ククールの赤い服

 

 ククールは聖堂騎士団に所属し、その制服を身につけているが、それは何故か他のメンバーのものとは異なっている。
 まず、その色。他のメンバーは皆青なのに、ククールだけは真っ赤で、一人だけ僧侶らしからぬ色である。
 次に、形。騎士団員の中で、マルチェロとククールのものだけが、他の団員たちのものと異なる。マルチェロは、騎士団長なので、他の団員と形が違うのもわかるが、ククールの方は謎だ。まさか、あの素行で副団長…というのは考えられないし。

 ククールの服が他の団員達と違うのは何故なのか。ここでは、それについて考えてみたいと思う。

 理由としては、例えば「色は赤か青、形はマント着用タイプとそうでないものの二種類」というふうに、実は制服の形や色は選択の幅がある、というのが考えられる。その場合、ククールの服は、兄とのつながりを持ちたい気持ち(→同じ形)と、反発心(→正反対の色)という複雑な心理の表れだともとれる。…単に、あの形とデザインが気に入っているのかもしれないが。

 しかし、やはりそんな単純なものではなく、ククールの服には、それ相応の理由があるものと推察される。
 なぜなら、あの規律を重んじククールを嫌うマルチェロが、「一人だけ真っ赤」で「よりによって自分と同じ型の服」を認めるはずがないと思うからである。
 そして何より、ククールがいついかなる時もあの服を身につけていることが、何よりの証明だと思う。

 ククールは、あの服を決して脱ごうとはしない。暑くても寒くても、いつも同じ格好である。といって、もちろん、暑さを感じないわけではない。実際、レティシアでも、暑い暑いといいながら、厚着を続けていた。普通、暑ければ脱げばいいと思うところだが、それをしようとはしない。そして、聖堂騎士団を抜けたと宣言した後も、相変わらずあの赤い制服を着続けている。
 …ここまで来ればもう、あの服には何か由来がーそれも、精神的に重要な由来があったとしか思えないではないか。―常に身につけていたいと思わせるような。

 …まあ、特にそんな特別な理由などなくて、「この服だと女性を口説きやすい」「暑いからってレディの前で服を着崩すなんて、ポリシーに反する」…などと思っているだけかもしれないが。しかし、人里離れた所でも、ゼシカが死んでいても、服装に変化がないところをみると、やはり何か特別な理由があってあの服を着続けているのだと思えてくる。

 実はオディロ院長からもらった形見の品だとか。形や色が違うのも、オディロ院長の考えによるもの……と。
 それとも、実はマルチェロのお古を赤く染めたものだとか(∵そのまま着るとマルチェロが嫌がるため)。質素倹約を美徳とする修道院では、団員が着ている服の大半は他の団員のお古、という事情があっても不思議はない。
 あるいは、度々問題行動を起こすククールに業を煮やしたマルチェロが、特別に用意したものだとも考えられる。赤い服なら目立つため、ククールが問題を起こした時すぐにわかるし、修道院の事情に疎い者が相手なら、「あの者は聖堂騎士団員ではない。確かに制服は似ているが、色が違うだろう?」と、言い逃れもできる。そして、ククールとしては、そんな思惑を知りつつも、どんな形であれマルチェロがわざわざ自分のために用意してくれたのが嬉しくて着続けている……と。

 赤い制服の本当の理由は不明だが、ククールが聖堂騎士団を抜けた後もなお、その制服を着続けている理由には、私にはそれなりの確信(正確には、勝手な想像というべきだが)がある。

 聖堂騎士団は、今や訣別した兄との唯一のつながり。それをなくしたくなかったのではないか…と。
 聖堂騎士団を抜けても、その制服を着続けることで、どこかでマルチェロとつながっていられる、という気持ちがあるのかもしれない。
 そしてそれは、もしかしたら、喪服のかわりでもあるのかもしれない。オディロ院長の、そしてマルチェロの。マルチェロはどこかで生きているかもしれないが、ククールが初めて修道院を訪れた日に会った優しいマルチェロは、もういない。
 ククールは意識していないかもしれないが……なんとなく、そんな気がする。

 

 

2005.8.12

 

 

 

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