フィギュアスケートの楽しみ方

 

 

 このコラムを書くのも、随分久しぶりになる。

 さて、いつの間にか季節は冬。そして、冬と言えば、私が唯一注目しているスポーツ、フィギュアスケートの季節だ。
 そこで今回は、このフィギュアスケートの魅力について、私なりに語ってみたいと思う。

 フィギュアスケートは、何よりもまず、見ていて綺麗である。演技はもちろんのこと、衣装や舞台―一面の白い氷というのにも惹きつけられる。
 また、何もせずにスィーっと滑っている様も、何とも気持ちよさそうで(実際は苦しいのかもしれないが)、魅力的なのだ。
 小さい頃、廊下やスーパーのよく滑る床を利用して、滑って遊んでいたのを思い出す。

 フィギュアスケートには男子シングル、女子シングル、そして二種のアイスダンスがあるが、なぜかアイスダンスには興味がわかず、私が見るのはシングルだけである(エキシビションは全部見るが)。恐らく、シングルの方が広範囲を自由に滑っているというイメージと、独特の緊張感があるからだろう。

 シングルは、ショートとフリーの合計で採点され、上位の人は最終日のエキシビションに出ることができる。

 ショートは、いわば前哨戦。時間も限られ、最低限採り入れなければならない演技も決められているため、やや華やかさには欠けるが、そのぶん一つ一つの演技、緊張感が味わえる。とはいえ、やはりこう時間が短いと、特に上手な選手などの場合、「もう終わり!?」という気がして少々物足りない。
 配点はあまり高くはないが、1点に満たない差で勝敗が決することもあるし、ここで勝てばフリーへの勢いにもつながるため、気は抜けない。
 ただ、どうも私の見たところ、「ショートでトップに立った選手は、高確率でフリーで失敗する」というジンクスが働いているように思えるのだが…。

 ショートの翌日は、本番のフリー。時間も長く、様々な演技を見ることができ、存分に楽しめる。配点もショートの二倍近くあり、たとえショートが悪くても、ここで上手く滑れれば十分に逆転のチャンスがあるため、独特の緊張感もあり、言うことなしである。
 後述のエヴィアン・ライサチェクは、トリノ五輪で、ショートが10位だったにも拘わらず、フリーで完璧な演技を見せて、総合4位にまで急浮上した。
 いわゆる「会心の演技」を見ることができるのも、このフリーに多い。
 私がフィギュアスケートの中で一番好きなのは、このフリーの演技である。

 そして、最終日のエキシビション。これが一番楽しみだ、という人も多い。
 これは採点されず、小道具やボーカル曲の使用も認められているため、自由に滑ることができ、一風変わった面白い演技を見ることができる。椅子やボールを持ち込んだり、宙返りをしてみせたり。衣装や照明も華やかで、後夜祭という言葉がぴったり当てはまる。
 フィギュアスケートは芸術という側面も持つが、規定のないエキシビションでは、まさに芸術という名にふさわしい演技に出会える時がある。衣装等を使った独特の表現や、生演奏での演技もその一つ。テレビを通してだと、生演奏のありがたみというのはさほどでもないのだが、それでもあの雰囲気には呑まれてしまう。
 先のグランプリシリーズフランス大会では、優勝した地元フランス選手、ブライアン・ジュビエールのエキシビションで、楽団の生演奏に、本場のテノール歌手などまで現れて、なんとも派手な演出になっていた。こういうことがあるから、エキシビションも見逃せない。

 さて、大雑把な説明が終わったところで、男子シングルと女子シングルについて、更に詳しく述べていこう。

 まずは男子。男子は、女子に比べると華やかさに欠けるせいか、テレビでもあまり放送されないなどの憂き目に遭っているが、男子には、女子とはまた違った良さがあり、私にとっては一番の注目どころ。
 確かに男子は、女子に比べれば地味かもしれないが、そのぶん力強さ・鋭さがある。ズボンの裾のはためきから、疾走感も感じられて気分がいいし、技にキレが感じられる。

 男子で好きな技は、主に四回転ジャンプ、スピン、ステップ。何もしないで滑っているところもいい。
 四回転ジャンプは、現在の男子フィギュアで上位に入るためには必須と言われており、失敗する人も多いが、決まれば大きい。大技の一つであり、フィギュアの華。ジャンプが次々に決まると、実に爽快。

 スピンは、手足が長く、回転も速いと見応えがある。私の好きなフライングスピンは入る時に足をもつれさせはしないかと心配になる態勢だが、幸いこれで失敗する人はあまりいない。

