本当の願い?

 

 

 王妃が亡くなったあと、二年も喪に服しているアスカンタ。

 そんな王の身を案じるけなげな少女・キラに頼まれ、ディーノ達一行は、願いの丘に登った。

 そこは、アスカンタに古くから伝わる場所で、満月の晩にそこに登ると、月の世界への扉が開き、そこに住む不思議な人が、ただ一度だけ、どんな願いでも叶えてくれるのだという。

 もちろん、一行は半信半疑。

 そんなのは、ただのおとぎ話で、ただキラを納得させるためだけに登ったのだが、なんと本当に月影の窓が開いたから驚いた。

 扉の向こうは摩訶不思議な世界で、不思議な人が住んでいた。

「私はイシュマウリ。月の光のもとに生きる者。

 私の世界へようこそ お客人。」

 不思議な人は言った。

「月影の窓が、人の子に叶えられる願いは、生涯で一度きり。

 さて いかなる願いが 君達をここに導いたのか?

 さあ 話してごらん」

 しばらく茫然自失していた一行だったが、真っ先に問いかけに答えたのはゼシカだった。

「私の願いは、サーベルト兄さんを生き返らせる事。

 それが無理なら、今すぐドルマゲスをこの場に引き出して。

 そしたら私がこの手で息の根をとめてやるから!」

「…残念ながら、死んだ者を生き返らせることはできない。

 すると、ドルマゲスとやらと相対するのがそなたの願いか…。

 他の者も、それでいいか?」

 問われて、他の三人も我に返る。

「僕の願いは姫や王様…そしてトロデーンのみんなを救うこと。

 ドルマゲスを倒すことで呪いがとけるなら、ドルマゲス打倒ってことでもいいけど、どうせ願いを叶えてもらうんなら、単に相対するだけじゃなくて、いっそ今すぐドルマゲスを仕留めてもらうっていう方が簡単でいいと思うな」

「ダメよそんなの!やっぱりドルマゲスにはこの手でとどめを刺さないと!」

「でもそれじゃあ、勝てるかどうかわからないし、大変だし…。

 それなら僕は、トロデーンの呪いを解いてもらうのが第一の願いかな」

「ちょっとそれはズルいわよ!

 それに、アイツを放っておいたら、この後また何人もの人が殺されるかもしれない……。

 野放しにはしておけないわ!

 トロデーンの呪いだけといて自分だけめでたしめでたしなんて、認めないわ!!」

「それはまあ…確かにドルマゲスは放っておけないけど。

 だから、今すぐこの人にドルマゲスを殺してもらえば」

「イヤよ、そんなの!!」

「そう言われても……。あ、ヤンガスとククールは、どう思う?」

「アッシでがすか?

 そりゃあ、アッシの願いは兄貴の願いと同じに決まってるでげす!!

 ま、願いが叶って旅が終わっちまうのはちょっと淋しいでがすが…」

「ククールは?」

「オレか?

 そうだな…今のところはゼシカに恋の手ほどきをしてやるのが一番の願いか?

 でも、それは誰かに叶えてもらう筋のことじゃあない。

 ああ、そういえば敵討ちってのがあったな。

 ドルマゲスについては、別にどっちでもいいぜ。倒すのが誰でも。

 ゼシカでも、イシュマウリでもさ。

 それよりみんな、キラのこと忘れてないか?

 確か、ここに来たのは、キラの願いを叶えるためだったような気がするんだが……」

「それはそうだけど。

 キラのことも気になるけど、敵討ちと比べれば、当然敵討ちの方が重要よ!」

「うん。確かにキラのことは力になりたいと思うし、実際それでわざわざここまで来た。

 でも、本当に月影の窓があるなら、話は別だ。

 やっぱり、僕はアスカンタよりトロデーンの方が大事だ」

「そりゃ、あんなふぬけの王様より美しい姫君を助けたいってのは男として当然だけどさ?

 あのキラって子も、なかなか可愛い子だったし、暗い顔をさせたままにしておくのはもったいないぜ」

「そういう問題じゃないでしょ!!」

 

 …その後しばらく、月の住人の前で、人の子らの、壮絶な舌戦が繰り広げられたが、なかなか決着がつかない。

 月の住人は、知らん顔でハープなど奏でていたが、そのうち見ていられなくなったらしく、小一時間もたった頃、ようやく口を挟んだ。

 

「なかなか願いがまとまらないようだね。

 しかし、私が君達に叶えられる願いは一つだけ。

 どれ…君達の靴に聞いてみよう……」

 イシュマウリがハープを鳴らすと皆の靴が光り出す。

「ふむ…」

 イシュマウリは何やらしばし考え込んでいた様子だったが、やがて言った。

「…どうやら、ここは、そのキラという子の願いを叶えるのが一番いいようだ。

 さあ。私を城へ。嘆く王のもとへ連れて行っておくれ」

 

★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 こうして、パヴァン王は元気を取り戻し、アスカンタは救われた。

 ディーノ達は、一番の願いが叶えられなかったので、やや残念ではあったが、皆、根はお人好しな性格。

 人々―特にキラが喜んでいるのを見れば、悪い気はしない。

 かくして、彼らは小さな失望と大きな満足を抱えてアスカンタを後にしたのだった。

 

 だが。

 

 実は、イシュマウリは、四人全員の願いを叶えていたのだった。

 

 ドルマゲスを倒したい。

 トロデーンを救いたい。

 キラの願いを叶えてやりたい。

 

 これらの願いは後に、全て叶えられた。

 要所要所で、イシュマウリが陰ながら力を貸した。

 船を復活させたり、神鳥をこちらの世界に招いたり。

 

 そして実は、靴が教えた彼らの願いは、もう一つあった。

 

「兄貴と一緒に長く旅を続けたい」

というヤンガスの秘かな願いである。

 

 無論、この願いも叶えられた。

 おかげで、ディーノ一行は、ドルマゲスを倒すために、随分回り道をさせられる羽目になるのだった…。

 

 

 

2005.12.11

 

 

 

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