翻訳本に思う

 

昔から、本を読むのが好きだった。手当たりしだいにそこらへん

の本を読み、小学校の小さい図書館に置いてある本のうち、「小説」

に分類されるものは、低学年のうちに、その殆どを読み尽くした…

…と、思う。私の好みや図書館においてある本などから考えると、

中学校に入るまでは、それまで読んだ本のうち、日本人以外の手に

よる著作の方が、日本人作家の手によるものよりも多かったと思う。

しかしこれは、中学校に入学してから一変する。中学校には小学

校にはなかった文庫本がそれなりに揃えてあり、しかもその大半が、

現代日本人作家の手によるもの……舞台が現代日本で大人が主役、

という設定が、当時はなかなか新鮮だった。それで立場は逆転する

ことになる。今では、外国産の小説は、殆ど読まない。むろん、中

学校にも外国人作家の手になる小説(文庫)があり、それに興味が

わかなかったわけではない。やや黄ばんだ古い文庫本の群れ……

しかし、それに手を出して、私は痛い目にあったのだ。

……面白くない。意味不明。はっきり言って、教科書よりもつま

らない……。ストーリーもいまひとつ馴染めず……というか、あら

すじがどうこういう以前の問題で、そもそもの、そのあらすじを理

解するのに多大な労力を要求される。なんというか……そう、本一

冊が全てローマ字で書かれていたりしたら、こんな気分になるので

はないか、という感じである。少々偉そうな言い方をさせてもらえ

ば、「文章が死んでいる」のである。

これが一冊や二冊なら、運が悪かったとあきらめることもできよ

うが、次から次へと引いたくじがことごとくハズレでは、敬遠した

くもなろうというものである。

小学生の頃読んでいた外国の作品というのは、基本的に、子供に

読まれることを想定していたものだろうから、それなりに気をつか

っていたのだろうか、そこまで読者を苦しめるものはあまりなかっ

たように思う。しかし、今は……。

むろん、翻訳本のすべてがつまらないわけではない。「超訳」シリ

ーズでは、翻訳特有の不自然さもなく、普通にすらすら読めるし、

そのように銘打たれていなくても、「ホームアローン」や「ネバーエ

ンディングストーリー2章」は面白かったし感動もした。「ハリー・

ポッター」シリーズも、あちこちで取りざたされているように、そ

の訳は不自然さを感じさせず、文章が生き生きとしている。

「一応児童書に分類されているから、まあ、訳で大ハズレってこと

はないだろう」との読みが当たったわけである。

……どうも、「大ハズレ」の訳は、「正確な訳」を重視しすぎたた

めに、やたらまわりくどくなったり単調になったり……とにかく、

場の雰囲気を十分に伝えきれず、非常に読みにくくなっているよう

に思う。論文の訳ではないのだから、一語一語の細かい意味よりも、

もっと全体の流れを重視した方がいいように思うのだが……。

最近(といっても数年前になるが)の「大ハズレ」の例に、「トイ・ストーリー」がある。

数年前の映画「AI」の原作で、映画が結構面白かったから、原

作も読んでみたいと思って読んだのだが……これがまあ、大はずれ。

中学の時にいろいろと痛い目を見たため、長らく外国産の小説には

手を出していなかったのだが、それはそれで、喉元過ぎれば熱さを

忘れる効果があるらしい。

どうも、外国産の小説には、やたら情景描写がだらだらと無駄に

長く続いたり、主人公が何やら自分の世界に奥深くまで入り込んだ

あげく、現実と夢の境界が朧になって何だかよくわからないまま終

了、というような意味不明の話がわりと多いような気がするのだ

が……今回は、それの集合体であった。

まあ、ストーリーに関しては、前者は文章が死んでいるため内容

を把握するのに余分な労力を必要とし、また流し読みもしにくいた

め、日本産の場合よりもそう考えられるだけかもしれないし、後者

についても、訳が十分に内容を伝えきれておらず、わからないだけ

かもしれない。実際、短編の中には、「実はこれは全部ジョークで、

最後のセリフが何かのオチになっているのだろう」とまではわかる

ものの、内容はさっぱり意味不明、というものもあった。相手の動

作や表情から、何か冗談を言ったらしいことはわかっても、何を言

ったのかさっぱりわからない、というのと似ている。

だから、必ずしも外国人作家の作品がつまらないと決まったわけ

ではなく、翻訳者によっては面白い……のかもしれないが。とりあ

えず、「トイ・ストーリー」の帯には、米国ではそれなりに人気のあ

る作家であるようなことが書いてあった。

しかし……どんなにその国で面白くても、「翻訳」を通す以上、目

の前にあるそれが、面白いとは限らない。

だから、どんなに絶賛されていても、なかなか「指輪物語」には

手を出せないでいる。ファンタジーの原点とまで言われた作品に興

味はあるのだが……。

 

 

2003.12.1

 

 

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