特効薬

 

 さて、今回は薬の話である。

 日頃もっともお世話になっている薬といえば、鎮痛剤。

 私が愛用しているのは、「ジュエルカプセル リングルアイビー」というのだが、これの即効性は素晴らしい。

 これに出会うまでは、バファリンを使うことが多かったのだが、ある日、頭痛が発生した時に、たまたま家にバファリンがなく、たまたま家にあったこの薬を飲むこととなったのだが……効果は劇的だった。まさに、こういうのを劇的というのだろう。ずっとガンガンしていたのが、ものの5分足らずですぅっと消えていったのだ。とても信じられないだろうが、事実である。その時は、奇跡を信じてもいい気分にまでなったものだった。

 さすがに今では、免疫ができてきたのか、そこまでの劇的な効果は望めないが、それでも20〜30分で効く。確かバファリンでは、効くまでに90分以上(ずいぶん前のことなのでよく覚えていない)を要し眠気を催すので、寝て起きたら治っている、という感覚だったが、大違いである。奇跡的な即効性があり、そして眠くもならないのだ。

 そんな素晴らしい「リングルアイビー」だが、私がこれの存在を知った当時は、探すのに苦労した。大手ドラッグストアのチェーン店などにはまず置いていない。店員さんに聞いてみても、その存在すら知らないことが多い。それが薬剤師であっても、だ。駅やスーパーなどに入っている薬局などでも同様である。かえって、大通りなどからは少し外れたところにひっそりと佇む小さな薬局で手に入ることが多かった。こういう所の方が勉強熱心なのだろうか?

 幸い、今では大体どの薬屋でも手にはいるようになっていて、嬉しい限りである。全く宣伝などされていなくても、いいものは自然と広まっていくものらしい。

 あと、かつてはよく使っていたが、今は殆ど服用していない薬として、酔い止めが挙げられる。

 昔は車酔いがひどくて、乗って酔わない時はなかった。吐くことも日常茶飯事。今では吐くようなことはないものの、ドライブなどは決して楽しいものではない。船は平気なのだが。

 そんなわけで、よく酔い止めを服用していたのだが、それでも相変わらず酔っていた。実は、飲んでから効果が現れるまでに約5時間を要することに気付いたのは、長旅をしたある小学生の日のこと。それまでは、「酔い止めが効いて車酔いをしない」という状態がどんなものがわからなかったために、酔い止めが効いていないこともわからないまま飲んでいたのだ。

 ―車に乗っても気分が悪くならず、だるくもならない。外にいる時と、全く同じ状態でいるー

 それは、非常に不思議な経験だった。これが車酔いをしないということなのか。不思議すぎて、ちょっと現実感がない。一体どうしたことだろう……ひょっとして、朝飲んだ、あの酔い止め?

 その後機会があるたびに、色々と調べてみた結果、「酔い止めの効果が現れるまで約5時間」というのにほぼ確信を持った。

 物心ついた頃から飲んでいて、なぜその事実になかなか気付かなかったか、というのもよくわかる。普通、長時間車に乗るときというのは、片道1〜2時間、目的地は主に山で、一時間あまりをそこですごす。つまり、大抵の場合、「飲んでから5時間」たつころには「お出かけ」を終えて家に帰っており、酔い止めの恩恵にあずかる機会に恵まれなかったのだ。

 もっとも、この事実に気付いても、出かける時は、当然「渋滞を避けるため、なるべく朝早く」ということになり、「車に乗る5時間前に飲む」ということが困難であるため、相変わらず酔い止めの恩恵にあずかれる機会は少なかったのだが……。

 それに、効いたとしても、それが自分の望む形で効いてくれるとは限らないのだ。その最たる例に、中学の修学旅行がある。その時は、一日中バスに乗っているようなものだったから、当然「5時間後」でもその恩恵にあずかれるはずだった。確かにそれは事実。しかし、この時は選択した酔い止めが悪かったのか……効き過ぎた。猛烈な眠気が襲ってきたのだ。……確かに眠ってしまえば、その間は酔うことはない。だから、「酔い止め」としての役割はちゃんと果たしているといえるのだが……おかげで、途中立ち寄った法隆寺などでも夢見心地で、殆ど記憶に残っていない。これはこれで、困りものである。

 それにしても、私は普通よりも、薬を飲んでから効果が現れるまでに要する時間が、人よりも長いようだ。よく酔い止めの説明書には、「乗り物に乗る30分前に服用」などと書いてあり、「直前に飲んだ時と効果は変わらないのに、なぜそのように書いてあるのだろう?」と不思議だったのだが、「効果は飲んで5時間後」というのに気付いてはじめて、「普通の人は、飲んで30分後に効くんじゃないか?」と思い至ったわけである。そういえばバファリンも、人と比べて効くまでの時間が長かったような……。

 しかし、その代わりと言ってはなんだが、私は、大体どの薬もよく効く。むろん、麻酔もちゃんと効く。一方、母は珍しいほど麻酔の効かない体質なので、それを受け継がなくてつくづくよかったと、歯医者に行くたびに思う。

 最後に、「昔はよく飲んでいたが、今はもう飲まなくなった薬」をいくつか紹介しておこう。

 子供の頃は、よく風邪をひいたりなどして病院に行っていたわけだが、その時もらう薬は主に「オレンジの粉薬」「黄色い粉薬」「白い粉薬」の三種類。

 「オレンジの粉薬」は「抗生物質」と呼ばれるもので、苦くてあまりおいしくなかった。しかし、病院に行くと、必ずこれがついてくる。一番まずいものが常連というのは、あまり有り難くない。

 「黄色い粉薬」は確か吐き気止めだったと思う。毎回もらえるわけではないが、味はそこそこ。

 そして、「白い粉薬」。なかなか甘くておいしいのだが、滅多にもらうことができなかった。用途はよく覚えていないのだが、いつも、この薬を飲むのが楽しみだったことは覚えている。しかるに、病院でもらうのは、大抵の場合、あまりおいしくない「抗生物質」。世の中、ままならぬものだ。

 あと、粉薬以外では、熱が38度五分以上まで上がった時に飲む飲み薬があった。冷蔵庫に入っており、やや甘味を帯びたその味も、なかなか悪くなかった。

 しかし、「頭痛薬」「酔い止め」「解熱剤」「吐き気止め」といった言葉が並ぶ我が家の辞書の中、「抗生物質」だけが何故か浮いている。別に大したことではないのだが、ささやかな疑問ではある……。

 

 

2003.12.9

 

 

 

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