名探偵の条件
名探偵の条件とはなんだろうか。どういう人物が名探偵と呼ばれるのか。
「探偵」というのは「(犯人・容疑者の罪状や、被調査者の経歴・行動などを)こっそり調べる・こと(人)」
[新明解国語辞典]と定義されているが、ここでは前者の「犯人・容疑者の罪状などを調べる」探偵について考えてみたい。まず、名探偵が事件を解決する場合、
の大きく二通りに分けられるだろう。
前者は主に閉塞環境(孤島など)における連続殺人事件等においてよく見受けられる。時間をかければ他の者でも真相に至ることはできただろうが、その時間的余裕がない中で、冷静に、かつ迅速に状況を把握し真相に辿り着くのは決して簡単なことではない。それ故に、それを数多く成し遂げた者は名探偵と呼ばれるのだろう。ちなみに、「名探偵コナン」でもこのパターンで事件が解決することが多い。事件自体はそれほど凝ったものではなくても、その場であっという間に事件を解決してみせるなどの早業が多く登場する。
後者は、放っておけば迷宮入りになること間違いなしの事件で、当然読者にとっても「意外な真相」となるからこのような展開になると非常に面白い。面白いのだが……名探偵がこのような活躍をするには、犯人が優れていることが条件なので、前者に比べ、そう頻繁にはお目にかかれないのが残念である。また、前者の場合、一度事件を解決しただけでは名探偵とまでは言えないが、この後者の場合、ただ一度の活躍でも名探偵と呼ばれ得る。他の者にはできないことをした、という一事でもって。
まあ、一般的に「名探偵」と呼ばれる人種は、大抵この2つの要素を兼ね備えているものだが……。
ところで、名探偵となるに必要不可欠なものがある。それはずばり「勘」である。
無論、知識や観察力といったものも必要だが、「名」探偵と呼ばれるにはそれだけでは不十分。名探偵の称号を得るには、「勘」が絶対必要なのである。―次のような言葉がある。
「ホームズに限らず、たいていの場合名探偵の推理というのは予断と偏見に満ちているのですから仕方ないのですよ。
それでも真相に辿り着くから名探偵は『一種の超能力だよ』と言われてしまうほど運が良いわけです」
(「
「どれほど見事な理屈でも間違っていることはよくあります。ミステリでも、手持ちの材料からゆるぎない解決が得られたものの、後になって出てきた証拠を合わせればその解決が否定される、という展開はよくあります」
(「
*なお、「
LIFE IS SPIRAL」は、漫画「スパイラル〜推理の絆〜」の解説本だが、スパイラル本編にも似たようなセリフがある。
名探偵は一種の超能力。推理に絶対などないのに、なぜか当たるのだ。
そもそも、素早く事件を解決するには、ある程度目を付けるポイントを絞らなければならないが、このあたり、名探偵は不思議なほどはずれがない。異常なまでの嗅覚というか、勘としかいえないようなもので、的を絞り込んでいく。先に挙げたコナンなど、きっかけになるヒントが実に都合良く向こうの方から転がり込んでくる。これは無論、そのヒントを見逃さなかったコナンの能力の高さを証明するものではあるが、それだけでは説明がつかない。いくらなんでも運が良すぎるのである。子供の視点というのを考慮にいれたとしても、普通なら、そうそう都合良く重要な情報が飛び込んでくるはずがない。
また、「デスノート」に出てくる「
L」という世界一の探偵は、重要な部分は殆ど勘で物事を進めている。他にも容疑者は何人もいるにも関わらず、最初からたった一人に異様な確信をもって迫るのだ。普通に考えれば、その人物が犯人である可能性はたった5%で、明確なアリバイもある。なのに、そのアリバイの部分は都合良く無視し、彼に固執することをやめようとはしない。他のアリバイのない人間よりも、プロファイルで一番犯人に近いとされた彼の妹よりも、彼―夜神月が犯人であると確信しているのだ。他にも、同様の例は多々ある。そして、そのような勘を根拠に物事を進めているにも拘わらず、誤ることなく誰よりも真相に辿り着く、という不思議。異様なまでに当たる勘。これが、名探偵の正体である。
2005.3.26