 ステップは、上手な人だととにかくキレがあり、音楽ともよく調和しーついつい画面に引き込まれる。客席から手拍子が起きることも多い。

 そして、片足でスィーッと滑っていくーリングを弧を描いて大きく滑る様は、見ていて非常に気持ちがいい。

 さて、ここで、主立った男子フィギュアスケート選手について、私なりに少々紹介してみたい。

 

エフゲニー・プルシェンコ

ロシア

成績

トリノ五輪で金メダルを獲得したのをはじめ、世界選手権やグランプリファイナルなどで、何度も優勝している。

王者の称号で呼ばれており、男子フィギュアの中にあって、別格の存在。全てにおいて優れており、他の追随を許さない。
難易度の高い四回転ジャンプにしても、失敗する姿を見せることなく、ごく簡単に跳んでしまう。普通なら、四回転ジャンプの前には「跳ぶぞ、跳ぶぞ…」といった気合いが伝わってきて、ドキドキさせられるのだが、プルシェンコはごく自然に跳んでしまい、「大技を繰り出した」という雰囲気を少しも感じさせない。
このことからも、彼が並はずれた存在である事がわかるだろう。それは、点数を見れば一目瞭然。余裕で他を圧する高得点を叩きだしており、今のところ、敵なしである。

ステファン・ランビエール

スイス

成績

トリノ五輪で銀メダルを獲得したほか、世界選手権などでも何度か優勝している。

現在、恐らく実質的に世界第二位の選手。スピンが得意で、その回転速度には目を瞠るものがある。
もっとも、トリノ五輪での彼の印象は、「ジャンプと根性の人」だった。とにかくフリーにやたら多くのジャンプを組み込み、そしてよく転んでいた(もちろん、同じだけ多く成功もしていたが)。選手の中には、一度転ぶとその後全部失敗してしまう人もいるのだが、ランビエールは一度ならず失敗したにも拘わらず、挫けず他の演技を成功させていたあたり、流石トップクラスの選手だと思う。

ジェフリー・バトル

カナダ

成績

トリノ五輪で銅メダルを獲得した他、世界選手権でも銀メダルをとったことがある。

「貴公子」という言葉がぴったり。美しいスケート技術に定評がある。ただ、四回転ジャンプでよく失敗しているようなのが弱点か。
とにかく綺麗に滑るので、注目しているのだが…やはり好不調の波というものがあるのか、成績が振るわない時もある。そしてテレビは、男子フィギュアは上位の選手しか映してくれない時があるため、せっかくジェフリー・バトルが出ている大会なのに、その演技がカットされる、という悲しい事態が生じることも……。「日本でも人気のある選手」と紹介されているのだし、ちゃんと映してくれてもいいのではないか、と思うのだが。

ブライアン・ジュビエール

フランス

成績

トリノ五輪で六位に入賞した他、世界選手権でも何度か銀メダルを獲得している。

四回転が得意で、ショートにも四回転を入れる珍しい選手。マスコミからは、四回転サイボーグ、などと呼ばれている。
007をモチーフにした演技をしたりなど、一風変わったスタイルで、あまり笑わない。

エヴィアン・ライサチェク

アメリカ

成績

トリノ五輪で4位に入賞した他、世界選手権でも何度か銅メダルを獲得している。

世界選手権で織田信成と競い、僅差で勝利したことから、マスコミから「織田のライバル」と言われるようになった。
「長い手足を生かした演技が見応えがある」と、どの大会、どの大会でも決まって言われており、実際その通り。スピンなど、見応えがある。また、衣装は黒一色で、フリーの時だけそれに赤いスカーフ(?)という、なかなかお洒落な人である。

そして、「ショートでは今ひとつだが、フリーは成功、大逆転」という、ドラマチックなジンクスを持っている。
ことの起こりは、やはりトリノ五輪。ショートでは失敗し10位だったのが、フリーでは会心の演技。まるで何かが憑いてでもいるかのように、繰り出す技のことごとくを見事に成功させ、大喝采を浴びた。単にノーミス、というのではない。喩えるなら、ピアノを弾いていて、自分でも信じられないぐらい上手く弾けた時―実力以上の力を出せたと感じた時―あの感触。そういう雰囲気は、どうやら見ている側にも伝わるものらしい。この時の印象が強烈だったので、それからもなんとなく応援している。

