人気投票と作品の質

 

 時々、テレビで、人気アニメ特集とかいうようなものが放映されている。事前の人気投票で、ある程度上位(大体百〜五十位以内)のものを紹介していく、という仕組みだ。しかし、私は以前から、このテの番組には大いに不満だった。

 まず。なぜ昔の番組ばかりなのか。たまに比較的最近の番組が入っていても、どういうわけか、黙殺される。そして。なぜ「ダイの大冒険」が入っていないのか!?…いや、この手の不満は、言い出したらキリがないのはわかっているが、番組Aや番組Bが取り上げられて、この名作が全く出てこない、というのは大いに不満だ。人気作品が必ずしもそれに見合った質を持っているとは限らない、ということは知っているつもりだが……。

 とりあえず、ここでは、こうした番組への不平不満をあれこれ述べるとともに、できれば人気と作品の質についても考えてみたい。

 そこで、まず、最初の不満。なぜ、取り上げられるのは昔の番組ばかりなのか。「現在放映中の作品ならいつでも簡単に見れる」「終了したばかりの作品なら、まだ記憶に新しいので、あえてここで取り上げる必要はない」ということで、「今となってはなかなか見れない、昔の懐かしい作品をこの場で見せよう」という趣旨ならば、まあ、それはわからないでもない。

 だが、この手の番組で放映されるのは、毎回同じような作品の、同じような場面。毎回それでは、懐かしがってる人でもさすがに飽きてくるだろうし、それを見たこともない人間にとってはなおさらだ。たまには違う作品を見せてくれ、と思わずにはいられない。こうも毎回取り上げられれば、それはもう、「なかなか見れない作品」ではない。

 また、取り上げられるのが、私よりも一回りか二回り上の世代のものに限られる、というのもひっかかる。例えば、「ダイの大冒険」など、放映が終了してもう十年以上たっているのだから、「なかなか見れない昔の懐かしい作品」として放映してくれてもよさそうなものなのに、そうはならない。この手の番組の定番である「世界名作劇場」などの番組に関しても、取り上げられるのは、せいぜい「小公女セーラ」までで、その後の「あしながおじさん」などは影も形も出てこない。合言葉が有名な「三銃士」も出てこない。そのくせ、現在放映中の「ドラえもん」は必ず出てくる。

 「放映時期に関わらず、投票順位で決めている」というのならそれはそれで納得できるが、そうでないことは確かだ。なにしろ、それほど順位の高くない昔の作品(「○○マン」など)はちゃんと放映する一方で、それよりもずっと上位に「ヒカルの碁」「スラムダンク」などが入っていても名前しか出されず黙殺されるのだから。もし「懐かしい作品」を趣旨としているのであれば、それは、視聴者の年代を「40歳以上、8歳以下」などというふうに区切っているとしか思えない。

 そもそも、人気投票において最近の作品は不利なのだ。昔はアニメの数が少なかったため、それだけ一つ一つの作品が印象に残っただろうし、選ぶ対象が少ないから、投票においてそれほど票が割れることもないだろう。だが、今は、とても全ては見れないほど多数の作品が放映されており、ある程度以上の作品でなければ印象には残らない。そして、人気投票をした場合、票が割れて昔の作品よりも不利になることは容易に想像できる。つまり、昔の作品は、そこに存在していたというだけで、あまり他作品と競争することなくその当時の人々の記憶に残り、人気投票の上位に入ることができるが、最近の作品は、それをするのに過酷な競争をくぐり抜ける必要があるということだ。そんな中、上位に入った最近の作品は、それだけのものを持っているだろうし、想像以上の支持を受けていると考えられる。なのに、そんな作品は、黙殺されるのである。これは、どうあっても納得いかない。

 また、出演者も不満だ。こうした番組では、アニメの合間にタレントのトークが挟まっていたりするものだが、これが、はっきり言って、邪魔以外の何物でもない。そんな時間があるなら、少しでも多くのアニメ映像を見せて欲しい、とついつい思ってしまう。出演者達が、何か実のあることを喋ってくれているのならいいが、誰も彼もが「いやぁ、懐かしいですねえ」「昔はよかった…」などと、毒にも薬にもならないありきたりなことを口々に言うばかり。確かに、あまり濃い話をされても、その作品を知らない人にとってはついていきにくいものがあるかもしれないが、もうちょっと……なんというか、内容のある話をしてほしい。それができないのなら、このような部分はすっぱり削ってほしいものだ。

 ……こうして、長々とこうした番組への不満を述べてきたが、それだけでは何なので、人気と作品の質の話にうつりたいと思う。

 私はこのサイトで様々な作品の評価をしたりもしているが、そうしてみると、必ずしも人気と作品の質が一致していないことに気付く。作品Aと作品Bでは作品Aの方が全体の評価は高いのだが、人気は作品Bの方がある、(きちんと評価してみたわけではないが)作品Cはそれほど優れた作品とも思えないのに、なぜか人気があるらしい、などなど。

 これに関しては、色々と未熟な点が多くても、どれか一つに他を圧するものがあればそれで勢いがついて自然と人気が出る、というのが、まず、一つの理由だろう。よくまとまっている方が「質の高い作品」ということになるが、まとまりすぎてしまうと、かえって勢いが殺がれてしまうため、こういうことも起こり得る。

 また、「人気の種類」というものもある。例えば、人気投票でも、「どれにしようか…まあ、これでいいや」と適当に入れた一票と、「この名作に是非!ああ、一票では足りない!何票も投票したい!」という人間の入れた一票では違ってくるだろう。そして、前者が投票するのは、たいてい知名度が高く、軽い気持ちで見れる話で幅広い年齢層に受け入れられる作品―ということになる。深く重い話は、やはり見る方にも相応のものを要求するためか、なかなか「幅広く」とはいかないらしい。ここらへんが、人気投票で差が出る理由だろう。

 また、ファンの中にも「長く愛するファン」と「周りにつられたファン」がいることと思う。そして、例えば「十年ぐらい長く愛し続けるファン」が多数いる作品が名作と呼ばれる。そして、「周りにつられたファン」がいるのは人気のある証拠である。ファンがファンを呼ぶことで、人気はどんどん膨れあがっていく。ここで恐らく、新たなファンを呼びやすい作品と呼びにくい作品があるのだろうと思う。例えば緻密な設定がなされた作品は、質が高いと評価されるが、設定が複雑になるぶん、敷居が高くなるのかもしれない。だが、人気は高ければいいというものでもないと思う。これが「ブーム」となると、人気はかなりのものになるが、ブームが終わるとその作品もきれいさっぱり忘れ去られる、ということが往々にしてある。人気が出すぎたぶん、その反動も大きくなってしまうのだろうか。その一方で、ブームになったことはないが、長く愛され続ける作品もある。それを思えば、人気が出すぎることは、必ずしもいい結果をもたらすものではないとも言える。……だが、それでも「名作」と認めた作品が人気投票でちっとも見かけないのは非常に悲しいものがある。

 

 

2004.1.30

 

 

 

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