幻のフローラ

 

 SFC版では、サラボナまで会うことのなかったフローラだが、PS版では少年時代にも会っている。……ならばなぜ、SFC版ではそうしなかったのだろうか?

 また、パッケージを見ると、SFC版では主人公と同じぐらい目立っていたビアンカが、PS版では隅っこに行ってしまい、あまり目立たなくなっている。

 そして。SFCDQ5は、当初、発売日が5月31日にほぼ確定しており、CMなども大々的に流れていた。そのCMでは、幼年時代の二人がレヌール城のはしごをのぼり……頂上付近でビアンカが「あの明りは何かしら?」と言う場面の後、唐突に、薄暗い部屋で、青年になった二人の結婚式……というふうになっており、「大人になって、あの城でビアンカと結婚するんだろう」という予想を抱かせた。それが、いきなりの発売延期。ドラクエの発売延期は毎度のことながら、ここまで確定している発売日の延期、というのはその後も含め、あまりなかったように思う。

 それで、これらのことから思うのだ。当初の予定(5月31日発売のもの)ではフローラの出てこなかったのでは?……と。SFCの時から思っていたが、リメイク版を見るにつけ、ますますその疑惑が強まった。

 ちなみに、5月31日発売予定とされていたもので、もっとも広く公開されていた画面写真は、山岳地帯で空は青空、両脇にすこし白い雲がかかっているーといったものだったと思う。しかし、実際発売されたものでは、戦闘画面において、空はいつも曇っており、雲は風で流れていた。こうしたことも含め、約4ヶ月でかなりの改変がなされたことは間違いない。だが、戦闘画面を変更するためだけに、あそこまで確定した発売日が延期されるだろうか。既にCMも流れ、雑誌のプレゼントにもなっていたというのに。(そういえば、雑誌プレゼント……もし発売日前にもらえるのだとしたら、当たった人は、この「幻のDQ5」を手にしたことにする。それがどういうものだったのか、是非知りたいものだ。)

 「ドラゴンクエストへの道」によると、ドラクエ1の時も、後半の戦闘が単調になるのに気付いて発売日を延期した、というくだりがあったが、むろん、当時ドラクエはまだあまり知られていなかったはずなので、DQ5の方が発売延期の影響は大きいはず。また、DQ1の時は、発売延期といっても一週間だった。こうしたことを考えると、やはり、ストーリー上でも何か大きな変更点があったのではないか、と思えてしまう。

 また、SFC版では、フローラの存在は、まったく耳にしなかった…ように思う。リメイク版では、発売前から結構フローラの存在が取り上げられているのとは対照的である。

 SFC版ではパッケージも含め、ビアンカの扱いが大きいのだが、もしフローラを選んでいたら、「レヌール城と水のリング探し」でしか一緒に行動しなかったビアンカがなぜこれほど前面に出てくるのか不自然に感じたかもしれない。これだけの出番でメインキャラとされるなら、ヘンリーも同じぐらい前面に出てきていいはずだし、当然フローラはもっと出てこなくてはおかしいーということになるはず。その一方で、ビアンカを選べば、フローラとは一度も行動をともにすることなく終わるため、アンディと同程度の印象しか残らず通り過ぎていくことになる。だから、事前にフローラのことが全く取りざたされていなくても、一向に不都合はないのだが……それでもやはり、ビアンカと比べ、選択によってはメインキャラとなりうる人物の扱いが小さいような気はする。

 だが、それも、当初は「フローラと結婚する」という選択肢がなかった、あるいは「フローラ」という人物そのものが存在しなかった、と考えれば納得がいくのだ。

 DQ5では、ストーリ上、途中で結婚する必要が生じるから、結婚は強制的なイベントとなって発生する。当然、結婚する以上は、ある程度好かれるキャラが相手であることが望ましいが、それが幼年時代に一緒に冒険したビアンカであれば、こちらとしても愛着があるし、また話の流れとしても自然のように思える。別に、フローラがいなくても、ストーリー上、なんら不都合はないのだ。(もっとも、別の選択肢があったおかげで、このイベントの印象がより強いものになりはしたと思うが。)

 だがーこれは完全に推測だがーそれでもまだ、「結婚」ということの重大さを鑑みればこれではいけない、と制作者は考えたのではないだろうか。それではただ単に流れに沿って進めているだけ。だが、「結婚」は、もっと能動的になされなければならない。他に選択肢がなかったから、という消極的な理由ではなく、明確な意思をもってその相手を選ばなければならない。他の誰でもない、自らの手で、自分の運命の相手を選び取らなければならない。―だから、フローラという、もうひとつの選択肢を提示した。そんなふうに思う。

 それが事実にせよ違うにせよ、この結婚イベントは、主人公=プレイヤー自身、というドラクエならではのものだったと思う。そして、幻だったかもしれないフローラの存在は、DQ5の名作としての評価を確実に上げていると思うのだ。

 

 

 

2004.3.31

 

 

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