ジョニー・ウィアー

アメリカ

成績

トリノ五輪で5位に入賞した他、全米選手権で何度も優勝している。

男子にしてはやたらと華奢な体つき。演技にクラシックバレエの要素を採り入れている、というのも頷ける。
トリノ五輪
SPの「白鳥の湖」が、あまりにもよくはまっていたので、私はそれ以後秘かに「白鳥の人」と呼んでいる。

高橋大輔

日本

成績

トリノ五輪日本代表で八位に。NHK杯や全日本選手権で優勝したり、GPファイナルで銀を獲得したことも。

 美しいスケート技術とステップが持ち味。広いリンクを颯爽と滑り、見所のステップは、曲と見事に調和して、見応えがある。
 ただ、その実力を出し切れないことが多い、というのが惜しまれる。ある意味、一番ハラハラさせられる選手かもしれない。
 おまけに、高橋はどうも運が悪いらしい。トリノ五輪の滑走順は、よりによって最初と最後を引き当てる始末。金メダルを取れたかもしれない
GPファイナルで、ひどく体調を崩してしまったことも。(その状態で二位になったのだからすごいが…)靴もよく壊れるらしい。

 不運と言えば、マスコミから、「情熱のステップ王子」という、リナ=インバースが聞いたら爆笑するような称号が授けられているのも不運と言えるかもしれない。もう少しいい称号はなかったのだろうか……。

織田信成

日本

成績

世界選手権四位、グランプリファイナル3位等。

邦楽風やジャズ風の曲を使用するなど、一風変わったスタイル。エキシビションでも色々と面白い事をする。得意技はスピンとジャンプ。
あの「織田信長の子孫」というので有名。そのせいか、本番に強く、失敗する事が少ない。大体いつも、自己ベストかそれに近い点を出してくるので、安定感がある。

日本人選手について

日本を代表する高橋・織田の両選手だが、そのタイプは全く違う。高橋は正統派の美しいスケート、織田は個性的なユニークなスケート。
実力はほぼ拮抗しているが、私の見たところ、高橋の方が少しだけ上回っているのではないかと思う。滑り方や技の一つ一つが綺麗だし、表現力も豊か。両者共に素晴らしい演技をし、自己ベストを大幅に更新した
2006 NHK杯でも、僅差で高橋が勝利した。ただ、問題は、その安定度。高橋は、失敗してしまうことも多いが、織田は毎回ほぼ自己ベストか、それに近い演技をし、失敗することは少ない。

どちらを応援するかは、それぞれの好みだが、個人的には高橋を応援している。やはり滑り方が綺麗だし、見ていて引き込まれるのは、高橋の方だ。
ついでに言うなら、結果が良くても悪くても、常に冷静に自分の演技を振り返り反省しているところや、努力家なのに不運、というイメージなども、高橋を応援したくなる理由の一つである。

 あと、この二人に続く人物としては、小塚崇彦が挙げられる。シニアに上がって間もないが、(外国の有力選手が出場していなかったという事情はあるにせよ)いきなりNHK杯で3位に入賞し、これからもまだまだ伸びていきそうな雰囲気を漂わせている。

 

 男子フィギュアでは、とにかくプルシェンコが飛び抜けており、その下はわりと実力伯仲、団子状態である。
 一応二番目の位置にいるのはランビエールだが、プルシェンコにはまだ及ばない様子だし、調子を崩せば他の選手にとって替わられる可能性もある。
 さらにその下になると、実力の拮抗した選手がひしめきあっており、本当に、わずかな差しかない。順位を予測するのが難しく、そこがまた面白いところでもある。

 さて、次は女子について。華やかなイメージで、テレビでも結構大きく取り上げられている。衣装ひとつとっても、バラエティに富み、絢爛豪華。柔らかく綺麗な演技が、見ている者を惹きつける。
 また、いかなる時も笑みを絶やさないのも女子の特徴か。男子は失敗した時、わりと顔に出てしまう人が多いような気がする。

 女子で好きな技は、なんといってもスパイラルシークエンス。フライングスピンなども捨てがたい。

 スパイラルシークエンスは、片足を上げ、そのまま弧を描いてサーッと滑走している様が美しく、見ていて実に気持ちよさそうだ(実際は苦しいらしいが)。

 スピンは、衣装の華やかさとも相まって、これまた美しい。オルゴール人形のようだと感じる時もある。村主選手のような高速スピンも、見応えがある。

 次いで、男子と同じく、ここで女子の主立った選手についても、私なりに少々紹介してみたい。

 

