたいのなら。

 

ただ、待っていた。

そっと息をひそめて。

……存在を悟られないよう。

 

外に出たかった。

思いっきり光を浴びたかった。

……だが、まだ早い。

 

もう少し。

もう少し。

……あせらずに、ただ、その時を待つ。

 

気の遠くなるような時が過ぎて。

 

―そして、時は来た。

ついにーついに!

 

もう、外に出てもいいのだ。

思い切り光を浴びていいのだ。

―ああ、光とは、どんなものだろう!

 

光が見たい。

一刻も早く。

外へー外へ!

 

 

光を目にした、その時。

それの意識は、途絶えた……。

 

 

あるところで、声がした。

「あれ?……なんだ、これ?」

「セミじゃないか?異常気象だからなあ……」

「え?あー、本当だ……嫌だな、セミ踏んじゃったよ」

「運が悪かったな」

 

 

またあるところで、別の声がした。

「ああ、ようやくあの独裁政権が倒れたというのに……」

「あの時は、これでようやく暗黒時代も終わるかと思ったんだが」

「混乱は広がる一方」

「頼みもしないのにやってきた他国の軍が、次々と爆弾を落としていって……」

「それは、光を渇望し続けた人々の上にも降り注ぐ、か……」

「運が悪かったんだな」

 

またあるところで、声がした。

「彼も気の毒にな」

「受験も終わって、勉強づくしの暗い日々が」

「学校を卒業して、様々なものに縛られる窮屈な日々が」

『ようやく終わったというのに』

「その先には、何もなかった」

「暗がりにいた彼の目は、光を見ることができなくなっていた」

「事故か、自殺か……」

「どちらにせよ、不幸なことだな」

 

 

声達は、一つ肩をすくめると、また何事もなかったかのよう歩き出した。

 

 

END

2004.2.4

 

 


 

後書き

 

 「コレ小説?」とかいうツッコミはナシの方向でお願いします。

 サイト初の小説が、こんなものになるとは……。

 まずは、昔書いたものをちょっとずつアップしていって……とか思っていたのですが、今朝話を思いついてしまったので、なるべく早く小説を開通させようと思っていたことでもあり、勢いにまかせて開通させてしまいました。

 今朝は、何かストーリー性のある夢を見たのですが、ある程度目が覚めるときれいさっぱり忘れてしまい、それがちょっと悔しかったので、思い出すついでに色々ぼんやり考えていたら、こんな話が浮かんできた、というわけです。ミスリード→実はセミ、というのを思いついたのですが、これではあまりにもありがちなので、もう一ひねり加えてみた…つもり……です(ちょっと弱気)。

 それにしても、我ながら暗い話だなあ……。

#昔書いてたのも割と暗めのが多かったけれど。

 

 

 

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