私のサンタクロース

 

 クリスマスは、一年で一番楽しみな日だった。

 なんと言っても、そう―――サンタクロースが来るのだ!

 靴下を準備し手紙を書き、わくわくしながら床につく。

 夜中に一人目を覚まし、いつの間にか出現していたプレゼントをそっと撫で、包装紙の手触りを確認する。

 そして翌朝、澄み切った空気の中で、胸躍らせながら包みを開ける――――――。

 どれも私を興奮させてやまない。それは、もっとも幸福に包まれた一日だった。

 もっとも、このような一夜を過ごすことができたのは、10歳までである。それというのも、夢のない私の両親が、「十歳にもなってサンタクロースを信じているようではいけない」と言い放ち、正体をバラしたからである。厳しいというかなんというか……。

 そんなわけで、かなりのダメージを受けた私はしばらくふてくされていたのだが、その衝撃の事実発覚から約一年後、私はそれを乗り越えることができた。一瞬の閃きが、私をある素晴らしい考えへと導いたのだ。今思うと、それもサンタクロースからのプレゼント(メッセージ)だったのかもしれない……。

 ―――きっかけは、一冊の本だった。…と、こう書くと、何やらごたいそうな本が出てくるように思えるかもしれないが、その本とは「あさりちゃん」である。―期待を裏切って申し訳ないが。

 暇だったので、なんとなく読んでいたのだが、その中に、サンタクロースが出てくる話があった。あらすじは、次のような感じだ。

「まだ幼稚園にあがる前の、幼いあさり。姉のタタミが幼稚園に行くのが羨ましくてたまらず、毎日のように指をくわえて楽しそうなタタミを見送っていた。

 そんなある日―クリスマスの少し前に、小さなサンタクロースが現れ、あさりに向かって、何か欲しいものはないかと聞く。大きなぬいぐるみがほしい、と答えるあさりに対し、サンタは『モノは、パパサンタかママサンタに買ってもらいなさい。モノでないものだよ』と答える。そこで、あさりは日頃からの望みー幼稚園に行きたい!と言う。

 こうして、『明日の朝起きたら、身体が小さくなっているから、お姉さんのカバンにもぐりこんで幼稚園に行きなさい』ということになった。しかし、いざ実行してみると、カバンの中から出られずに、あさりはちっとも遊ぶことができない。外ではタタミ達が楽しそうに遊んでいるというのにー。なんとかカバンからはい出したものの、タタミには虫と間違われ、つぶされる始末。

 散々な目にあったあさりは、帰ってからサンタをぼこぼこにし、これに懲りたサンタは、引退を決意するのだったー」

 …この話のどこが「素晴らしい考え」と関係あるのか、と疑問にお思いの方もいるだろう。実は、私も不思議なのだが…それは、ほかでもない、この話のサンタクロースが口にした

「モノは、パパサンタかママサンタに買ってもらいなさい。モノでないものだよ」

というセリフにあった。一見なんでもないこのセリフから、私はふと思ったのだ。ひょっとすると、本当のサンタクロースというのは、目に見えないものをプレゼントしてくれる存在ではなかろうか、と。

 その場合、私がサンタクロースからもらっていた目に見えないものとはなんだろう?

 ……ここまで考えて、思った。それは他でもない、「サンタクロースが来る!」と信じることによる、あのワクワクした気持ちではなかったのか、と。

 そうすると、サンタクロースは、私の心の中にいたことになる。

 サンタクロースを信じていた時―それはまぎれもなく確固たる存在として私の中にあり、様々な喜びをもたらしてくれたものだ。

 それにしても、このサンタクロースという存在―いつから私の中にいたのだろう?

 はっきりとは覚えていないが、大人から、「クリスマス・イブの夜にはサンタさんが来るよ」と初めて聞かされた時から、それはいたのだろう。

 この不思議な存在を私にくれたのは、大人達だった。

 ……たぶんこうやって、サンタクロースはずっと伝えられていくのだろう。

 いつの時代も、大人は子供に言う。

 ―サンタクロースが来るよ!

と。そして、それを聞いた子供が大人になったら、また……。

 こうしてサンタクロースはずっと、人の心の中に住み続ける。

 ……そう、サンタクロースは確かに存在する。

 私の中のサンタクロースもまた、いなくなったわけではない。

 それまでは、イブの夜にプレゼントが届けられることを思い、わくわくする気持ちをもらった。これからは、そうやって私にサンタクロースをくれた人に、プレゼントを贈ることでーそしていつか誰かにサンタクロースを贈ることで、その気持ちを得ることができるだろう。

 これからも、サンタクロースは毎年、素晴らしい贈り物をー胸躍るこの気持ちをー運んできてくれるはずだ。

 私がサンタクロースを信じている限り、サンタクロースはずっと私の心の中に存在し続ける。

 ……そう、サンタクロースはいるのだ。

 私の中に、人の心の中に。

 今までも、そしてこれからも。

 ずっと昔から、遙かな未来へと、受け継がれていくサンタクロース……。

 ……その考えは、私をとても感動させた。広大な世界と悠大な時の流れ……そしてその中に連綿と続く想いを感じ、何かすごく大きくて温かいものに包まれた…そんな気分になった。

 すぐさまその考えを誰かに伝えたくてたまらなかったのだが、あいにくもともと口ベタな私、こんなややこしい話を到底口で説明できる自信がなかった。そんなわけで、この話を初めて人に伝えることができたのは、高校生になり、文芸部に入ってからである(注:中学校には文芸部がなかった)。その時は、簡単な小説形式で出して(来年あたりにでもアップする予定)、幸いうまく伝えられたようなのだが……やはり、より多くの人に伝えたい!!という思いは依然としてある。インターネットという手段を得ることができたのは、非常に幸運だった。

 どれだけの人がこのページを見て下さるかわからないが、一人でも多くの人に見てもらえれば……そして、もし、サンタクロースを伝えることができたなら、望外の喜びである。

 ……世界中のすべての人達に、メリークリスマス。

 

 

2003.12.24

 

 

戻る

 

 

追記

 

 …それにしてもこの話は、人間その気になれば、いくらでも文中から本来の趣旨とはかけ離れた内容を読みとれてしまうものだ、ということの好例かもしれない。そのような例はたくさん見受けられ、中には、それが本来の趣旨とかけ離れていることに本気で気付いていないのではないかと思えるものもある。そこまでいくと、ちょっと危ない気もするが、承知した上でのことなら、わざと本来の趣旨から外れた読み方をしてみるのも、意外な発見ができていいかもしれない(まあ、内容によっては、確信犯でもシャレにならない場合が多かったりするが……)。こういうのもなかなか楽しいものだ。

 

 

 

 

inserted by FC2 system