イリーナ・スルツカヤ

ロシア

成績

ソルトレーク五輪で銀、トリノ五輪で銅メダルを獲得した他、世界選手権やグランプリファイナルで何度も優勝している。

誰もが認めるトップクラスの選手。女王の名がよく似合う。

サーシャ・コーエン

アメリカ

成績

トリノ五輪で銀メダルを獲得し、世界選手権で準優勝したことも。

実力はあるのに、よく二位にとどまってしまうことから、「シルバー・コレクター」という称号を授けられている…らしい。
「ショートで成功、フリーで失敗」というジンクスがよく適用されているような気がする。

キミー・マイズナー

アメリカ

成績

トリノ五輪6位、世界選手権優勝など

背が高く、スピンなど見応えがある。ジャンプも得意らしい。トリノ五輪後間もなく開かれた世界選手権、フリーでは何かに憑かれたかのように絶好調で、見事優勝を獲得した。
#全く関係ないが、彼女を見ていると、スケート場はさぞ寒いのだろうなあと思う。(鼻の頭や指先が赤くなっているのがわかるのだ)

エミリー・ヒューズ

アメリカ

成績

トリノ五輪7位など

ソルトレーク五輪金メダリスト、サラ・ヒューズの妹。そのことから、マスコミからは、「金メダル遺伝子」などという、内容的にもネーミングセンスからも問題のある、まるでミルガズィアさんのギャグのような称号が贈られている。

キム・ヨナ

韓国

成績

グランプリファイナル優勝など

浅田真央と同じ年齢のため、そのライバルとして有名。「可憐」なイメージの浅田真央に対し、「妖艶」と評される大人っぽい演技をする点では対照的だが、繊細な演技で人を惹きつける、という点では共通している。

浅田真央

日本

成績

グランプリファイナル優勝など

ジュニアの時からシニアに混じってGPファイナルで優勝するなどし、「天才少女」「ミラクル・マオ」などと呼ばれる。可憐で繊細な演技が人を惹きつけ、得意とするジャンプは、田中芳樹風に言うなら、「体重のないもののように」ふわりと可憐に、優雅に跳んでみせる。スピンやスパイラルも美しく、まるで人形のよう。

安藤美姫

日本

成績

トリノ五輪15位、世界選手権6位、GPファイナル4位など

女子で史上初の四回転ジャンプを成功させたことで有名。ステップなどにも力を入れている模様。浅田真央とはまた違い、堂々とした雰囲気を感じさせる演技。

村主章枝

日本

成績

トリノ五輪5位に入賞し、世界選手権で何度も銅メダルや銀メダルを獲得している。GPファイナルで優勝したことも。

豊かな表現力と高速スピンが持ち味。一種独特の演技をする。また、失敗する事が比較的少ないような気がする。

日本人選手について

日本を代表とする三人の選手だが、そのタイプは皆異なり、男子と同じく、誰を応援するかはそれぞれの好みによる。ちなみに私が応援するのは浅田真央。あの可憐で柔らかな雰囲気の演技に引き込まれてしまうのだ。もっとも、今成長期にある浅田真央が、今後もそれを維持してくれるのかはわからないが……だからこそ、余計に惹きつけられるのかもしれない。

他に、今後が期待される選手としては、中野友加里などがいるが、まだこの三人には及ばない様子。

 

 ソルトレーク五輪で金をとったサラ・ヒューズ、トリノ五輪で金をとった荒川静香などが抜けたかわりに、浅田真央、キム・ヨナなどが台頭してきて、人材には事欠かない。男子におけるプルシェンコのように圧倒的な存在がいないため、今後どうなるかわからないー次のオリンピックが今から楽しみである。

 フィギュアスケートではどういうわけか、一人転ぶと、それにつられるかのように続く選手が次々と転んだりするーということが起こる一方で、大会によってはほぼ全員がベストの演技をする、というような片寄りが見られる。このような不思議な法則(?)が散見されるのも面白いところだ。

 あと、スケート場の違いを比べてみるのも面白い。
 基本的にはどこも似たようなものだが、アメリカのように、マイクが仕掛けてあり、滑る時の音がこちらにもよく響くようになっている所や、フランスのように、壁面も氷も青く見えるところもある。特にフランスでは、広告の色も、全て「青地に白」と統一されており、美しい。流石フランスといったところか。エキシビションの時の照明も種類が豊富で、実に見応えがあった(選手は滑りにくかったかもしれないが)。

 他にも、演技の後、どんな花束やぬいぐるみが投げ入れられているのかに注目してみるなど、色々な楽しみ方ができる。

 そして、フィギュアスケートの楽しみを知れば、冬がこれまでよりも楽しくなること請け合いである。

 

 

 

2006.12.20

 

 

 

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